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ディスペル  作者: SIN


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68/122

生前の事

 朝、体を揺らされるような振動で目を覚ますと、部屋の中にはエドがいて、俺の膝に向かって攻撃していたから、俺は黙ってそのまま目を閉じた。

 こうして毎朝回復した分だけ骨を砕きに来るから、少しだけ考えを変えたんだ。

 エルナさんが蘇るまでは寝た振りしてようって。

 勿論エドの前でだけだよ?

 パタン。

 隣の部屋からドアの閉まる音とベッドに横になる音がしてから目を開け、首に負担がかからないように手で押えながら起き上がり、とりあえず気合を入れて粉々になった骨を元の位置に戻した。

 毎日毎日攻撃しているエドの拳は大丈夫なのだろうか?いやいや、心配はしちゃ駄目なんだよね!

 この生活もそろそろ終わるんだろうし、もう少しの辛抱だ。

 昨日の夜中からアクアの気配が少し強くなっているから、きっともうすぐエルナさんは起きるだろう。そして起きた時に俺の疑問は全て解かれる事になる。

 蘇ってからズット考えていた事。自分はなんなのか、誰に倒されたのか、蘇った理由は?蘇るメカニズムは?

 俺は“奪う者”の蘇りで、堕天した元天使のルシファーによって倒され…たのは皆か。じゃあ俺は…頭にあった陥没が原因だ。

 蘇った場所にはピッタリと陥没に合う岩があったから、そこで頭をぶつけた事による事故死?

 「ルシファー、ちょっと良いかな?」

 考えたって分からないんだ、もう直接本人に聞いてしまおう。

 「痛むのですか?」

 心配そうに“魔石”から出てきたルシファーは、気配や言葉からでは到底予想も付かないような物騒な人相で壁を睨み付けている。この壁の向こう側はエドの部屋だ。

 「痛覚はまだないよ。それ、エドを睨んでいるつもりだというなら“魔石”に戻って」

 心配しちゃ駄目だってのに、また俺は…。しかも“黒き悪魔”に向かって物凄い上から目線発言しちゃったよ。

 「…いえ、そんなつもりは…」

 なのにどうしてそんなにも落ち込んでいるのだろう?天使だった頃の俺はもしかしてとんでもなく強かったのかな?

 「俺が蘇った時、頭が大きく陥没してた。俺の横には陥没した部分と同じ形の岩があった。ねぇ、俺はどうやって倒されたの?」

 それは、と口篭るルシファーを助ける為なのかポチ達も出てきた。しかし黙ったまま俺達を見ているだけ。

 きっと、ポチ達も俺がどんな風にして倒れたのかを見ている。それだけじゃない、徐々にガイコツになっていく様も近くで見ていた。なのに俺はルシファーから聞こうとしている。

 俺を蘇らせるために皆を倒したルシファーに。

 「俺は…堕ちる程の罪を…犯しました」

 え?ちょっと…その説明は別に求めてないよ?天使だったのに悪魔になってしまった経緯なんてそんな暗い過去を思い出させたい訳じゃない。

 「あ、えっと…俺って木から落ちて岩で頭ぶつけて事故死したのかなって…」

 必死に誤魔化そうとして手を振ってしまって、皮膚が引っ張られる感触がした。慌てて視線を向けてみると幸いな事に傷口は広がっていなくてホッと溜息が出た。

 「貴方の友になった俺の“魔石”を天使が奪いに来て…」

 説明が続いている!

 堕天したルシファー、天使からしてみれば敵になる筈。けどルシファーはかなり強いから普通では手が出せなかったのだろう。なら“魔石”に入った瞬間と言うのは狙われて当然だ。

 「…うん」

 ズット疑問に思っていた事を、ルシファーは辛そうにしながらも話してくれている。ちゃんと聞こう。

 「俺の入った“魔石”を奪った天使は飛びあがり、貴方はその天使の足にしがみ付いて止めようとされた…」

 飛び去ろうとする天使に飛びついたのか!

 あれ?ちょっと待てよ…え?それ、知ってる気がする。確かルシファーを友にする時に行った樹海の上空で見たんだ。飛んでいる天使の酷くぼやけた影を…あの時期俺は生前の幻覚のような光景を何度か見ていたから、その天使も幻覚の一種だと思っていたけど、もしかしたら…その天使が俺を倒した?

 いや…違う。

 俺は、確か…天使と一緒に落ちた?そうだ、天使を“魔石”から出てきたルシファーが攻撃して、それで一緒に落ちたんだ!

 うわっ…ちょ、なに?え…待って、ちょっと…そんな、一気に…。

 「オェェ」

 恐ろしく気分が悪い。

 「キリク!?」

 グルグルと頭が回って、寝転んでいるってのにグルグル、グルグル。

 高速で流れて行く景色を目で追っているように忙しい頭の中には、生前の記憶と言うのが一気に押し寄せてきている。

 そんな大きな津波に対処出来る訳がない俺は、気分の悪さから終には意識を失った。

 気分が悪い。

 気持ち悪いよ…。

 痛む頭の奥の方で、声が響いてくる。

 「この薬を井戸に入れて来るんだ。皆が、幸せになる為の薬だ」

 聞いた事もない声なのに、酷く懐かしく感じる声を追うように意識を頭の深くまで辿って行くと、目の前に景色が広がった。

 優しげな1人の男性が、微笑みながら3つの薬を俺に差し出していた。


挿絵(By みてみん)

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