雨の一日
梅雨入りと言うのを向かえたらしく、昨日から雨が止まない。どんよりと重たい空の色のせいで、明かりを点けているのに部屋の中も薄暗く感じる。
こんな日はなにをするにも億劫なんだろうけど、フラケシュンは朝から出かけて行った。場所はお城の近くにある湖、そこで連日エルナさんとデートをしているんだ。始めの数日はやっぱり心配で、こっそり後を着けて様子を見てたんだけど、あの2人は至って普通のデートを繰り広げるから見てられなくなって、今はもう自由にしてくださいーな状態。
「お主ら、なにを呆けておる?しっかりしろ」
広間のソファーの上でゴロゴロしていると、新しい包帯を買いに出ていたミイランが戻って来るなり俺達を注意した。
俺達、と言うのはゴロゴロしていた俺とゾンビンの事。
「もう昼ではないか、いつまでそうしておるのだ?」
追加で注意をしてくるミイランに、ゾンビンは一応ヨイショと上半身を起しながら、
「今日は雨だから良いの」
と、どんな理屈なんだろうか?と考えずにはいられない言い訳を口を尖らせながら言った。どうやら、相当体の調子が良くないらしい。単純にダルイだけなんだろうけど、回復が進んできているゾンビンにとって梅雨の高い湿度はキツイのかも知れない。
そう思うと、俺もちょっとダルイような気がしてきた…痛覚も何もないってのにダルイのは可笑しいよね…雨だから骨に水分が入って重たくなってるとか?
病は気から、とも言うんだし、きっと気のせいだ。だったらゾンビンが動けない分俺がちゃんと依頼をこなして稼がないとね!
「うぅ~~~」
起き上がろうとしたゾンビンだが、やっぱりダルさに負けたらしくポテッとソファーに寝そべり、だるいよ~との弱音を吐きつつうつ伏せになった。そして徐に左手が背中をポリポリと。
ダルイ上に痒いのか。
「今日はゆっくりしてて。依頼箱見て来るよ」
そう声をかけてから立ち上がり、右腕にズッシリと感じる重みに視線を下げる。
本当にゾンビなんだけど、ゾンビっぽい動作と言いますか…うぉ~~~とか唸りながらしがみ付いて来る光景ってのは、流石にホラーだな~なんて感想文が頭に浮かんだものの、しがみ付かれてるのが骸骨って所で、なんだろうな、こぅ…一気にコメディーっぽい感じ。
ノソノソと起き上がったゾンビンと2人で依頼箱を見に行くが、その中にはゴミすら入っていなかった。こんな雨降りの日に、依頼の手紙を届けに外出~ってのは確かにシンドイかも…なんにせよ、今日も至って平和だって事で良いかな。
「急に暇だ~」
ゾンビンは大きく伸びをしつつ欠伸交じりの声を上げた。
「だからって、買い物って気分でもないしねぇ」
広間に戻ってゴロゴロしてたら、またミイランに怒られるんだろうけど、なんだか今日は酷くダルイ気がする。
可笑しいんだ、感覚も何もない筈なのに、気のせいだって何回も気合入れてるにも関わらず、横になりたい。
寝不足なのかな?
「あ~…じゃあさ、今日は別行動にしよっか」
なんか、ゾンビンが急に元気だ。外に出て多少雨に濡れた事で吹っ切れでもしたのかな?さっきまでソファーに倒れ込んでいたとは思えない変わりっぷりだよ。
生憎、俺にはそんな元気は搾り出したって出そうにないから、出かけるなら別行動と言う提案には賛成。
「うん、良いよ」
「やった。んじゃ俺、ちょっと用事あるから~」
あまり遅くならないようにね、そんなちょっとした注意すら聞かずに走り去って行く後姿を、俺は見えなくなるまで眺めていた。
別行動だって言ったんだし、置いて行かれたーってスネてるとか、そんなんじゃないんだけど、あのね、やったーって、そんな喜ぶ事ないんじゃない?
「…はぁ」
なんだろうな、本格的にシンドイ。今日はもう部屋に戻って寝よう。
本当なら薬草積みに行ったり、傷薬の調合したり、やる事はそれなりにあるんだけど、やる気が出ない時にすると雑になっちゃったりするからしないって決めてるんだ。だったら、梅雨が明けるまでは調合は出来ないって事になるんじゃないだろうか?けど、中途半端な薬を皆に飲ませられない。じゃあどうしたら良いのか、早く体調を戻せば良いだけだ。
「ぬ?依頼箱を見に行ったのではないのか?」
広間ではミイランが優雅に紅茶を飲んでいた。
「依頼の手紙、入ってなかったんだよ。ゾンビンは多分買い物に行ったと思う」
説明しながら余りものダルさに耐え切れず、ソファーに倒れこむ。骸骨だって言うのに、なんなんだろう、この体調の悪さは。
後頭部に少しだけ感じるこれは…なんなんだろう?痒いって訳でも、痛い訳でもなくて、ゾワゾワする感じ?いや、何かを感じるって事は、感覚が戻りつつあるって事?
まさか…ねぇ…?
「どうした?しんどいのか?」
本当にどうしたんだろう。どんよりと暗いから気分が滅入ってるだけ?それだと後頭部に感じるコレはなに?
「寝て起きたら治ってると思う…」
大した事ないって安心させる為に起き上がると、ボトッとカツラが落ちた。拾い上げてみるとなんだか重たい。
あぁ~、さっき雨に濡れたから水分を含んじゃったんだ。
じゃあ今日はショートのカツラ被らないと。痛むのが嫌だから出来るだけ被らないようにしてたんだけど、しょうがない。
部屋に戻り、アフロのカツラの中にタオルを詰めようとひっくり返した所で、見てしまった…育毛剤をかけて大事に育てていた地毛の変わり果てた姿を…。
「抜けたぁ~~~~!!!」
鏡の前に立ち、恐る恐る合わせ鏡をして後頭部を確認し、そこに見える光景が信じられずに手で触ってみる。
プニプニとした感触と、短いヒゲのようなトゲトゲした感触。
これは…なに?
後頭部のプニプニした部分を突いていると、慌てた様子のミイランがノックもなく行き成り入って来た。どうやらさっきの叫びは広間にも届いていたらしい。
「頭皮、だな。それに髪も生えてきているようだ」
後ろに立ったミイランによる詳しい分析結果を聞いても、やっぱり信じられない。
だって、俺骸骨だよ?!陥没した所だって完全に治ってないのに、急に頭皮が出てきたとか言われたって…困るよ…。
頭皮が現れたって事はだよ?髪が生えてくるってだけじゃなくて、他の部分にも皮膚が現れるって証拠じゃないか。そんな、嫌だよ…モザイク無いしじゃ直視出来ない体になるなんて!
「剥がす」
どうせ毟ったって痛くないんだ!こんなの、こうして、こうして、こうしてやる!
「なにをしておるか!折角再生しておるのだぞ?!」
必死になって剥がそうとしている俺の手を、ミイランは両肩が外れる程思いっきり掴みながら怒鳴る。でも、だからって止められない。回復が進んだらどんな事になると思ってんだよ、骨からの回復なんだよ?
「嫌なんだもん…グシャグシャになってくんだよ?そんなの、嫌だ…」
そんな姿を見せたくない。
もし、気持ち悪いって拒絶されたら?そう考えるだけで怖い。
もし、もしグシャグシャなまま回復がそこで止まってしまったら?
「そう泣かずとも良い。これを、主に貸そう」
俺に両腕を返却したミイランは、首にかけていたやけにゴツイ首飾りを外すと、俺の首にかけた。
確かにこの首飾りはキラキラしてるし、大きいし綺麗だと思う。だからって俺の容姿が緩和されて見える訳じゃない。
「アクセサリーを付けたって直視出来ない事に変わりないよ」
こんな綺麗な首飾りが、俺の色んなモノで汚れる危険性もある。それに、これはミイラン自身にかけられていた物だよね?ミイランの家族か、友達が贈った大事な首飾り。それを俺が首にして良い訳もない。
「これは復活と再生の神を模した首飾りだ。我が蘇ったのだからご利益はあるのだろう」
首飾りを外そうとした俺の両腕を再び外してニカリと笑ったミイランは、言う事聞かないなら腕を返さない。と言っているようで、強引過ぎるその態度に涙が止まってしまった。
「ただいま~。って、なにしてんの?」
丁度そこへ買い物から帰って来たゾンビンが中に俺しかいないと思ったらしく、ノックもなにもせずに部屋に入って来た。
「おぉ、主もこっちへ来て見てみろ」
そう言って俺の後頭部を眺める2人。その間にミイランから腕を回収する。
頭皮が少しあるだけだから、まだモザイクなくても大丈夫だよね?毛も生えてきてるって言うんだから普通だよね?
ねぇ…なんとか言ってよ…。
「1番長いの、抜けたんだ?」
え?そこ?
ゾンビンは、アフロのカツラ内側に抜けた毛を見付けると「あ~あ」なんて言いながら摘みあげ、丁寧にゴミ箱に捨ててから買い物袋を俺の膝の上に置いた。
「コレは?」
ビニールの買い物袋の中には、綺麗に包装された15センチ程の塊が入っている。どう見たってプレゼントとして用意された物だ。
満面の笑顔に急かされ、包装紙を出来るだけ破かないように丁寧に剥がして出てきたのは、木製の櫛だった。
「また生えたら使ってよ」
また生えたらって…1本しかない毛の為に櫛を買ったの?!
雨が降ってる中を態々?!
頭皮がもっと戻ったら、フサフサになると思う。だから…その時に使わせてもらうよ。ミイラン、その時まで復活と再生の神様借りとくね。




