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ディスペル  作者: SIN


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ドラゴン使いからの依頼

 「一瞬誰かと思ったよ~。ガイコツンってより、今はガスマスクンだね」

 バーに行って、まず始めに手厚い自己紹介をした後のアンさんの言葉がこうだった。

 「前に会った時はガイコツだったもんね」

 今だってガスマスク姿だし、アフロだから大差ないような気もするんだけど、やっぱり服を着ているってのはそれだけで別人級の違いではありそうだ。

 「立派に成長しちゃって~」

 とか感心した風に腕とか、足とかを触ってくるアンさん。

 回復が進む事を成長と言って良いのかどうかは分からないけど、良かったねってこんなにも真っ直ぐ喜んでもらえるのは嬉しいな…前の依頼で1度会っただけの俺の事をちゃんと記憶してくれてたってのも感激だよ。

 「成長期の子供より成長したからね」

 しかも、目立って回復するようになってから3ヶ月でだよ。

 「アハハ、激太りだよね」

 成長じゃなかったのか!

 「それで、今回の依頼内容は?」

 話を本題に移すと、さっきまで笑っていたアンさんの表情が一気に引き締まり、ここでは話し辛いからと前の時と同じ岩場に移動した。

 バーのマスターには、エドが来たら岩場に移動した事を伝えて欲しいって頼んできたんだけど、果たしてエドがこの場所を覚えているかどうか。

 岩場に到着し、アンさんが口笛を吹くと2匹のドラゴンが上空から登場した。

 低空飛行したまま降りて来ない様子は何かを警戒しているように見えるんだけど、俺に対してではなさそうだ。

 「…依頼内容だけど、一緒に魔物の島に行って欲しいの」

 少し大きくなったような、同じのような…翼を広げてるから巨大に見える2匹のドラゴンを見上げていると、簡単に依頼内容を告げられた。

 言葉にして3秒程の、非常に分かりやすく伝えられた内容は、どんなに適当に聞いても理解できるだろう。

 「随分思い切った内容だね」

 完結的に言われても、はいそうですかって気軽に実行するのは難しい。そもそも魔物の島が簡単に行けるような所なら、もっと人の住むこの大陸にドンドン魔物が押し寄せているだろうし、逆に“魔石”に怯えている魔物は魔物の島に逃げているだろう。

 「タマとクロの間に子供が出来たの」

 あの時のブラックドラゴンをクロと名付けましたか。見たまんまじゃないか!じゃなくて、話しに集中しなきゃ。

 「そ、それで…どうしたの?」

 繁殖期に間に合ったって言うのと、ちゃんと子供が産まれたって2つの吉報にも拘らず、アンさんの表情は酷く曇っている。

 「普通なら複数の卵を産むんだけどね、タマは1個しか産まなかったの。その時は初産だからって事で気に留めてなかったんだけど…卵が孵って、その子供を見た時…思ったんだ、この子は人間と一緒に暮らすべきじゃないんだって」

 え?いや、だってアンさんはドラゴン使いなんだよね?子供から育てたドラゴンは将来物凄い相棒になるんじゃないの?それともドラゴンの子供の育て方ってかなり難しい?それなら卵が孵る前に人間とは過ごせないって結論が出てた筈…それがどうして孵った後なんだろう?

 「どうしてそう思ったの?」

 もしかしたら難病かなにかで、魔物専門医に診てもらいたいとか?それでもアンさん自身がドラゴン使いなんだから診れるよね…特殊な症状過ぎて手に負えないとか!?

 「その子…頭が2つあるの」

 周りをかなり気にしながら、アンさんはかなりの早口で、しかも小声で言った。

 「レア種!?」

 子供がレア種だから親であるタマとクロがあんなにも辺りを警戒してるんだな…。

 「冒険者からしてみれば狩りたい魔物ランキング1位だよね…龍のレアだもん…」

 そうだね、とは言い難いから頷くだけに止め、代わりに

 「今、その子は?」

 と、質問してみた。

 「タマとクロが交代で口の中に隠してる。でも、その子が大きくなったら、口の中じゃ隠しきれなくなる」

 だろうね…しかも子供なんだから好奇心旺盛で、きっと隙を見ては口の中から出ようとするだろう。そこを冒険者に見付かれば、まず間違いなく襲われる。生け捕りにされて高値で売買されるか、狩られるか。

 無茶をしてでも魔物の島に逃がしてあげたいと言う気持ちは、良く分かったよ。しかも自分も行こうって言うんだからその覚悟は本物だ。

 「分かった。人に見られる前に出発しよう」

 待てよ、少し暗くなってからの方が冒険者に見付かるリスクが少なくなるよね、だったらそれまで身を隠していた方が良い。と言ってもこの岩場に勝る場所は俺の頭にはない。

 早く出発しようとか言っておきながら、日没までこの場で待機だと続けて言うのは流石に恥ずかしい。

 案の定微妙な表情をされてしまった上に、頭上からは気の抜けたようなタマの鳴き声1つ。どうやら今はクロの口の中に子供がいるようだ。

 「ありがとう…こんな危険な依頼受けてくれて」

 日が沈むまでの時間潰しとして岩場にヒョロッと生えている草の中から薬草として使えそうな物を探していると、タマとクロにご飯をあげていたアンさんから行き成りお礼を言われた。

 依頼達成して無事に帰って来てからなら分かるのに、どうしてこのタイミングなんだろう?確かに依頼は危険な内容だけど、魔王を退治しに行くって言ってる訳じゃないんだから大丈夫だと思う。

 どうなるのかなんて詳しい事は俺にだって分からないんだけど、依頼主であるアンさんを危険な目にだけは遭わせないから…とか格好つけたって実際はルシファーに任せる事になるんだろうなぁ。

 日が暮れて辺りが薄暗くなって来ると、ずっとソワソワしていたアンさんが子供を口に戻したタマの背中に乗り、さぁ行こうと言わんばかりに飛び上がろうとした。

 「ちょ、ちょっと待って!まさか龍に乗って行こうとしてない!?」

 「ガイコツンはクロに乗ってね」

 確かに魔物の島に行く手段として「飛んで行く」位しか思いつかなくても仕方ないけど、

 「大陸から何者かが龍で飛んでくれば確実に侵入者扱いでしょ!」

 良かったよ自己判断で魔物の島に行く前に依頼してくれて!

 「あぁ…」

 あぁ…じゃないよ!もぅ!

 「魔王船ってのがあるから、それに乗って行くんだよ」

 蘇ってスグに俺は1度それに乗ったんだ。そしてアッサリと魔王に会えている。あの時は完全にガイコツの姿だったから行けただけかも知れないけど、今回はちゃんと魔王に用事があるからなんとしても会わなきゃ。そして、魔族であるドラゴンを助けようって本気で考えてる人間がいるんだって事を知ってもらいたい。


挿絵(By みてみん)

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