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ディスペル  作者: SIN


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行きかた

 バサァ。

 大きく羽ばたく音がして目を開けると、目の前にはラミアがいて、ポチ達がいて、いつの間にかルシファーまでいた。

 皆の事が分かるって事は、記憶が食べられていない証拠だ。しかも闇に染まる原因となったエドの事も、ちゃんと覚えてる。

 「少し羽が立派になったね」

 正面に立つラミアがそう言って俺の後ろを見ている。だから俺も振り向いて自分の羽を見たんだけど、本当に少しだけ大きくなっているだけだった。

 これじゃあさっきまでの自分とそう大して変わらない。

 「羽は元々小さかったんだね……もう少し立派になれると思ったんだけどな」

 こんな中途半端な姿で大丈夫かな?でも、これが元々俺の姿なんだから、どうしようもない。今から少しトレーニングでもする?

 そんな時間、ないけどさ。

 「100年分時間を奪われて、同じ姿って方が異常だよ」

 ラミアはそう言って楽しそうに笑っている。

 闇に染まる原因を覚えていると言うのに、今の俺からは闇の気配が出ていないんだろう。

 天使になったから?それともエドを助ける為の1歩を踏み出せたから?

 「ありがとう。ちょっと飛ぶ練習してくるね」

 微笑むラミアに微笑み返し、窓から外に飛び出した。

 着いて来たのはピヨとルシファーの2人だけ。

 多少羽が大きくなったとは言え、飛んでいる感覚は全く変わらないから、飛ぶ練習なんか必要ないのに、それでも大きく羽ばたいて只管に上を目指す。

 エンゼルンも、魂を導きに来る天使も、最後は高く、高く飛び上がって消えて行く。だから、俺も同じように上に、上に……。

 雲が下に見えた所で1度大きく羽ばたいてその場に止まった。

 「天界の行き方、教えて」

 天使になって上を目指せば天界が見えるようになっている、とか単純に思ってたのに、何もないから聞くしかない。それなのに2人は、

 「え……?」

 と、顔を見合わせるばかりだ。

 「俺はもう天使だ。天使が天界に行けない理由は何?」

 リセットしてないから?

 一旦人間になってしまったら天界から切り離されてしまうのだろうか?

 だとしても、ここまで来たんだから引き下がらない。誰も教えてくれないなら、エンゼルンを呼んで聞き出すだけだ!

 「俺は天界になんて行けませんよ…」

 そう言って俯いたルシファーと、黙秘を続けるピヨ。なら、俺の目的をちゃんと伝えよう。ここまで何の説明もなく来ちゃったもんね…。

 そう思うと、また自分が嫌になった。

 自分の事しか考えていなかった事を後悔したばかりだっていうのに、また同じように皆を振り回している。

 説明も何もなく、とんでもない事をしようとしている。

 「天使の長がいる所に行きたいんだ」

 パッと顔を上げて俺を見る2人は、驚き過ぎでもしたのか口が半開きで、瞬きすらしない。そんなに可笑しな事を言ったという認識ではなかったんだけど、どうやら2人の中ではとんでもない事だったようだ。

 「会ってどうするのですか!?」

 そんなにも綺麗に声が裏返るんだから、余程だ。俺って天使の長と仲が悪かったのかも知れない。

 天使は魂を導く為、蘇りの魂を確実に導く為に聖水を持ってやって来るんだよね?実際エンゼルンがそうだ。

 町の中に住んでいる俺達の所に来るには、当然町の中に入って来なきゃならない。人は天使に対しても敵意を持っているから、1人でも“魔法石”を持っている人がいたら攻撃を受ける事になる。

 そんなリスクを犯してまでやって来ても、結局は聖水を飲ませるまでは何度も何度も来なきゃならない……。

 蘇りが出ないようになれば、天使が無駄に傷付く事もなくなる。それは天使の長からしてみたら最も喜ばしい事だと思う。

 蘇る“奪う者”は極僅かしかいないから、現存している蘇りは俺達だけだろう。他にいたとしてもエンゼルンが聖水を飲ませている筈だ。

 半分魔物の姿をしている上に、記憶もなくて友の事すら忘れている、そんな状態でまともに戦えるだろうか?徐々に元の姿に戻るけど、全回復する間は何処に?

 俺達はサクリアのお陰で住む場所にも、食べる物にも困らなかったし、生前の恭治から“奪う者”についての詳しい説明を聞いて友の事を知った。

 本当に運が良かったんだ。

 「蘇りのメカニズムが分かった、それは物凄い土産話になると思わない?」

 天使が長年追い続けてきた謎なんでしょ?その答えが分かったんだから土産話所の騒ぎじゃないかも知れない。

 そうでしょ?

 2人はまた顔を見合わせながら黙り込み、俺と目を合わせないように俯いた。

 以前の俺がどんな天使だったのかは分からないけど、今の俺には天使の記憶はないから天使の長と喧嘩したりしない。天界なんだから周りにはいっぱい兵士とかがいるんだよね?流石にその状態で喧嘩しちゃ駄目って事も分かってるよ。

 「さ、案内して」

 無理矢理にピヨの視界に入るように飛んで、ニコリと笑って見せても一向に案内してくれる様子がない。

 早くして欲しいのに、と少しだけ焦ると同時、折角治まっていた嫌な感じが胸の奥の方から沸々と込み上げて来るのが分かった。

 闇に、染まりかけている。

 ここまで来て、ここまでやって落ちてたまるか!

 そうやって決意を新たにした所で、次々と焦りの感情が出て来るから、嫌な感じが深くなるばかり。

 ねぇ、ルシファー、ピヨ。

 俺を天使の長に案内するのと、俺が魔界に落ちてただの餌になるのと、どっちが良いの?

 視界の下から黒く染まり、どう言う事か怒りも、恐怖も、焦りも消え始める。それだけじゃない、どうして焦っていたのかさえ良く分からなくなってきた。

 エドを助けたい?もう手遅れじゃないか。

 皆の願いを?俺は何様だ?

 はぁ、こんな事ならさっさと聖水を飲んで何もかもをリセットするんだったな……いや、闇に落ちて餌になれば、どの道リセットか。

 目を閉じているのか、開けているのかも分からなくなった時、強く手を握られて、その瞬間に眩しいほど鮮やかな世界が戻った。

 そんなキラキラとした世界の中、俺の目の前にいるピヨは申し訳なさそうに目を伏せ言った。

 「あの…天界への戻り方は貴方が知っているので、俺は教えられていません……」

 と。

 えっと……え?

 はい!?


挿絵(By みてみん)

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