Secret end・禁断の果実
天宮学園高等部の実験室で、白衣を着て何かの研究をしている五人の生徒が居た。一人を除き全員がフラスコの中の赤い石を食い入る様に見ていおり、残りの一人は自信満々な表情で胸を張っている。石その物がフラスコの中で心臓の様に脈動している。
「ねえみい君これなあに?」
人形の様に可愛らしい少女が首をかしげつつ、自慢げに石を見せびらかしているカウボーイハットがトレードマークの男子生徒に尋ねる。
「これはな彼方、そーだなあ……半永久ダイナモと名付けよう!」
「今決めたの!?」
気が強そうなお嬢様風の少女がカウボーイ男――柊未弦の気紛れな発言に驚く。副部長である彼自身が凄い物を発明したと科学部全員聞いたため何事かと来てみれば、まさか呼び出しておいて発明した物の名前を決めてないという。
「で、この半永久なんたらは何をするための物なんです未弦先ぱ――副部長?」
全身にシルバーアクセサリーを身に付けた男が未弦に尋ねると、欧米人の学者肌の美少年が人差し指を振りながらあきれ始める。
「バカか龍治。半永久ダイナモとか言うんだから、半永久的に発電する物に決まってるだろう。そうだろ未弦?」
彼の言葉で龍治と呼ばれた男がふてくされる。今はまだ来ていない部長の話を聞くならばともかく、副部長の未弦の気紛れにまた付き合わされたあげくバカ呼ばわりされて気に食わないからだ。それに気付いたのか、女子二人が可愛い弟分である龍治の頭を撫で始める。
「まあ、クリスの言葉通りの物だな。化石燃料どころかレアメタルすら使ってない新たな発電方法だ」
「化石燃料やレアメタルすらも使ってない!? 流石の私もそんな方法を知らないぞ!? また柊理事長に入れ知恵でもされたのか?」
クリスが未弦の発明である半永久ダイナモをあり得ない物と言わんばかりに凝視する。化石燃料や自然発電でも永久ではないのに、彼が未知なる物――もはやオーバーテクノロジーと呼べる物を作り上げてしまった事に気付いたからだ。
「いや、今回は親父の力は借りてないぞ。ちょっとある場所へ旅をしてきてヒントを得た。世界って広いんだなあと改めて実感したな。それにしても部長おせーなあ……」
「いやあ、ゴメンゴメン! ちょっとオカ研の資料見てたらすっかり遅くなって!」
穏やかそうな声の主が、慌てた口調と足音で実験室に入ってくる。ドアの近くで息をきらしている男は夕暮れの光で顔が良く見えないが、部屋に居る五人は声の主の正体が解っているらしく待ってたと言う様に笑顔を見せる。
「遅いよアル君」
「ホントゴメンってば!」
「じゃあ部長、全員分クレープおごってくださいねー」
「やりい!」
「未弦も龍治も私に容赦ないなあ」
声の主が困った口調で本気で落ち込み始める。流石に可哀想だと思ったのか、全員で部長である彼を慰める。
「そういえば、私に見せたい物って?」
「ああ、それは――」
学生時代の事を思い出しつつ、星神町の南区にある港で柊未弦は一人考えていた。ある技術を参考にして生み出した半永久ダイナモとコード。あの楽しかった思い出の日々が何故悲劇になってしまったのか。そもそも“あの日クリフトファーに入れ知恵をしたのは誰か”が今まで解らなかった。
未弦はクリフトファーとインフィニティコード、ネオ達だけでは世界中にコードをばらまく事は不可能だっただろうと考える。インフィニティコードを封印している間、クリストファーが一人でやったにしては拡がり方が早すぎるからだ。
半永久ダイナモとコードの性質を完璧に知っていてなおかつ身近に居た存在。クリストファーと父の輪廻以外で未弦は心当たりがあったものの、“彼”も加担したという事が信じられなかった。何故ならば、“彼”はクリストファーがコードを彼方に植え付け暴走させる数週間前に行方不明になった。まるで存在その物が地球上から消えたかの様に。二十年以上経った今でも未だに死体すら発見されていない。
「あの野郎、生きてやがったのか……!」
未弦の口から吐き出された言葉には憎しみがこもっていた。普段のふざけた口調は何処にも無く、それは父親としての物ですらない。愛する女性や親友だけでなく、世界単位で多くの人間を平気で利用した男に対する明確な敵意だ。
「科学だけでなくオカルトや世界の物語にも精通していたあの男の本性に何故今まで気付けなかった!? セフィロト社の幹部ディエス・イレ。所属していた“十体”のジェネシスナイトメアのモチーフとコードの色。おまけに刻矢の急激な進化とコードの色の変化。くそ、全部あいつの計画通りってわけかよ。何処までイカれてやがる」
未弦が怒りに震える。まだあの日の悪夢は終わっていない。息子の刻矢がようやく止めたコードによる悲劇の連鎖は、世界すらも大きく変え滅ぼしかねない福音の始まりでもあった。未弦自身、今更それに気付いた事に苛立ちを感じ始める。
「刻矢達やコードを利用して“あれ”を創ったのか。まずい、早く知らせないと手遅れに――」




