新たな誓い
柊刻矢は平日であるにもかかわらず、昼間になっても猫のクロエと一緒に自室のベッドで寝転がっていた。何故ならば、イマジナリゼロに到達したのは良いが、クロスを倒してから数日経っても未だにその疲労が残っているからだ。
病院での検査で、イマジナリゼロを使う事で懸念されていた脳への悪影響が無い事は判明した。
しかし、それでも肉体に相当付加が掛かっていたらしく、未だに杖を使わないとまっすぐ歩けない状況だ。悠翔の力をもってしても回復しなかったため、現在は寂しく自宅で療養している。イマジナリゼロの力は諸刃の剣だったらしい。
しばらくはハイパーコード・オンを封印しよう。刻矢はそう心に誓った。
姫陽によるとあれから星神町からセフィロト社の支社が撤退し、新たなナイトメアが出現する事は無くなったという。それでもまだあの日の生き残りが居るらしく、戦力を全て投入しても未だに倒す事が出来ていないらしい。
刻矢はクロエを撫でつつ暇だと考える。クロエも刻矢に擦り寄ってくるが、ノエルが彼方と共に西区へ帰ってしまったため寂しいらしい。いつも西区に向いて鳴いているため、刻矢は嫌でも解ってしまう。
父親の未弦も、刻矢と姫陽が到達した新たな理論を実践するべくまた旅に出てしまった。少しはゆっくりしていけば良いのにと思いつつも、ぶらぶらする方があいつらしいかと刻矢は考え直す。
「さて、どうしようかクロエ」
刻矢がクロエの頭を撫でると、クロエは尻尾を立てながら軽く鳴く。本当は刻矢と一緒に遊びたいのだが、無理をさせてはいけないと解っているためいつも側に居る。
やはり、星神町は平和だと刻矢は思う。町にナイトメアが居たとは思えないほどだ。
もし全てが終わったら、またクロエと一緒に旅をしたいなと刻矢は考え再び寝る事にした。
「――さん。兄さん起きてください」
「刻矢、起きなさいってば」
刻矢が良く知っている少女達の目覚めると、まず黒のサイハイソックスに包まれた足が目に映った。更に起き上がると、ブレザー姿の姫陽と麗那がベッドの上で座っている事に気付く。
「もう帰ってきたのか」
「はい、兄さんが心配で」
「これお見舞いね」
「すまない」
麗那が刻矢の部屋にある小型冷蔵庫に、差し入れのフルーツ詰め合わせを入れていく。刻矢は彼女達の平和な光景に思わず笑っていた。まさか、最近まで一緒に戦っていたとは夢にも思わないだろうと。
「それはそうと兄さん。ゴールデンウィークはどうするのですか?」
「ゴールデンウィーク? 何だそれは?」
「え、マジで言ってるの?」
刻矢はゴールデンウィークという言葉を知らなかった。何故ならば、テスト以外の出席が免除される特待生の権利で旅をしてきたため、逆に日本のどうでも良い事に対し疎くなってしまったからだ。
そもそも、ゴールデンウィークとは日本の祝日が集まっている部分のため、外国では一般常識では無い。だからこそ刻矢は、日本のカルチャーショックを受けてしまった。
姫陽と麗那の二人が、刻矢に丁寧かつ優しくゴールデンウィークという概念を説明する。
「理解した。やるとするならば里帰りかな」
「珍しいですね。旅じゃないんです?」
「まだその時じゃない。セフィロト社の本社が残っている」
「まだあいつらに挑むの? 付き合うけどさ」
クロエも自分を忘れるなと言わんばかりに、鳴いたり跳ねたりして激しく自己主張する。
それを見た姫陽が右手を差し出す。どうやら重ねろという意味らしい。二人と一匹が姫陽に手を重ねていく。
「打倒セフィロト社を目指しましょう」
「そうね。あたしもあそこ嫌いだし」
「今錐彦と陸人、ユウは居ないがまあ良いだろう。セフィロト社を潰すぞ」
刻矢の言葉を合図に、全員が一気に重ねた手を振り下ろす。来るべき時のために、三人はセフィロト社を倒す事を誓った。




