パーティー
今日は朝から皆が忙しそうにしている。
サクリアが言うには今日の夜に何かパーティーをするようで、だからその用意で皆が彼方此方と買出しに行ったり、お菓子を作ったりしてる。そんな中、ディルクだけが通常通りエルナさんと塔の見張りに行っている。
確か1年前はエドと2人でかぼちゃのランタンを作ってたっけ…懐かしいな…。
そんな場合じゃない、早く帰って恭治にこの生クリームを渡さなきゃならない。
去年はクッキーだったのに、今年は巨大なケーキだと言うんだからきっと盛大なパーティーになる筈で、カフラはそんなパーティー会場の飾り付けをしに行っている。
「ただいまー」
ケーキの材料を買って戻るとそこにはパーティー衣装の調達に行っていたエドも戻ってきていた。
「はい、コレ」
素っ気無く手渡される衣装を受け取り、なんとなく返事が出来ないまま見つめる。エドの目には今日も眼帯があって俺と目が合わないようにする為なのか、節目がちだ。
エドからもらった手紙に書いていた「会いたい」って言葉を見て俺は皆に何かあったんじゃないかって、それで心配になって急いで戻ってきた。だけどなにも変わった事がないから安心してたんだ。だけど、本当は何かあったんだ…皆にじゃなくてエド自身に。それとも半分別人になった俺を無意識的に拒絶してるだけ?だったらどうして眼帯なんかしてるの?どうして節目がちなの?
「お二人共、なにをしておられる?」
台所からケーキの材料を取りに来た恭治が、少しだけ気まずかった空気を諸共せずに満面の笑顔で話しかけてきた。
「特になにも。恭治のはコレだから」
そう言って恭治に衣装を手渡したエドはそのまま出て行ってしまった。多分サクリアとカフラに衣装を渡しに行ったんだと思う。
衣装は1人分ずつ紙袋に入っているから何が入っているのかは分からない。ハロウィンと言ったら仮装だよってサクリアが言ってたから、きっと皆なにかの仮装をするんだろう。じゃあパーティーが始まるまでは着替えないで楽しみにしていよっと。
恭治が生クリームを持って台所に戻って行くと、広間には俺1人。
皆忙しそうなのに俺だけ暇だなぁ。依頼箱に手紙も入ってないし…薬草積みに行こうかな。もう傷薬の材料となる薬草の時期は過ぎてしまったから流石にないだろうけど、毒消し草なら何種類かはある筈だ。ちゃんと洗って乾燥させて保存したら日持ちするし、夏場に向けてのストック用に少し多めに摘もう。
「あれ?」
なんでそんな事知ってるんだっけ?薬草図鑑に載ってた知識かな?それとも、また生前の知識を引き出せると言う謎現象?
まぁ、使える知識なんだから便利な現象だよね。これのお陰で俺は図鑑がなくても薬草を見付けられるし、見た事がない薬草でもその効果が瞬時に分かるんだ。
生前の俺はきっと薬を作る事に長けていたんだと思う。
草原に着き、漁師村の方角に歩いて少しした所でガスマスクを外して毒消し草を探す。
一般的に使われている毒消し草は2種類。それは副作用も少なくて、他の薬草との相性問題も少ないから調合しやすいんだけど、残念な事にここから見える毒消し草はそのどちらでもない。
効き目は凄いけど他の薬草との相性が難しい毒消し草…その副作用は普通に毒を飲んでいるのと変わらないレベルだから、調合バランスが崩れた物を飲むと恐ろしい事になる…中毒を起こしてショック状態、運が悪ければそのまま天使に導かれる事になる。それなら劇薬指定で良いんじゃないかとも思うんだけど、調合バランスさえ崩していなければどんな毒状態でもたちどころに治してしまえる効き目をもっている。そんな物凄い毒消し草だからこそ、あの万能薬の材料としても使われる薬草の1つなんだ。
幻の薬、万能薬…生前の俺が本当に薬に拘わる事をしていたんなら、きっと作りたいって思ったに違いない。
毒消し草を探して積んでいると、遠くの方で鐘の音が聞こえた。顔を上げて見ると、辺りはスッカリ暗くなってしまっている…少し熱中し過ぎちゃったみたいだ。早く帰らないとパーティーに遅れるっ!
急いで屋敷に戻り、渡されていた衣装に着替えるべく部屋に入ってイザ紙袋を開けてみると、中には黒いローブが入っていた。
少しボロボロになったその衣装は、まさにルシファーの出で立ち…早く“黒き悪魔”の紹介をしろって無言の圧力?
衣装を選んだのはエド。俺の知り合いっぽいからとルシファーを封印した魔石を売らずに俺にくれたのもエド。勝手に開封して友に迎えた事、実はもうとっくにバレてたのかな?だったらいつまで経っても紹介しなかった俺をどう思ってたんだろ…。
こうしちゃいられない、早く着替えてパーティー会場に行こう!そして今日こそ皆にルシファーの紹介をするんだ。
って、思ってたんだよ?会場に着いて、真っ先に言うんだーって気合入れて来たんだ。嘘じゃないよ?だけど、その会場には皆だけじゃなくて、予想以上に人がいるからなにも言えなくなってしまったんだ。
皆仮装してるんだろうけど、タキシード姿の人が多い。その中でも一際目立つのは真っ白なタキシード姿のディルク。折角目立ってるんだから仏頂面を改めれば良いのにと思っていると会場内の明かりが落とされ、パッとスポットライトが入り口の方を照らした。
生演奏が始まり、入り口から現れたのはオレンジと黒のドレスを着たエルナさんで、1歩ずつゆっくりとディルクに向かって歩き出した。
以前ディルクはエルナさんにドレスは似合わないって言い切ってたけど、そんな事はない、物凄く似合ってる。
こうして見てると、まるで結婚式のよう…え?まさか本当に結婚式?
「えへへ、サプラ~イズ。こー言うの、1回は経験したかったのよね」
あぁ、なるほど。これでディルクが仏頂面だった理由が分かったよ。
サプライズってのはこのパーティー自体の事なんだろう、きっと入念な準備が前々からされていたに違いない。だから急に帰ってきた俺に仕事の役割がなかったんだと思う。
こんな大掛かりなパーティーが開かれる事を知らなかったのは俺と、ディルクの2人。この場合、俺にとってもサプライズのような?まぁ、主役じゃないんだから大人しくしてれば問題ないかな。
それにしてもだ、幸せそうな笑顔のエルナさんだけど、さっきの言葉…なんだか含みのある言い方だったよね。恋人が蘇りになった事に対する悲観?今日まであれだけラブラブだった癖に今更悲観も何もないか…だったらなんだろう?厄介な事になってなきゃ良いんだけど…。
不安が消えないまま結婚式のようなパーティーが終わり、集まっていた町人や兵士達が会場を後にしていく。
残ったのは俺達とエルナさんの7人だけ、ルシファーの紹介といきたい所だけど、そんな雰囲気じゃない。俺も会場を出た方が良いのだろうか?
「明日から配属先が変わるんじゃないのか?」
えぇ!?パーティーの事とか、ドレスの事とか全部無視で気になったのはソレ?なに表情1つ変えずに色気のない事言っちゃってんのさ!
「うん、この後準備して5時には出発。樹海傍の町だから3日後には到着かな」
そしてエルナさんも普通に受け答えしちゃってるし…。5時に出発って、寝てなくて良いのかな?しかも樹海傍の町って…結構遠いよ?
「あんな所まで…あそこには警備隊がいるんじゃなかったか?」
そんなのがいたんだ?
エドの出身地なんだけど、確か魔物は見ただけで退治する~って方針で、その上“奪う者”まで敵視してたんだっけ。じゃあその警備隊ってのは“奪う者”でもない普通の人間か。魔物と戦う時はどうしてるんだろう?大変そうだな…。
「ん~…今“奪う者”が極端に少なくて、対魔物に苦労してるんだよね。で、少しでも素質のある兵士は魔物が良く出る場所に移動って事になったのよ。まぁ、スグに“奪う者”になって戻って来るから、それまでこの付近の見張りはディルクに任せたからね!」
“奪う者”が少ない?そんな感じはしないんだけどな…現に今日も旅をしている“奪う者”数人を見かけたし…あ、そっか。城にいる“奪う者”って事か。そりゃー蘇りを調べる為に実験に使ってるんだからそうなるよね…って、そんな所で兵士として働いてるエルナさんが“奪う者”なっちゃ危険しかないよね!?
「“奪う者”になってどうする?見殺しにされて、実験に使われるだけだろ!」
うわわっ!ビックリした…ディルクってこんな風に声を荒げたり出来たんだなぁ。しかも実験に使われるって、少し記憶が戻ってるのかな?それともそう言う話を聞いただけで思い出した訳ではない?
「私はそれで良いよ?蘇れば…ディルクとズット一緒にいられる」
清々しい笑顔でエルナさんは時計を気にした。
そうか、明日5時に出発だからその準備を早くしたいんだ。
俺は城に行った事もないし、王様がどんな人かも知らないけど“奪う者”を使って蘇りの実験をしている人物だってのは知ってる。その研究施設からディルクを助けに行ったのは俺とエドだ。研究施設の中でどんな事が行われていたのか、この目で見た。
「“奪う者”になる事に反対してる訳じゃないんだ、蘇りになる事を目標にして欲しくない…好きなんだ、エルナ」
行くな、そう言うかと思ったのに…なに?急に愛の告白?しかも“奪う者”になっても良いって…お城に仕える兵士だよ?危険じゃないの?
あ、そっか。王様が直接兵士を殺すなんて有り得ないよね。それに城での対魔物の戦力が落ちてるのが原因で今回の移動がある訳だから“奪う者”になった兵士はきっと大事にされる筈。
「ディルク…じゃあ、さっさと“奪う者”になって戻って来るわね。話の続きは私が戻ってからジーックリしよっ!」
どこまでも爽やかなエルナさんは、ディルクの言葉を完全にエールと受け取ったのだろう、物凄いやる気を見せている。
にしても、懇親の告白はスルー?と思った矢先、ドレスの裾を持ち上げたエルナさんは、ディルクの前に移動すると俺達が見ているにも拘わらずチュッと軽いキスをした。
「なっ!」
「私も大好きだよ」
大きく手を振りながら去って行くエルナさん。そしてその姿を真っ赤な顔で見送るディルク。
うん、ルシファーの紹介するって雰囲気じゃないね、コレ。




