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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
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絆の力

 刻矢は入口に居たボディーガード二人に案内され、神宮寺家の屋敷を歩いていた。廊下には高価そうな壺や絵画等が飾られており、視覚的に客を飽きさせない様になっている。

「で、ここの当主がわざわざ呼び出したのは?」

「恐らく、ディエス・イレとの接触が原因かと」

 ボディーガードの一人が刻矢の疑問に対し簡潔に答える。

 刻矢はふーんと言いつつ考える。

「そこまで知ってて対策組織に入っていたとは、どうやら腹に何か抱えているらしいな」

「柊博士が家督を譲った理由が何となく解った気がします。では、こちらの部屋へどうぞ。当主様と柊博士が待っています」

 ボディーガードの一人が二回ドアをノックする。中からどうぞと声がしたため、ドアを開けて刻矢に入る様に促す。

 刻矢は開いてすぐ堂々と歩きながら部屋へ入ると、そこには父の未弦と当主の神宮寺英理がソファに座っていた。

「久し振り刻矢君。柊家当主こなしてる? ああ、席は何処に着いても構わないわよ」

 PCのキーボードを操作している知的な雰囲気なキャリアウーマン風の女性が、刻矢に対し気さくに声を掛けてくる。

 父親の座っているソファでわざと父を押して中央に座り、神宮寺英理の顔を正面に捉える。

「まだ至らない所がある。どっかの誰かさんのお陰でな」

 刻矢が先代当主だった父親を睨むと、父の未弦は口笛を吹いてごまかそうとする。

 刻矢は未弦に、「旅に出るから家の事よろしく!」と言われあの屋敷ごと無理矢理家督を譲られた。

 旅人だった刻矢にとっては迷惑以外の何物でもなく、定期的に家へ帰る事になり旅の時間が減ったという恨みがある。

 もっとも、姫陽達が歓迎してくれたためたまには悪くないと考える様にもなったが。

「それは酷いわね。まあ、今はあなたとこの酷い男の力を借りないとまずい状況なのよ」

「どこが酷いって?」

「あなたの放浪癖よ。まだ姫陽ちゃんの授業参観と聞いてやって来る、刻矢と彼方がちゃんとした家族だと思えるほどに」

 英理の言葉が相当堪えたらしく、未弦が激しく落ち込んでいく。

「ところで刻矢君。未弦からイマジナリゼロって言葉聞いた事あるかしら?」

 いきなり聞きたかった事について尋ねられ、刻矢の心臓が激しく高鳴っていく。

 聞いた事があるも何も、刻矢が一番知りたかった力だ。クロスには傷一つ付けられないまま敗北し、悠翔も結果的に敵対してしまった。

 ならば、二度と大切な物を手放さない力が欲しい。記憶を取り戻した以上、大切な物は理解している。

 後は、その意志を貫き実行出来るだけの力が欲しい。刻矢は強く願っていた。

「あるさ。そして、その発動法も。イマジナリコードとゼロコードを同時に使う、人間では不可能とされている理論だろ?」

「ええ、そうね。でも、それだけではたどり着けない。あなたなら、あなただからこそあの理論にたどり着けると私は信じてるわ」

 英理が真剣な眼差しで刻矢を見つめる。刻矢は意味が解らなかった。他にも発動条件があるらしいという事は既に未弦から聞いている。

 ただ、刻矢はその理論にたどり着くために必要な物を知らない。

 しかし、英理は刻矢だからこそ可能だと言う。元々理論にたどり着く条件を満たしているのか。あるいは、条件に一番近いのかも解らない。

「刻矢君。この世界はどう思うかしら?」

「セフィロト社に支配された世界だ。人は奴らによって増やされた犠牲と隠蔽によって与えられた幸福を信じて疑わない」

「確かにそうね。でも、本当にそれだけが今の世界かしらね?」

 刻矢は英理の言葉に疑問を持つ。セフィロト社は間違いなく敵だ。現にナイトメアコードや兵器、対策組織まで作っている。

 それなのに、英理はまるで刻矢の言葉を一部否定しているかの様だ。

 今まで旅をしつつ戦ってきた刻矢にとって、英理の言葉は予想外だった。

「世界が支配されているのなら、どうしてあなたという良心は消えてないのかしら?」

「良心?」

「あなたが出会ったナイトメア達は全て悪なのかしら?」

「そんな事はない。たとえ最初は敵だったとしても、何度も戦って解り合ってきた!」

「それがあなたのイマジナリゼロに対する答えよ」

 イマジナリゼロの答え。既に持っていたと言われるが、刻矢にはまるで理解出来ない。

 英理に言った通り、刻矢は敵だったとしても解り合ってきた。ナイトメアと戦う度に、何度も解り合う方法を模索してきた。

 だからこそ、刻矢には世界中に友達がいる。かつてナイトメアだった者やその被害者。更には趣味や話が合った人達まで。刻矢はそんな彼等を誇りに思っていた。

 ここまで考えた瞬間、刻矢はある考えに至る。

「まさか、イマジナリゼロに至る方法は――」

「そう、あなたを原点として今まで出会い結ばれた人達の絆。人間の善と悪を正しく観測しわかり合えたあなただからこそ使えるのよ」

「そうか、プラスやマイナスに加え、あらゆる数字になれるイマジナリコード。更に全ての原点になりうるゼロコード。この二つは人の心と俺自身の象徴か。ならば、この二つを絆で束ねれば……!」

「ただ、問題はお前が絆で束ねている想いを受けきれるかどうかだ」

 つまり、イマジナリゼロに至るためには全てを受け入れなければならない。

 刻矢という一人の人間に複数の人間の想いを収束する。普通ならば廃人になるレベルだ。彼方が危険視した理由を刻矢は今になって理解した。

 イマジナリゼロは予想以上に危険な力だった。死体から変化したナイトメアだから肉体が保つとかそういう話ではない。使うだけでも柊刻矢という心その物が壊れかねない禁断の力だった。

「受け入れられるさ俺なら。たとえどんな奴だろうと関係無い。あいつらと同じく俺の誇りだ」

「じゃあ、コードの本質へ片足踏み込んだお前にプレゼントだ」

 未弦がテーブルに右手をかざすと、眩いばかりに輝く金色の文字で『ZERO』と書かれたコードが出現する。

「ゼロ――コード」

 刻矢が右手でコードを掴むと収束し、数字の『0』の形をした掌より一回り大きい物体に変化する。表は少し盛り上がっており、裏が平らになっている事が特徴だ。

「使う時は腰にセットするだけで良い。ただ、変身手順が更にややこしくなっているから注意しろ。まあ、本当にイマジナリゼロへ到達してるなら解るハズだけど」

「了解だ。じゃあ、学区にたくさん居るらしいナイトメア退治に行ってくる」

「何ですって!? それ本当!?」

「敵の情報だが、確かめてみる価値はある」

 英理の言葉に対し冷静に返すと、刻矢は屋敷から出ようとする。

 しかし、未弦は手で刻矢を掴んで止める。

「イマジナリゼロを幹部以外には絶対に使うな」

「約束する」

 刻矢はそれだけ言うと、神宮寺家を後にした。


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