願い
島に残ると言うアンさんと別れ、帰りの船に乗り込んだエドと、その船の遥か上空を飛んでいる俺。
なにをどうしても羽が消えないから、仕方なく無料移動する事になったんだ。心苦しいんだけど、エドと顔を合わせなくて済んでいるからちょっと有難い。
飛ぶスピードを上げて先に大陸に戻り、港町と町の間にある草原に下りるとズット飛んでいてフワフワしていたせいなのか地面に足が着いているのにまだ飛んでいるような感覚がして気持ちが悪くなった。
ちょっと横になろうとして横向けになって寝転がってみるが、ここが真冬の草原だと言う事を忘れてた、冷えた地面に体温を吸い取られて一気に冷え、なにか着る物をと思って、フト服をどう着れば良いんだろうかと疑問になった。
羽のあるピヨはガッツリと背中の開いた服だし、ルシファーも背中の大きく開いたボンテージみたいなテカテカした服の上から羽をローブに見立てて纏っている。格好良いんだけど、それは羽が大きいから出来る芸当であって、俺の貧弱な羽では難しいだろう。それに色が白いから寧ろ恥ずかしい気がする。
「…よぉ天使、こんな所でなにしてんだよ」
しばらく座って休んでいると、港町からエドが歩いて来るなり俺に対してそう声をかけてきた。
どうして急に羽が生えたのかなんか俺にも分からない。だけど確実に言えるのは俺が蘇った“奪う者”である事。
「天使じゃないよ」
もし俺が本当に天使だとしたら、どうして天使が嫌う不浄な魂になってるの?可笑しいよね。
「じゃあその羽は?見えすいた嘘言ってんじゃねぇよ、この裏切り者!」
え?裏切…いやいや!待ってよ!
「俺達は仲間でしょ?裏切ったりしないよ!」
強烈な捨て台詞を置いて走り去ろうとしたエドの腕を捕まえ、なんとかして誤解を解こうと必死に声を上げた。
「俺はお前を親友だと思ってたんだ。けどお前はそんなんじゃなかったんだな…離せよ」
見上げてくる目は冷たく、本気で離して欲しいんだろう、ブンブンと俺の手を振り払おうとしている。
親友だって思ってくれてる事は嬉しいのに、どうして過去形なの?そんなんじゃなかったってなに!?
「待って、俺だって同じ気持ちだよ!」
大事な仲間で、大切な友達だと思ってる。それにエドに対してはもっと…深いんだよ?蘇って、1人じゃどうして良いのか分からなかった俺に初めて出来た仲間。親友と言うよりも恩人なんだ!
一緒に仲間探して、一緒に遊んで…1番の仲良しだったじゃないか!なのにどうして…羽が生えたから?それとも他に理由が…。
「もう、顔も見たくねぇ。俺の前から消えろ!」
思いっきり振り払われた手を見ながら、思い当たる事が次々と浮かび上がってくる。顔も見たくないと言われても可笑しくない事を、俺はやってたじゃないか。
ルシファーを何の相談もなく開封した事、回復する間樹海に篭りきりで1度も連絡を入れなかった事、回復していないと嘘を付いてガスマスクを着け続けていた事…それにエドは俺を殴ったんだ、そんなに頼りないのか、って。あれが最後のチャンスだったんだね、なのにエドを放ったらかしにして依頼を続行させたんだ。依頼の結果がどうなったのかさえ俺は教えてない…。
消えろと言われても、しょうがない。
「それが…エドの願い?」
恩人だと思っている相手からの願いなら、何があっても叶えなきゃならない。
「そうだな、俺は蘇りにも“奪う者”にだってなりたくなかった!」
大声で吐き捨てたエドは町に向けて歩き出した。
出身町では“奪う者”だからって事で辛い目に遭っている生前のエド。蘇ってからも魔物だって追い立てられてて、そう言うのを思ったら今の言葉を理解する事は出来るよ?だけど外の音は“魔石”の中にいたって聞こえてるんだ。
「それ…アルとシノに謝れよ」
自分の友の存在すら否定するのか?今まで一緒に戦ってきた仲間を…そんな意図が無かったとしても、俺に対してだけの言葉だったとしても、結果的に2人には聞こえてる。
「偉そうに説教すんじゃねぇ」
顔も見たくないとの言葉通り、エドは立ち止まりも、振り返りもせずにそう言って走り去ってしまった。
それから少し時間を置いて町に向かい、注意深く辺りを見回しながらサクリアのお店まで歩く。時間はお昼の少し前、完全に営業中であるこの時間だ、中にはサクリアとお客さんしかいないだろう。
「サクリア、ちょっと今大丈夫?」
扉を開けて顔だけお店の中に入れると、お客さんはいなくてサクリアが1人店内で机に向かって何か…資料か何かを眺めていた。
「ん?依頼が終わったんだね、おかえり。寒いでしょ?早く入って」
ガスマスクをしていないと言うのに、全く触れて来ないんだね。
そこからでも俺の背中に生えた羽は確認出来る筈なのに、いつもと変わらない態度なんだね。
俺から切り出すまで待ってくれるんだ。
「えっと…羽、生えちゃった…」
どんな顔をすれば良いのか分からないから俯く事しか出来ない。
サクリアも俺を天使だと思うかも知れない、裏切り者だと思っているのかも知れない。顔も見たくないと…思っているのかも…。
「そうみたいだね、だけどキリクはキリクでしょ?ふふ、やっと素顔が見られたんだから、そっちを喜んで良いかな?」
想像していた物とはかけ離れた言葉を発したサクリアは、いつもと変わらない優雅な動作で机の上のティーカップに手を伸ばして1口飲み、そして笑いかけてくれた。
「サクリアって、優しいんだね」
ガイコツンの面影が一切なくなった俺を、俺だって受け入れてくれる。これを優しさと言わずになんと表現したら良いのか分からないよ。
「そうなのかな…」
ん?
「厳しいの?」
ニコニコと笑顔で怒っている姿は見た事あるけど、声を荒げるとか、手が出るとか、そう言うのは見た事がない。それに…そうだ、クリスマスにはサンタクロースになって皆にプレゼントを用意してくれてたじゃないか。それだけじゃない、依頼箱の設置をする前、何もしなかった俺に文句も言わずに自由にさせてくれてた。
そんなサクリアが優しくないなら、生き物全てが優しくないって事になってしまう!
「リッチを巻き込んでしまった事が心苦しいんだ。何故俺は友達であったリッチを“魔石”に封じる事が出来たんだろう?ってね」
目を伏せたサクリアがポケットの中から“魔石”と取り出した瞬間、中から出て来たリッチはサクリアに向かってチョップ攻撃をした。それを見事に食らってしまったサクリアはさっきまでの雰囲気を一瞬にして変えて恨めしそうに見上げると、チョップをしてきた相手の横腹に蹴りをお見舞いしている。それを後ろに飛んで避けたリッチは、その後壁に頭をぶつけて蹲ってしまった。
しばらく続く沈黙、そして見つめ合った2人は笑ってた。
会話量が0だったのに、とても仲の良い友達同士なんだなってのが伝わってきたよ。だからこそそんな友達を“魔石”に封じてしまった自分が信じられないんだな…。
サクリアの願いはだいたい分かったよ。
魔物の島で“奪う者”としてはなく、ちゃんとした魔物のままリッチと一緒に暮らしたかった…だね。
過去に戻れない限り変わる事のない願い…なにか、どうにかしてでも叶えてあげられないのかな?
皆の願いを、叶えてあげるにはどうしたら良いんだろう。




