七夕
朝、何気なく見た依頼箱の中、そこには手紙ではなく木の枝が1本入ってたんだけど、ハクシャクンが言うにはこれはれっきとした依頼らしい。
なんでも今日は七夕と言う日で、笹に願い事を書いた短冊って紙を括って飾る日だとか何とか。そう聞いて改めて枝を見て見ると確かに小さな紙が括りつけられていて、そこには明らかな子供の字でこう書いてあったんだ。
「パパとママが仲良くなりますように、って言われてもなぁ」
目だけ伸ばしてきたゾンビンが願い事を声にする。
テーマが重い上に差出人も不明なんだからどうしようもないよね…それでも折角来た依頼なんだから解決してあげたい。
字を見る限り子供に違いないんだから依頼者はきっとこの町にいる筈で、夫婦仲が悪い所を虱潰しに…どうやって調べるんだよ。返事を書いて依頼箱の横にでも置いとく?依頼主がもう1度来てくれるかどうか分からないし…あ、そうだ。これは1家族が迎えている危機的状況、町長さんに言って心当たりがないか聞いてみよう。
早速町長の所に行って短冊を見せながら、夫婦関係にある町人の名簿を見せてくれるように頼んでみたんだけど、
「個人情報を教える訳にはー…」
と。
ですよね~…。
やんわりと追い出され、町の中心にある広場に来た所で再び作戦会議。
「夫婦の方が駄目なんだったら子供の方は?」
笹をクルクルと弄びながら、ゾンビンはその場に腰を下ろして俺を見上げてくる。
「それももれなく個人情報」
そうだよな~なんて言いながら今度は短冊を眺めている様子からして、良いアイデアは全くと言って良い程浮かばないようだ。
せめて名前が書いてあれば良いんだけど、重たい依頼内容が全てひらがなで書かれているだけだし…笹だって特に変わった所は…待てよ。
俺は町中をくまなく歩き回って笹を探す事にした。
子供が手に入れられると言う事は、町の中に生えているか、売っているのを買う以外の方法はない。
生えていればその土地の所有者の子供と言う可能性が高いし、生えてなければ商店に行って店員さんに話を聞けば良い。もしかしたら店員さんの知り合いの子供って事もあるかも知れない。そうなれば一気に子供の特定が出来るよね。
「ガイコツン、コレじゃないの?」
後ろを歩いていたゾンビンに肩を叩かれ、ホラっと指差された方向を確認すると、そこには立派な竹が数本生えていた。
「これは竹だよ」
「え?じゃあこっちのは?」
言い方が駄目だったのだろうか?ここにあるのは全部竹なんだけど。
「それも竹」
「こ、これは?」
「…竹です…」
まさか、1本ずつ聞かれるとは思ってなかったよ…。
なにはともあれ、町には生えてない事を確認した後、商店で聞き込みを開始させてしばらく、有力な情報を得る事となった。
子供の特定にはまだ至ってないんだけど、保育所って所があるらしくて、そこの保育士が昨日、子供全員分の笹を買って行ったらしい。
笹を買ったのが昨日なら、短冊を付けて依頼箱に入れに来る事も可能だ。
町に1件しかない保育所を尋ねて行くと、入り口の所には子供が書いた短冊付の笹がずらりと飾られている。
「間違いなさそうだ」
ゾンビンは手にしている笹と飾られている笹とを見比べ、短冊に使われている紙の素材までも細かく比べてから得意げに声を出した。
「後は子供を捜すだけだね」
部屋に案内されて入り、さぁ今から探そうと気合を入れる間もなく、1人の子供が俺達方に駆け寄って来ると、
「僕のお願い聞いてくれるんだね!」
と、ニコニコと嬉しそうにしたのだ。
そして思い出したのは短冊の内容、子供を捜すと言う依頼じゃなくて、この子のご両親を仲良くさせてくれって依頼だったんだった。
「えっと…パパとママは仲良くないの?」
視線を合わせる為にしゃがみ込んで聞くと、子供は明らかに表情を曇らせる。聞き方がまずかったか…けど、他にどう聞いたら良いのか分からない。
助け舟をゾンビンに出してみようと振り返ったんだけど、思いっきり視線を外されてた。どうやらこの場を一任されたっぽい。
「パパはね、ママと僕が嫌いだからお家にも帰って来ないの」
なっ…既に別居レベルの仲の悪さ?!じゃなくて!
「嫌われてなんかないよ!」
夫婦喧嘩がちょっと長引いてるだけ、そうでしょ?お両親に嫌われてるなんて、そんな悲しい事を考えちゃ駄目だ!
「だったらどうして時々しか帰って来ないの?」
時々は帰って来るのか、だったら仲直りしようって意思が少しでもあるって証拠…だよね?そうだよ、完全に嫌いなら帰って来ないよね!
「パパは普段何処に住んでいるの?」
「漁師の村ってママが言ってた」
住む町まで別々にしてるのか…漁師村なら近いけど、それでも子供が1人で行けるような場所ではないし、用心棒なしでは大人だって危ない旅になる。そこを移動して会いに来るって事は、この子の父親は用心棒を雇って?それとも戦う術を持った人物?
「俺達で連れてく?」
そっぽ向きながらもちゃんと話を聞いていたゾンビンが、軽く犯罪的な事を口にする。
「勝手に連れ回したら、それ、もう誘拐だからね?!」
あそっか、なんて呟きながら俯いたゾンビンがまたなにか好からぬ事を思い付く前にはなんとか良い方法を考えなきゃな…とは言っても、漁師の村から戻って来るのを待つしかないか…待てよ、母親も一緒に漁師の村に連れて行けば…いやいや、父親が絶対に漁師の村にいる確信はないよね…そもそも夫婦喧嘩中なんだから会いに行きましょうと申し出た所で大きなお世話と怒られる可能性が高い。それでも子供が仲良くして欲しいって切望している訳で、それを依頼されたんだからなんとしてでも仲直りしてもらいたいんだけど…実際は夫婦間の問題なんだから俺達がいくら回りで言った所で余計に夫婦喧嘩をこじらせてしまう可能性もある。
ん~~~、どうしたら良いんだろう?
冷静に話せる場を提供って言っても、結局は父親が町に戻って来なきゃ始まらないし…。
「あ、俺達でその子誘拐して良いんじゃないか?んで心配した両親をおびき出して話させれば…」
あぁ~、遅かった。ゾンビンが更に恐ろしい事を言い出しちゃったよ。
「その後は俺達が兵士に連れてかれちゃうけどね!」
理由がどうあれ誘拐は立派な犯罪ですからね!
今の時間だったらオチムシャンとミイランの2人は屋敷にいるかな?
こうなったらゾンビンにアドバイスをもらいに屋敷に戻ってもらって、その間に何か良いアイデアを…。
「ロイ君、お母さんが迎えに来たわよ~」
保育士がロイと名前を呼んだ瞬間、目の前にいた依頼主が猛ダッシュで行ってしまった。今更だけど、依頼者の名前はロイと言うらしい。
そんなロイ君は、俺達の事を忘れでもしたかのようにそのまま母親について行ってしまい、急いで追いかけてみたんだけど、母親はロイ君の手を握って町の入り口まで来ると立ち止まった。一瞬俺達を警戒してるんじゃないだろうか?とも思ったんだけど、そんな感じはなくて…待ち合わせた相手を待ってるような…そんな雰囲気だ。
時々背伸びをしながら遠くを眺めていた母親は、しばらくすると大きく手を振りながら遠くを指差し、暇そうに俯いていたロイ君は指差された方に顔を向けると満面の笑顔になった。だから俺もそっちに視線を向けると、1人の旅人が手を振りながら走って来るのが見えた。
「パパ~!」
ん?パパ?
仲良くして欲しいって依頼内容だったよね?え?仲良さそうなんだけど?
母親と自分の事が嫌いだから時々しか帰って来ないって言うから、もっとギスギスとした夫婦図を想像してたんだけど、人の目も憚らずに再会のキスなんてしてくれちゃってる夫婦の仲が悪いなんてどんな冗談ですか?
「依頼達成?」
笹をクルクルと回しながらゾンビンは親子を眺め、小首を傾げながら呟く。達成ってより、もっとこぅ…なんて言うか…依頼そのものが的外れだったって言うのか…だって、全然仲悪くないよね?
「今度は少し長く休みがとれたんだぞ~」
父親はロイ君を抱き上げながら笑顔でそう言い、母親は嬉しそうに
「そうなの?」
と。すると父親は表情を改めると苦笑いしながら、
「3日だけどな」
と。
そしてどんどん遠ざかって行く幸せそうな親子。
しまった、ご両親に出稼ぎと言う言葉をロイ君に教えてあげて欲しいと頼むのを忘れちゃったよ…。
まぁ、3日休みが取れたんだからその間一緒に過ごすんだろうし、そうなったらロイ君も両親の仲が良いって気付くんだろうし、自分が嫌われてるなんて考えも改めてくれるだろう。
途中から完全になにも出来なかった訳だけど、一応解決かな。じゃあ、報酬としてこの笹貰っとくね~。
「俺達も短冊にお願い書こうよ」
「いいね♪なら屋敷に戻って皆で書こっか」
6人分の願いを吊り下げるには笹は少し小さいけど、イベントは皆で楽しみたいもんね!




