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ディスペル  作者: SIN


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69/122

毒か薬か

 ここは薬屋。

 カウンターがあって、大勢の人が列を成している。

 「解毒剤をくれ!」

 「こっちは5つだ!」

 カウンターの向こうには忙しそうに解毒剤を売っている両親の姿。

 両親は共に薬師で、町で小さな薬屋を営んでいた。その店に解毒剤を求める人が押し寄せている。

 慌しい店の中、邪魔をしないように隅に座っていると、1人の医者が勢い良く入ってきてこう言った。

 「コレは毒草による中毒、町の井戸を調べたが全ての箇所が汚染されていた」

 井戸の水を飲まないようにと注意を促して帰っていった医者、すると店内にいた町人が俺を指差し…。

 「コイツが井戸に何かを入れているのを見たぞっ!」

 俺は確かに父さんに言われて薬を入れた…まさかアレは毒?だけど父さんは言ったんだ、笑顔で言ったんだよ?

 「違う、あれは皆が幸せになる薬…」

 説明の途中で頬を叩かれて床に投げ出される、見上げてみるとそこには父さんが立っていた。

 「お前は一体なにをしたんだ!」

 怒鳴りながら何度も蹴ってくる父さん。

 頭が混乱する…だって、昨日薬を井戸に入れろって言ってきたのは父さんだよ?

 「申し訳ありませんっ!今店にある分の解毒剤はどうぞお持ちください…調合が終わりましたら病院に持って行きますので!」

 カウンター向こうで解毒剤を調合していた母さんは深く頭を下げながら無償で提供し、それを受け取った町人達は壁を蹴ったり、樽を破壊したり、ツバを吐いたりしながら出て行った。

 「…お前は入れる薬を間違えた。重罪人だ!」

 父さん、違う。俺は間違ってなんかないよ…ちゃんと言われた通りにしたよ?重罪人なんかじゃないよ…、信じて…。

 「しばらく外には出ない方が良いわね、部屋に戻ってなさい」

 母さんに言われて2階に向かおうとした所で、薬を手渡された。

 また、飲まなきゃならないの?

 「飲みたくない…」

 薬を飲むといつも苦しくなる。だけど、いくら辛くても両親は助けてくれなくてただ見てるんだ、見てるだけで何もしてくれない。なのにどうしてまた薬を飲ませるの?苦しめたいから?

 両親は、俺が嫌いなんだ。いなくなって欲しいと思ってるんだ。

 「万能薬完成の為だ、飲め!」

 無理矢理薬を飲まされてから数分で手足に痺れが出始める、立っている事も出来ずに倒れ込むと胸に痛みが出始めた。

 助けて、そんな短い単語すら話せなくて、俺を監察するように見てくる両親を見る事しか出来ない。

 「薬草の種類と毒草の相性が悪いのかしら?」

 「月見草を使ったのが裏目に出たか」

 「材料が足りないのはどうしても誤魔化せないのかしら?」

 「毒と麻痺を同時に治療出来れば万能薬として通用するだろう」

 両親の会話を遠くに聞きながら薬の効果が切れるのを待っていると、父さんが俺を部屋まで運び、興味なさそうにベッドの上に放り投げた。

 パタン、と閉まるドアと、ガシャンと閉められる鍵。

 いくらか体が楽になって起き上がると、横腹に差し込むような痛みが走った。まるで刺されたかのような激痛に服の裾を捲って横腹を見ても特に何もない。

 薬は切れてる筈なのに、まだこんなにも辛いなんて…俺はもう一生このままなのかな?両親に嫌われたまま終わっちゃうのかな?

 「それは、やだな…」

 そうだ、毒に汚染された井戸を浄化出来ればきっと、きっと皆笑ってくれるよね?これでも俺は薬師の息子…絶対出来る、やらなきゃ父さんと母さんが“重罪人の親”と呼ばれてしまう。

 言われたように薬を入れたのに皆が幸せになってないんだ、きっと俺がどこかで間違ってしまったんだろう。

 「つぅ…」

 横腹の激痛に耐えて上半身を起こし、リュックの中に道具を入れて背負い、いつものように窓から外に出て、1番近くにある井戸から水を汲んだ。

 「お前…次は何をする気だ!?」

 町人に見付かった!?捕まったら家に連れ戻されてしまう!

 井戸水を入れたバケツを抱えて町の外に向かって走り、草原にまで来ると町人は魔物を恐れて追いかけて来ない。両親だって用心棒がいないと草原に来ないし、今の俺にとっては1番適した場所だと思う。

 リュックの中から紙コップを取り出し、井戸水を少しだけ入れて口に含んでみると、舌がピリピリとして独特な苦味を感じる。使われている毒草の種類は2種類か…待って、鼻に抜けてくこの香りは昨日に飲まされた薬にも入ってた。

 月見草、それ単体では薬草だけど他の薬草との相性が難しく、使い方を間違えると毒草になってしまう難しい草…それを毒草2種類と一緒に調合した?

 父さんはどうしてこんな毒を井戸に入れようと考え付いたのだろう?どうしてこんな薬で皆が幸せになれるって思ったの?

 まさか、万能薬の試作品を俺にだけじゃなく、町人にも試そうとして?そう言えば昨日父さんは毒と麻痺が同時に治療出来れば良いって言ってた…なら、使われてる毒草は毒系と麻痺系の2種類だ!

 口に含んでいた水を吐き出し、薬草を求めて山道に入る。もうすぐに冬になるこの時期、山の立ち入りは禁止される。だから少なくとも町人に見付かる事はない。

 こうして捜し歩いてしばらく、毒消しと麻痺消しの2種類の薬草を手に入れた。

 後は調合をするだけだ…父さんが完成させられなかった薬を俺が作れるのかは分からないけど、井戸の毒は俺が浄化させなきゃならない!

 試作品を作っては紙コップに注いだ井戸水に混ぜて口に含み、吐き出してはまた試作品を作り直して。そんな事を繰り返して行くうちに辺りはスッカリと暗くなっていた。

 「さむっ…」

 夜にもなると気温はますます下がり、悴む手を擦り合わせながら試作品を作る。必死になって調合を続ける理由は、井戸水を浄化して皆に平穏な日々を返したいから。それと… 毒と麻痺、その2つの症状を同時に浄化出来る薬を父さんは万能薬として売り出そうとしている、もし、俺がそれを完成させれば…もしかしたら父さんに褒めてもらえるんじゃないか…少しだけでも好きになってもらえるんじゃないかって…。

 どれ位の時間を調合に費やしたのかは分からないけど、何とか毒素を薄める薬が仕上がった。時間を置いてこの薬を数回井戸に入れれば、きっと、きっと!

 井戸は全部で3箇所、薬を3回入れたとして薬は9個必要になる。だけど、調合の分量が分かってるんだからいつでも作れる。だったら早く戻って1回目の投入をしよう。少しでも毒が薄まれば、もしかしたら抵抗力のある人なら症状が出ないかも知れない。

 空が暗くなるのを待って町に戻り、誰にも見付からないように井戸に近付いて薬を投げ入れていく。見張りもいなかったからこの調子だと薬を調合しに山に戻れると、思ってた。だけど3箇所目にはいたんだ…俺の家から1番近いその井戸の前に…父さんが立ってたんだ。


挿絵(By みてみん)

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