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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
55/104

進化する覇王

「カラドリウスの姿、最初に戦った時とは違うな」

「お前のお陰だユウ。お前が居なければ、この力に到達出来なかった」

「そうか」

 フェニックスに変身した悠翔が掌から真紅の炎の球を投げ付けてくるが、刻矢は避けようともせず受ける。炎は燃え広がり、カラドリウスとしての身体を灰になるまで焼き尽くそうとする。

「な、何故避けなかった!? わざと陸人達には当たらない様に撃ったんだぞ!?」

 悠翔が刻矢の不可解な行動に思わず動揺してしまう。刻矢が自分の攻撃を避ける事。そして、ナイトメアとしての命を終わらせてくれる事に期待していたからだ。

 しかし、刻矢は力無く笑う。最初から悠翔と戦いたくなかったと言わんばかりに。悠翔と同じく幕引きを望んでいたかの様に。

「出来るわけ無いだろ……お前を殺す事なんて、出来るわけがないじゃないか」

 刻矢が悲しそうに笑いながら倒れる。悠翔の炎をセフィロト社に利用された悲しみとして受け止めながら。自らの命で終わらせようとしていた。

「嫌だ……そんな、トキ! 早くカラドリウスの力を使え! このままだと本当に死んでしまう!」

「これが俺の望みだ。本当は誰も恨まない、誰も悲しまない世界を見たかったけどな……」

 悠翔は刻矢が笑った様な気がした。親友を助けるべく、手で必死に火を消そうとするが消えない。刻矢の命をろうそくの様に燃やしていく。

 刻矢が朝の空にゆっくりと手を伸ばしていく。まるで、アフガニスタンでの最期を思い出すかの様に。カラドリウスを構成する白い粒子を身体中から出しながらも、それでも刻矢は青空に向かって手を伸ばす。

「またな、ユウ」

 この言葉を最期に、カラドリウス――柊刻矢の身体は完全に消滅した。形見代わりに燃え残ったアヌビスの首飾りだけを残して。

「俺は、俺はこんな悲しみをトキに押し付けるつもりだったのか? 嫌だ……俺はこんな結末、望んでなんかいなかったのに! トキ、許してくれ……」

 悠翔は激しく後悔した。友として刻矢を支えていれば。刻矢みたいにセフィロト社に抗う心があれば、結末は変わっていたかも知れないのにと。

 陸人を始め、陸人の仲間達も涙を流す。ナイトメア化しても、その力を他人のために使おうとした男を失ってしまった。

 しかし、妹の姫陽だけは笑っていた。

「兄さんはまだ死んでませんよ」

 姫陽はアヌビスの首飾りを拾い、すすを払ってから自分の首に掛ける。

「だって、この首飾りこそが正真正銘兄さんの本体ですから」

「何をいっているんだヒナ? それがトキだと?」

 悠翔が変身を解除し姫陽を見上げる。対する姫陽は、見せびらかす様に意地悪な笑顔でアヌビスの首飾りを持って振る。

 陸人達も理解出来ないと言わんばかりに互いを見つめ合っている。

「兄さんがナイトメアだと知ってから、その戦闘を錐彦さんから聞いた事があってずっと疑問に思っていた事があったのです」

「疑問だと?」

 陸人が不満そうに聞く。実の兄が目の前で殺されたにもかかわらず、笑顔でいられる姫陽の心が理解出来なかったからだ。

「最初の疑問はナイトメアとしての願いです。錐彦さんの話を聞いて、生き返りたかった事は理解していました。けど、その理由が兄さんから明かされるまで解りませんでした」

 姫陽が得意気にかつ饒舌に語り始める。兄を失ったショックから狂った様にも見える。

 だが、姫陽の言葉を聞いていた悠翔は知っていた。姫陽は理論を基に裏付けし動くタイプの人間だった事を。可愛く見えて実は打算的な悪女。彼女は恐らく、最初からこうなる様に刻矢へ吹き込んだのだろう。

「そして、錐彦さんから聞いて解らない事がもう一つ生まれました。兄さんは何故カラドリウスでなければいけなかったのか。それこそ、不死身の存在なんて幾らでもいるのに、何でわざわざ人の苦しみや病魔を吸い取るカラドリウスになったのか」

「苦しみや……病魔を吸い取る?」

 悠翔は刻矢の願いを本人から聞いたため、姫陽の言うカラドリウスの能力に疑問を感じていた。生きて帰るため願いのハズなのに、何でわざわざ下手すれば早く自滅しかねない物をモチーフにしたのか。ダメージを吸い取り続ければただでは済まないのに。

「答えは簡単です。恐らく、兄さんは最期に本能的に強く生を欲したからです。より確実な方法で。死ぬのではなく、生まれ変わるという方法で」

 姫陽は更に続ける。

「カラドリウスは治る見込みのある人の病を見るだけで治し、胸にあるアヌビスのマークの袋に溜め込むと伝えられている聖鳥です。そして、限界まで溜め込んだ時初めて卵となるとされています」

 姫陽が後は解りますよねと言わんばかりに、アヌビスのマークが彫られた首飾りを見せびらかす。

 姫陽の言葉に全員が驚愕する。まさか本人が無自覚だったとはいえ、そんなコードを生み出していたとは思わなかった。

「まさか、わざと炎を受けたのも――」

「自分自身の痛みでより強いカラドリウスへと生まれ変わるためです。そうしないと、クロスさんを血祭りにあげられませんからね」

 刻矢は悠翔を倒すつもりなど無かった。最初からクロスを倒す事を前提に行動していたのだ。刻矢は姫陽という愛らしい悪魔の言葉を信じた事よって、更なる化け物へと変貌を遂げようとしているらしい。

 何処まで計算ずくで考えてやがる。悠翔は心の中でそう思っていた。愛すべき実の兄に、生まれ変わるために死を提案するなんて狂っていると。

 それに加え、姫陽が他人のナイトメアコードの本質について熟知しているとは誰も思っていなかった。まるで自分の物の様に知っている。実の兄妹だという事を差し引いたとしても皆が恐ろしさを感じていた。

「さて、そろそろ麗那さんと錐彦さんが帰ってくる頃ですかね。時間稼ぎは大体出来たでしょう」

「時間稼ぎ? おい、姫まさか――」

「錐彦さんと考えた作戦です。後は兄さんの孵化を待つだけですね」

 陸人が一瞬呆れた表情をし遂に笑い始める。正直姫陽の事を一番の戦力外だと考えていたが、実際にふたを開けると破滅覚悟の策士でありトリックスターだった。

 こんな狂った危険人物を今まで側に置いていたのかと考えるだけで、陸人は刻矢の事を不憫に思った。

 空間にヒビが入り、中から麗那と錐彦。更には十字架の数が二十以下になったクロスが現れる。

「姫陽ちゃん準備は?」

「ほぼ完了です。あ、ヒビが入りました」

 アヌビスの首飾りが頂点からヒビ割れる。ヒビは更に拡がっていき、遂には全体に達し目映いばかりの白い光を放つ。

 姫陽は首飾りを外すと、麗那達が居る方向へ放り投げた。光が更に強くなり、金属が砕ける音が響き渡る。

 首飾りを投げた方向には、死んだハズの柊刻矢が立っていた。服も何もかもが元通りだが、今までの刻矢とは何かが違った。何か大きな存在になったとたとえるしか無いくらいに、彼が立っているだけで強大さが感じられる。

「あんた、刻矢……なの?」

 麗那も目の前の男を一瞬別人かと思ってしまったが、良く見るとやはり幼馴染みの柊刻矢だ。

「麗那、錐彦は下がってろ。後は俺がやる」

 刻矢の声は驚くほどに穏やかだった。津波が来る前の静けさにも似ており、それだけで今までの刻矢を知っている者達は恐怖する。

 麗那と錐彦は言われた通りに離れ刻矢を見守る。

「また性懲りも無くリターンマッチですか。呆れたお猿さんですねえ」

「あの時とは違うさ。大切な妹と親友のお陰で、俺は更なるステージへ進む。クロス、お前と出会えて良かったよ。ユウ、陸人ゴメンな。いつか埋め合わせはする」

「トキ……」

「刻矢……」

 陸人と悠翔に詫びると、刻矢は両手を横にスライドさせる。すると、『Caladrius』・『imaginary number』・『ZERO』のコードを一気に出現させる。それぞれが激しく輝き辺りを光で塗り潰していく。

 イマジナリコードが『i』を模した鍵に、ゼロコードが立体感のある金色の楕円形に変化する。刻矢は楕円形の物を腰にかざすとベルトが伸び、楕円形は両側にグリップの付いたベルトのバックルになる。

 刻矢は一度両側のグリップを左右に引っ張ってバックルを開き、空中で制止している鍵を右手で掴む。

 そしてカラドリウスコードが鍵に収束していき、刻矢は鍵を握り締めつつ前に構える。

「何のハッタリですか?」

 クロスが刻矢を嘲笑う。しかし、もう刻矢にクロスの言葉など届いていなかった。

 鍵の先端が変化し、腕を純白の輝きで包み込んでいく。同時に刻矢の背中からも、翼に似た二対の白い光が強く噴射される。

「いくぞ――ハイパーコード・オン!」

 刻矢が開いたバックルに鍵を挿し込み回すと、世界は刻矢を中心に白い光に塗り潰された。


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