嫌
首の取れた経験のある恭治が俺の首を縫い合わせてくれたんだけど、喋れない。
声は出るようになってるんだよ?だけど、喋らせてもらえないと言うのか…恭治の説教が止まらないから、喋るタイミングがない。
ポチ達は、自分達の言いたい事は恭治が代弁してくれているからと“魔石”に戻ってしまった。
本当ならエルナさんの様子を引き続き見ていて欲しかったんだけど、ソレを伝える隙もない。
「キリク殿!聞いておられるのか!?」
少し視線を“魔石”に向けただけでコレなんだから、大人しく怒られていよう。
恭治はただ文句を言ってる訳じゃなくて、もっとやり方があったんじゃないか?次からは1人での依頼をしないように。エドにもちゃんと説明してから行くようにしろ。と、言い返すに返せないポイントをついて来る。
それに、ここまで怒っているのにはちゃんと理由があるようで…怪我を隠そうとしていたのが恭治の逆鱗に触れてしまったようなのだ。
もう、ごめんなさいとしか言えないよね。喋らせてもらえないけど。
「してキリク殿、傷は痛まぬか?」
ゆっくりと息を吐いた恭治は、多分注意事項を全て言い終えたのだろう、急に落ち着いた口調で聞いてきた。
やっと喋れる。
「普通なら昇天しているレベルの傷を負った場合、痛覚はなくなるみたい」
本当なら誤魔化そうと思っていた事なんだけど、誤魔化した後、ばれたらきっと恭治はまた怒る。怒られるという行為が同じなら、嘘なんか付かないでいた方が余程気持ちが良い。
「昇天レベルだと!?主、一体何処で誰にそのような傷を!?」
さっきまで恭治の説教をうんうんと頷きながら聞いていたカフラは、少し声を荒げながら視界に入ってきた。
けど、誰って言われてもなぁ…ドラゴンに触ってしまった俺が悪いんだから、誰も悪くない。それに少し時間はかかるだろうけど、龍の抜け殻をもらえる事になってるから、怪我だってスグに治る。
「本当に昇天してないんだから良いでしょ?」
依頼内容も「採掘場に出た魔物を退治して欲しい」だったから成功してるし、報酬ももらえたし、ちゃんと出来たと思う。
ちょっと傷は深いけど…。
「主は出かける時、我らに簡単な依頼だと言ったな?それも嘘だったのか?」
それもってなんだよ。
確かに怪我の事は誤魔化そうとしてたけど、だからって全部が嘘だったみたいな言い方は酷いんじゃないの?
「依頼は簡単だったよ。怪我を隠したのは心配かけたくなかったから…」
今は何処に行っても傷薬がないんだ、怪我してるのがバレたら必要以上の心配をかける事になるでしょ?
「…なるほどな、怒るエドの気分が分かったわ。我はこれで失礼する」
低い声でそう言ったカフラは背を向け、ドアに向かって歩き出した。
エドの気持ちが分かる?それってカフラも怒ってるって事?だったら、ちゃんと理由を言ってよ!俺の何処がどう悪いのかって教えてよ…。
怪我を隠し通せなかったから?
結果的に心配かけちゃったから?
「待って…」
お願いだから…黙って出て行かないでよ…。
パタンと静かに閉まったドア、遠ざかって行く足音。
「…キリク殿がなにも言わないのは、拙者らが頼りないからでござろう?」
そんなの少しも思ってないのに、どうしてそんな事ばっかり言うんだよ!
ただ心配かけたくなくて、皆の事が心配で。でも心配してると「頼りにされてない」と感じて皆は怒り出す。
「違う…のにっ…」
心配したって良いじゃないか!怪我の事を言わなかったのだってそんなに悪い事?俺達は蘇りだよ!?
もう、やる事全てが裏目に出ている気がするよ。
何をどうしたら嫌われずに済むのかが分からない。
このままじゃ恭治からも嫌われて、ディルクと、サクリアからも。そう思うと耐え切れなくなって、流れてくる涙を腕で押えて隠そうとした。
「すまぬ。拙者がこのような言い方をしたせいで…」
スッと手拭を取り出した恭治は、腕も、首も動かし辛い事を知ってくれているのだろう、次々と流れる涙を拭き取ってくれる。
それが申し訳なくて、早く泣き止もうと思って楽しかった事を思い出そうとしたんだけど、その思い出が楽し過ぎて、更に悲しくなってしまった。
「ゴメン…」
「言って欲しい事が、打ち明けて欲しい事が沢山あるのでござるよ」
優しげな笑顔を見せてくれた恭治の言う「打ち明けて欲しい事」とはなんなのか、今回の依頼の事じゃないと言うのは分かるけど、それ以外と言えば後はエルナさんの事か、この羽の事位しか思いつかない。
どっちにしたって今の俺には答えられない。それに、まだ涙が止まってないせいで声も出せないし。
いや、それでも黙っていないで、ちゃんと分からないって伝えよう。
さっきよりも必死になって泣き止もうと奮闘していると、隣の部屋から1人の気配が近付いてきて、ノックとか何もなく入ってきた。
「ソイツにんな事言っても無駄、クソが付く程の秘密主義。だろ?て・ん・し」
どうやら俺達の会話は、隣の部屋にいたエドの耳にも届いていたようだ。
無表情に近い顔には眼帯。腕を組んで立っている姿は少し機嫌が悪そうなんだけど、漂ってくる気配は怒りに満ちている。
「俺…動けるようになったら出てく。だから…そんな怒んないで…」
もう仲直りしようなんて考えない。心配だってしないし、サクリアのお店の2階に戻る。エルナさんが蘇るまでは何があっても屋敷に来ない。だからお願いだよ、それ以上は嫌わないで欲しい。
「キリク殿…」
恭治もだよ?
嫌な奴だと思われても良いし、少し位嫌われても、それは仕方ないと思うんだけど、仲間だったと言う所からの否定はしないで欲しいんだ。
俺は天使だけど、皆と同じ“奪う者”で、蘇りで…友達。でしょ?
「今コイツ痛覚ないんだよな?」
恭治に確認をしたエドは、左手で俺の膝辺りを押え付けると、その膝に向かって全体重をかけた懇親の膝蹴りをして来た。
嫌な音がして、嫌な違和感が膝に表れる。
なのにエドの攻撃は止まらない。
徐々に粉々になっていく膝の骨。
止めに入る恭治も跳ね除けて、一心不乱に攻撃を繰り返すエド。
こんなに嫌われているなんて、正直思ってなかったよ。
仲直りしたいって本当に思ってたのに、それは俺だけの思いだったんだ。
分かってたよ?ズットそれは分かってた。けど、話しかけると機嫌悪そうだったけど、ちゃんと返事してくれたじゃないか。
外出が家の外なのか中なのかって、そんなつまらない事で言い合いして。だから少しだけ昔に戻れた気がしたんだ。
また仲良く出来るんだって夢を見てしまった。
もう、無理だ。こんな嫌われている事を知ってしまったら、もう無理だよ。
俺達はもう仲間でも、友達でもないんだね。ちゃんと理解するから、納得するから。だからもう少し…せめてエルナさんが蘇るまではまだキリクとして存在していて良い?




