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ディスペル  作者: SIN


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45/122

魔王船

 船に乗る為港に向かって移動を開始させた。

 蘇ってスグの時は樹海近くにある魔王船乗り場から乗って、そのまま魔物の島に行けたんだけど、あの時は俺が魔物に見えていたから乗れたんだよなぁ…今はガスマスク付けた普通の人間に見えるし、アンさんは正真正銘の人間、きっと乗り場に行った所で攻撃されておしまいだろう。と、言う訳で2つ目の方法をとるしかない。

 「シャァ~~~!!」

 もうスグ港町に着くと言う時、上空のクロが声を上げた。こんなにもコソコソと移動しているのに態々目立つ行動を取った理由は、きっと俺達に危険が迫っている事を教えてくれたんだと思う。

 立ち止まって辺りを警戒するように眺めて少し、クロが言わんとしている事が分かった。

 少し離れた所にある岩の陰からチラチラと覗き込んで来る眼球、あんな特徴的な技を持っているのは1人しかいない、エドだ。

 なんで隠れてるんだろう?しかも、気配が無さ過ぎて全く気付かなかったよ。

 「エド~なにしてんの?早くおいでよ~」

 大きく手を振りながら呼んで5秒の沈黙、岩の後ろから出て来たエドは目に眼帯を着けていた。

 今日はそんな風もないし、眼帯なんかしてなくても目に砂が入る事はないと言うのに、どうして態々着けてから出て来たんだろうか…そう言えば屋敷に戻ってから今日まで、1回も眼帯を外した姿を見ていない。

 「ゾンビン…物凄い美肌になっちゃってぇ~」

 成長の次は美肌!?

 アンさんの表現方法で言われると、回復して良かったなって思えるよね。エドもそう思うでしょ?

 港に向けて移動しながらエドに依頼の説明をし、今後どうするのかの説明をする。

 港町から船に乗る訳だけど、人間の住む大陸から直接魔物の島にまで行く船が出ている筈もない。だから一旦大陸と魔物の島の中間にある島にまで行くんだ。

 「あんな商人だらけの島に行ってどうするの?商人の振りして魔物の島に侵入?」

 どうしてアンさんは物騒な移動手段しか思い付かないんだろう…ドラゴン使いをしていると侵入とか、強行突破でしか移動し辛いのかな?

 確かにドラゴンなんてその辺を歩いてる魔物とは比べ物にならない程の脅威だし、その討伐ともなると城の兵士が2部隊とか余裕で出動しなきゃならない強さを誇っている。ドラゴン使いによって躾られていると言っても恐怖の存在に変わりはない。それに“奪う者”のように“魔石”を使って封じる事をしないんだから、船に乗るって普通の事するだけなのにかなりの難易度だ…。

 「あの島は大陸と魔物の島から物資を買い取って、それを加工して両大陸に売ってんだ。あそこなら魔物の島に行く為の船が出てる」

 俺が言おうとした事を、俺よりも分かり易く説明してくれたエド。なんだけど…物凄く機嫌が悪そうなのはどうしてだろう…。

 俺が傍にいるから?

 この依頼を無事に終えたらちゃんと聞こう。機嫌が悪い理由と、未だに名前を呼んでくれない理由、それから…エドの願いを。

 中間地点にある島に向けての移動中、甲板から空を眺めるとかなりの上空にタマとクロの姿が見えた。そしてその背中には…船代を持ってないと言ったアンさんと、船に乗りたがらなかったエドがいる筈だ。

 船移動中は話しかける絶好のチャンスだと思ってたのになぁ…話しかけられるのが嫌でクロの背中に乗ったんだとしたら…悲しいな…。

 アフロが風で飛ばされないうちに客室に入り、大きなホール内の隅っこにある椅子に座って到着を待つ事にした。

 道中、緑のアフロにガスマスク姿から道化師と間違われ、芸をしろと強請られはしたものの、なんとか無事に目的地に到着し、逃げるように船から下りた。

 「ガスマスクン、数時間ぶりだね!」

 先に上陸していたアンさんが大きく手を振りながら駆け寄ってくると、その横に並んで座っていた2匹のドラゴンも一緒に着いてきた。その様子は大陸にいる時には見られなかった安堵感が漂っている。不思議に思って辺りを見回して納得した、この島には人間も多いけど、魔物も多い。しかもその魔物は誰かの友達と言う感じでもなくて、その上レア種までいたりした。

 そうか、お金を稼ぐ方法がこの島では商品の製造販売だから、レア種を狩る旅人がいないんだな。旅人がいないからレア種が狙われる事も無い…けど、ドラゴンの抜け殻や鱗はかなり貴重な薬の素材…あ、ドラゴンは一生のうちで少なくとも3回は脱皮するから、長生きしてくれた方が商人としても有難いのか。

 「じゃあ魔王船に乗せてくれるよう交渉してくるね」

 いってらっしゃいと手を振ってくれたアンさんなんだけど…ここが安全な場所だと分かった途端の無防備っぷりが危う過ぎる。それにタマもクロも子供がヨチヨチと歩き回ってるのにノンビリとしちゃってるし…隣にエドがいるから大丈夫だろうけど、それでもやっぱり心配だ。不意打ち攻撃をされたら流石のエドだって怯んでしまうだろう、そこへたまたまこの島に来た大陸の人間が、珍しいと言う理由だけで子供を連れ去ってしまうかも知れない。大陸に連れて行かれた後は、紛れも無くドラゴンのレア種。しかも子供で力だって弱いんだから何をされるか…。

 「おい、どう言うつもりだ」

 ポチ達を呼び出して見張りを頼み、魔王船の船長が休憩しているとの情報を得た酒場に向かい、中に入ろうとした所でかなり低音の、物凄く不機嫌そうなエドに路地に連れ込まれ、今にも殴りかかってきそうな勢いで胸倉を掴まれた。

 こんなにも激しい怒りに満ちた目で睨み付けられる程のなにをしてしまったと言うんだろう?どうしてこんなにも怒っているんだろう。

 「どうして怒ってるの?」

 少しでも機嫌を良くしてもらいたくて怒っている理由を率直に聞くと、エドは更に怒りの色を強く現し、掴んだ胸倉を大きく揺すって俺の頭を何度も何度も壁に打ち付けた。その衝撃で頭からアフロがずれて足元に落ち、それを思いっきり踏みしめたエドは次の瞬間、振り上げた拳を俺の腹にヒットさせた。

 一瞬息が出来なくなり、喉に胃液が上がって来る。その苦味成分を無理矢理胃に押し戻し、喉が痛んだ事による咳で更に息苦しい。それより殴られた時に聞こえた不穏な音が気になって恐る恐る立ち上がってみると…やっぱり胸骨に亀裂が入った感じがする。内蔵が何ともなさそうだから手加減はしてくれたみたいだ。

 こんな亀裂程度、骸骨やってた俺からすれば軽症。ズレてしまった骨の配置を気合を込める事で正常の位置に戻すと言う技は今でも使えるんだからね!

 「…そんなに俺が頼りないかよ」

 ゴキゴキっという音と共に痛みが和らぎ、壁に体を預けて呼吸を整えていると、視線を俺から外して俯いたエドが何かとんでもない事を言ってきた。

 頼りないなんて思った事は本当に1回もない。だけど心配で…心配する事が頼りにしてないって事じゃないでしょ?

 「エド、あの…」

 「殴って悪かった…ゴメン…」

 顔を伏せたままエドは走って行ってしまった。

 踏みしめられてグシャグシャになったアフロを拾い上げただけで胸に痛みが走る状態では猛スピードで走り去って行くエドを追いかける事が出来ず、休憩も兼ねて酒場に入った。

 船長さんは何処だろう?

 「あの、魔王船の船長さんは何処にいますか?」

 酒場のマスターに訪ねるが無言のままジロジロと見られるだけで終わり、だったら他の人間や魔物に聞こうとして酒場の中をウロウロと尋ねて回っても似たような反応しか帰って来なかった。どうしてだろうかと首を稼げていると1人の客に腕を掴まれ酒場の外に連れ出され、入り口の横にある看板の前に立たされた。

 “奪う者”の入店お断り、そう赤文字で大きく書かれた看板だった。

 ポケットに入れてる“魔石”の気配を察知されてたらしい。仕方ない、出直そう。

 元いた場所に戻ると、アンさんと3匹のドラゴン、そしてポチ達が俺を迎え入れてくれたんだけど、何をどう見ても後1人、エドの姿が見えない。

 「エドは?」

 「ゾンビンなら帰りのチケット買いに船着場に行ってるよ。ね、船長さんどうって?」

 あぁ、帰るんだ…。

 アンさんに船長さんにはこれから会って来ると伝え、物陰に隠れてからボロボロになったアフロとガスマスクを外し、ポケットに入れていた“魔石”をポチに預けて酒場に戻る。

 こうしてリトライした酒場の中はさっきまでの嫌な雰囲気が嘘のように活気に溢れ、皆楽しそうに喋りながらお酒を楽しんでいた。

 少しだけ声色を変えてマスターに話しかけて得られたのは、マスターが実は物凄い笑顔の素敵な紳士だった事と、船長さんが少し前に酒場を後にしたと言う情報。

 大急ぎで向かった魔王船が停泊している場所には何人かの魔物がいて、そのうちの1人は立派な帽子を被っていた。きっとあの魔物が船長さんだ。

 「船長さん、俺と俺の仲間を魔王船に乗せてください。ドラゴン大人2匹と子供1匹、ドラゴン使いと奪…人間が1~2人です」

 立派な帽子を被っている魔物に向かって話しかけると、その魔物の横にいた少し小さめの魔物がヒョイと俺の前に立ち、物凄く優雅に腕を組んだ。

 「何が目的だ?」

 どうやら、この魔物が船長さんだったようだ。

 「子供のドラゴンがレア種で、魔物の島に逃がしてあげたいんです。それで魔王さんに直接頼みたくて…だから、乗せてください!」

 相手が小さいから軽く頭を下げた位じゃ俺の方が頭の位置が高い。もう少し深く頭を下げた方が良いのかもと思うんだけど、90度以上のお辞儀は逆に頭を突き出してるみたいで失礼に当たるかも知れないし…そうだ!ここは恭治に習って、座って頭を下げよう!

 「ドラゴンとドラゴン使いは何処だ?」

 一旦頭を上げ、座ろうとした所での船長さんの言葉に俺はてっきり了承してくれたんだと思った。しかし、アンさんを呼んで船長さんの所に戻ると魔王船は出港していた。

 ただ、追い払われただけ?同じ魔物なのに、どうしてドラゴンを助けてくれないんだよ!

 「ちょっとここで待っててね」

 納得出来ない、無理なら無理でちゃんとした説明が欲しい。こんな状態で引き下がれる程軽い気持ちでここまで来たんじゃないんだからな!

 ピヨに乗って魔王船に近付き、船長さんに文句を言おうとして甲板に降り立った瞬間、何か物凄い力で船から弾き飛ばされてしまった。何もない筈の空間は電気が流れてるみたいにバチッバチと音を立てていて…。あぁ、そうか、船長さんの許可がないから乗車拒否されたんだ。

 ん?走行中の船から弾き飛ばされたって事は、行き着く先は海。そうなればアッと言う間にスクリューに巻き込まれて、回復にどれだけの時間がかかるか分からない状態になってしまう!

 勢い良く弾き飛ばされたのでピヨは手の届かない場所にいるし、船着場にはドラゴンに乗ってこっちに向かって飛んで来るアンさんとタマ。だけど、やっぱり手なんか届きそうも無い。

 どうしよう?どうすれば助かる?

 頭がパニックになって、ただ無心になって海に落ちたくないと願った瞬間、体の落下は不意に止まった。

 誰かに助けられたと言う訳ではなさそうで、だからって時間が止まったとか物凄い事になっている訳でもなく、俺は、俺の力で助かっているようで…。

 ハッキリは確認出来ないんだけど、下に見えている俺の影の背中部分が大きく羽ばたいている。

 どうなってんだ?俺は蘇りで“奪う者”で、エンゼルンから聖水飲め飲め攻撃を受けている不浄な魂。それなのにどうしてこんな羽が急に生えて来るの?

 更に混乱する頭、何も考えがまとまらずに呆けている俺の横を通り過ぎて行くのはドラゴンに乗ったアンさんで、魔王船の横に並んだ。

 ここからじゃ何をどうやり取りしているのかは分からないけど、子供とクロが魔王船の甲板に降り立ち、大急ぎで船着場に引き返したタマはアンさんを降ろした後魔王船に向かって飛んで行った。

 ドラゴンだけ島に行く事を許されたんだ。

 アンさんの様子が心配で戻ると、アンさんはマジマジと俺の顔を見ていた。それで思い出す、俺は今アフロもガスマスクもしてない上に羽付きだ!

 「ねぇ、イケメンってイケてるメンズでイケメンなのかな?それともイケてる顔面でイケメンなのかな?」

 なにそれ…。

 「イケメンって個人に言う台詞だよね?だったらメンズでは意味が可笑しくなるから顔面で良いんじゃないかな」

 いや、俺もなに真面目に答えてんだよ!それより確認しなきゃならない事がある。

 「タマとクロと子供、無事に逃がしてあげられたんだよね?」

 寂しくない?と声に出そうとして止めた。寂しくない訳がないから、きっと悲しいに違いないんだ。イケメンの語源がなんなのかって可笑しな質問も、そんな気分を紛らわそうとしての事だったのかも知れない。

 「船長が魔王に頼んでくれるって。タマとクロの事だもん、何処に行っても立派に子育てするよ!だから安心してねガスマスクン…じゃないか、ガイコツン、でもないし…」

 タマとクロの事を信用してるんだな、逆に安心しろって元気付けられてしまった。にしても、本名をまだ名乗ってなかったんだっけ。

 「キリクだよ」

 「OK!キリクンだね!」

 いやっ!あの、アンさん!?


挿絵(By みてみん)

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