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ディスペル  作者: SIN


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30/122

ジューンブライド

 まだまだ梅雨が続く中、いつもならデートに行っている筈のフラケシュンが無表情の無言で空を見上げたまま数時間を過ごしている。

 エルナさんはお城で働く兵士だから、きっと忙しくなったんだと思うんだけど、完全不動のその後姿に哀愁を感じずにはいられない。

 「主ら、茶はいらぬか?」

 広間に来るなり、そこにいた全員に聞こえる声で言うのはミイラン。少し前からそう言っては紅茶を勧めてくるようになった理由は、美味しい紅茶を淹れられるようになったからだとか。それならちゃんと紅茶と言えば良いのに、茶と言うから、

 「水~」

 と、ゾンビン。

 「コーヒー」

 と、フラケシュン。

 「拙者は緑茶」

 と、オチムシャン。

 こうして今日も紅茶以外のオーダーをする3人だったのでした。元々紅茶を飲むのはハクシャクンかミイランだけなんだから毎日聞いたってきっと無駄なんだろうけど、そう思うと毎日言われてるんだから1回位は紅茶をオーダーしてあげれば良いのに、とも思う。

 俺が飲食出来る体だったら良かったんだけどね。

 後頭部の回復は地味に進んでいるようで、毛が少しだけ増えた気がする。それにハクシャクンによると陥没部分の回復スピードが上がっているらしい。

 復活と再生の神様のご利益、なのかな?

 今の所、頭以外に回復の兆しはないからアフロのカツラを被ってるだけで良いんだけど、これが全身となると…今から服を着る習慣でも身につけようかな?

 そうと決まれば服を見に行こう。まだ体はダルイんだけど、それはきっと回復が進んでるって証拠だと思う。皆みたいに痒みじゃないだけマシだよね。まぁ、そのうち痒みも出てくるんだろうけど…。

 露出部分が出来るだけ低い服、そう考えて頭に浮かんだのはお城にいる兵士達が着ているような鎧で、だからって鎧ください、なんてお城に行っても門前払いになるだけだろうから、やってきました、リサイクルショップ。

 洋服から武器、鎧に至るまで、ありとあらゆる中古品が所狭しと並べられている。

 「雑貨コーナー見て来る」

 と、ゾンビン。

 「武器を見て来る」

 と、フラケシュン。

 「拙者は小皿を吟味してまいる」

 と、オチムシャン。

 「我は香水を」

 と、ミイラン。

 ゾロゾロとやって来た俺達は、店内に入るなりそれぞれ興味のある売り場へと散る。

 さてと、俺も目当ての服を見に行かなきゃね。

 鎧を一通り見て分かった事は、骸骨である俺に合うサイズがないって事。いやぁ、一通り見なくても分かりたかった初歩的な所なんだけど、ホラ、極端に華奢な兵士の1人や2人いたって可笑しくないでしょ?だから探したんだけど…そんな華奢な人はそもそも兵士なんかしてないよね、って…気を取り直して、普通の服を見てみよう。子供服ならきっと俺にも合う物がある筈だ!

 「はぁ~~~」

 子供服を見ていた俺の後方、物凄い特大の溜息が聞こえて来て思わず振り返ってみると、そこにはエルナさんが真っ白なドレスを眺めながらボンヤリと立っていた。

 ウェディングドレス?価格は他の服よりも少し高めの5000Gだ。

 こんなヒラヒラとしたドレス、兵士として戦うには邪魔だよね…普段着?いやいや、外は連日雨が降ってるんだから裾が地面に付いてる服は外出用ではない。だったら部屋着?部屋で着るならもっと楽な物の方が良いと思うんだけどなぁ。しかもだよ、5000Gだよ?傷薬なら500個も買える値段だ。

 「はぁ~~~」

 再び特大の溜息を吐いたエルナさんは、至近距離で様子を伺っている俺にさえ気が付かない程熱心にドレスを眺めている。

 「あ~、えっと、こんにちは~」

 知り合いだし、一応挨拶だけでもと言う事で声をかけてみると、エルナさんは飛び上がる程の勢いで驚いた後、

 「わわっ!あ、ガイコツン。こんにちは」

 と、かなり引きつった顔を向けてきた。

 「ドレス、ズット見てるみたいだけど」

 このまま無言になるのは気まずいけど、特になんの話題も思い付かなかったので思った事をそのまま聞いてみる。あ、先にフラケシュンが武器コーナーにいる事を教えてあげれば良かったかな。

 「6月に入ってから友達が続々と結婚しちゃってさ、ちょっと焦ってんのかなぁ」

 軽く溜息を追加で吐いたエルナさんは、休憩時間が終わるからと駆け足で店を出て行ってしまった。

 6月にお目出度い事が重なったんだよね?それでどうして焦るんだろう?

 どうして6月なんだろう?

 何も分からない俺は、一旦リサイクルショップを出てハクシャクンの店に向かい、お客さんがいないか確かめてから中に入ると、疑問だった事の質問をしてみた。

 「6月は結婚の女神の月なんだ。JUNE BRIDEって言ってね、6月に結婚した女性は幸せになれるって言い伝えがあるんだよ」

 人差し指を立てて説明してくれたハクシャクンにお礼を言ってリサイクルショップに戻り、武器コーナーで剣を見ていたフラケシュンを引っ張ってドレス前。

 「さっきね、ここにエルナさんがいたんだけどね、このドレスをズット見てたんだよ」

 あ、先にJUNE BRIDEの話をした方が良かったかな?

 「…なにが言いたい」

 なんだろう、酷く機嫌が悪いような気がする。でも、なにがそんなに駄目なんだよ、エルナさんは生前からの彼女なんだよね?その彼女が見ていたドレスだよ?確かに行き成り5000Gのドレスをプレゼントしろ、とかは言えないけど、そうじゃなくて。ドレスを着たいって事はだよ?結婚したいって事なんじゃないの?

 「6月には結婚の女神様が…」

 「俺は蘇った者だ。記憶もない。こんな俺になにを期待している?」

 そりゃさ、確かに蘇った“奪う者”だし、天使からは不浄な魂扱いされてるし、聖水飲んだ時点で昇天するとか言う不安定な存在なのかもしれないし、記憶だってない。だけど、それでもフラケシュンはエルナさんを好きになった。エルナさんだってフラケシュンの事を生前の時と変わらず大事に思ってくれてる。

 「期待してるのは俺じゃなくて、エルナさんじゃないかな」

 ロングロング溜息を吐く程にね。

 「50G貸してくれ」

 しばらく考え込んでいた様子のフラケシュンは、パッと顔を上げるなりそう言ってきた

 ドレスを買う事にしたんだ、そう思って快く50Gを渡したんだけど、フラケシュンはドレスに背を向けて歩き出すと武器コーナーにまで戻って、そこで300Gの細めで、綺麗な細工が施された短剣をお買い上げした。

 まさか…私物を買う為だったとは…エルナさんの話ガッツリ無視かよ!

 いや、無視してるんじゃないんだ、蘇った“奪う者”で、記憶がなくて、だからきっと普通に結婚とか出来ないって思ってるんだと思う。聖水を飲まない限り生き続ける俺達は言ってしまえば動く死体。皆はもう生前の姿に近い所にまで回復してるんだけど、それでもフラケシュンの肌は薬品的な物の色が染み付いた色で、オチムシャンは頭に矢が刺さったまま。ゾンビンだって回復が進んでも目は自由に動かせるだろう。そんな俺達は歳をとる事もない…好きな人と一緒に歳を重ねる事が出来ない…これはきっと長く過ごせば過ごす分重く圧し掛かってくる問題だと思うんだ。

 結果的に幸せに出来ないのなら結婚はしない。そう言う考えなんだろう。それでも恋人だって言うんだから、幸せにする自信がないってだけの言い訳だよね。

 支払いを終えたフラケシュンは、雨が降る中傘も差さないでお城に向けて走り出し、俺もその後を追いかけた。

 お城に行く途中にある塔の前、そこで見張りをしていたエルナさんは俺達を見付けるなり大きく手を振ってくれたんだけど、フラケシュンはそんな手を握ると真っ直ぐエルナさんを見つめた。

 2人共雨にぬれてベショベショなのに、そんな事が気にならないらしく見つめ合ったまま動かない。

 ガランゴローン

 塔にある鐘が鳴り響いて夕方6時を知らせる。

 そろそろ帰らないと晩ご飯に間に合わなくなるんだけど、さぁ帰るよって言い出せる雰囲気じゃない。

 「どんな姿になっても、お前は俺が守る」

 鐘の音が完全に消えた後、フラケシュンはエルナさんを抱き締めながら言ったんだけど、その顔は少し辛そうに歪んでいる。

 言葉だけ聞いたら完全なプロポーズなのに、そんな顔をされるとさ、逆の意味なのかな?って思えてしょうがない。

 一緒にはなれないけど、いつまでも守る。そんな決意なのかなって…。

 「そう?じゃあ私に足りない所はお願いするわね。その代わり、ディルクに足りない所は私に任せて!」

 エルナさんは、俺とは違った解釈をしたようで、恐ろしく男前な事をサラッと言うと得意げに拳を突き出している。

 フラケシュンは、突き出された拳に拳をチョンと当てて返事をすると、さっきリサイクルショップで買った短剣を手渡し、

 「エルナには…ドレスとか、アクセサリーとか、似合わない。だから、コレを…」

 と。

 女性に向かってなんという失礼な事を言うんだよ!似合わないって言い切らなくても良いじゃないか!

 「なにもいらないよ。ディルクと一緒にいられる時間があれば」

 一緒にいられるだけで良い、なんてさ、これはこれで立派なプロポーズだよね。あ、アレ?俺、もしかして恐ろしいまでのラブラブっぷりを見せ付けられただけ?

 「あ、何もいらなかったのか…」

 なにもいらない、と言うエルナさんの言葉を真正面から受け取ったフラケシュンは、短剣を回収しようと手を伸ばすが、その手はエルナさんによって叩き落された。

 「これは頂戴!」

 あぁ、やっぱりただただ仲の良い恋人同士の様子を見せられただけじゃん!!

 も~雨に濡れ損だよ!さっさと帰ってお風呂に入ろっと!

挿絵(By みてみん)

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