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ディスペル  作者: SIN


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天界

 ピヨまで天界の戻り方を知らないなんて思っても見なかった俺は、上空でしばらく唖然としていた。

 あまりにも気が抜けてしまったからなのか、焦りとかも出て来なくて、闇の気配すら引っ込んでしまったほど。

 屋敷に戻ってポチとペペにも聞いてみた方が?でも3人がかりで、いや、4人がかりで「行かせない」とか言われたら今度こそ闇に落ちてしまいそうだ…そうにはならなくても、記憶はラミアに食べられるだろう。

 カフラの包帯グルグル巻きを食らってしまったら逃げ出せないし、恭治にマークされたら振り切る自信がない。

 屋敷にいると、天使の俺を警戒したディルクのストレスにもなってしまうだろう…エドがいない理由をサクリアに聞かれたら…。

 今、この場所で解決するしかない!

 何処かに魂を導きにやって来た天使がいれば…あ。

 「エンゼルンに聞こう!」

 まずは来てもらわない事には始まらないから、何度か名前を呼ぼうと大きく息を吸った時だった。

 「どうしましたの?」

 何処からともなく本人がヌッと出てきた。

 「出たぁー!」

 失礼だって分かってても、叫んじゃうよね。

 ビックリしている場合じゃない、しっかりしないと!

 「ごきげんよう、キリク。ルシファー…サタナエル」

 エンゼルンは丁寧に頭を下げながら挨拶してくるから、俺は思いがけずにピヨの本名を知る事が出来てしまった。

 本当に、元は天使だったんだなぁ…しかもこうして頭を下げられているんだから、結構偉い天使だったんじゃないの?

 人間になった俺について来たせいでピヨも天界に帰れなくなって…あれ?天界への帰り道が分からないなら、聖水を飲んだ後の俺の魂をどうやって導くつもりだったんだろう?まさか、全員で聖水を?でもピヨ達は蘇りじゃない…んだよね?

 え?違うよね?え…分からない。知らない…。

 「…エンゼルン。俺を天使長の所に連れて行って欲しいんだ…頼めるかな?」

 エンゼルンは俺ではなく、ルシファーに注目しつつも困った表情を浮かべている。だからまた新しい事が分かった。俺より、ルシファーの方が偉かったんだ。そんな天使を俺は“黒き悪魔”にしてしまった。

 「この方を…頼む…」

 フワッと大きく羽ばたいて俺を包み込む天使の羽、促されるように進むと真っ白な扉が見えて、扉を潜ると途端に足の裏に地面の感触がした。

 恐る恐るその地面に立つと意外としっかりした強度があって…天界って雲の上か何かだと思ってたから、もっとフワフワしてると思ってたよ。

 振り返るとドアがゆっくりと閉まり始めていて、その隙間からはこっちを見ているルシファーとピヨの姿が見えた。

 エンゼルンは2人の姿が完全に見えなくなるまで跪いたまま顔を上げようとせず、バタンとドアの閉まる音が響いてからやっと立ち上がった。

 「こちらへ」

 案内されるがまま歩き、建物の中へ。

 もっとあちらこちらに天使がいると思っていたのに、建物内は静かで廊下を歩いているのは俺とエンゼルンしかいない。だから、少しだけルシファーについて尋ねようと思ったのに、何をどう聞いて良いのか分からない。

 出会った頃、エンゼルンは俺達蘇りに対しても、ルシファーに対しても憎しみを持っていたし、確実に昇天させてやるって意思があった。それでも直接顔を合わせた時、エンゼルンはルシファーを“貴方”と呼んだ。

 相当、慕っていた証拠だと思った。今さっきだってエンゼルンは最終的な判断をルシファーに仰ぎ、従ったんだから、今でも信頼は厚いのかも知れない。

 「ここですわ。私は…これで失礼します」

 え?

 「行っちゃうの?」

 「話があるのは貴方。私じゃありませんもの」

 いや、だからって…。

 部屋の中には天使長以外にも沢山の天使がいるんだろうけど、得体の知れない元天使をそのまま長に合わせて良いの?

 良いからここまで案内された訳なんだろうけど…それでもちょっと無用心じゃない?

 頭を下げたエンゼルンは、本当にそのまま行ってしまった。

 こんな所で1人にされるとは思ってなかったよ。だけど、大事な話があるんだ、立ち止まってられない!

 コンコン。

 ノックをしてみるが、中からの返事はない。だけど無音と言う訳ではなくて、一瞬だけザワッと聞こえた。

 入っても良いのだろうか?

 良く分からないので、もう1度ノックをしてみると、再び聞こえたザワツキ。今度は少しだけ長めに聞こえた気がする。と言っても一瞬だった事には変わりない。

 コンコン。

 3回目のノックの後、俺はドアノブに手をかけ、

 「失礼します」

 と、中に入った。

 部屋の中は思った以上に広くて、部屋の端にはなんだか位の高そうな天使が武器を手にずらりと並んでいる。

 ノックの後に聞こえてきたザワツキは、ここにいる天使達が武器を手に取った音だったのだろう。

 不審者が急にやって来たんだから、天使達のこの行動は完全に正しいと言うのに、俺の顔を確認した何人かの天使は武器を納めてしまった。

 それとは別に、俺の顔を確認した後、更に激しく警戒心を表して身構える天使もいて。

 両極端な反応を見せる天使達に困惑しながら部屋の奥を見ると、そこには目を大きく見開いた天使が1人、コッチを見ていた。


挿絵(By みてみん)

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