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悪役令嬢フランシエスの悪辣推理  作者: 羽羽樹 壱理


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~Epilogue~

「バラの水(ローズウォーター)か。だから、クラシスはアルベルトに見えないようにして、それをワインに入れたんだな」


 とあるお屋敷の一室。

 未だ寝台に伏せながら、上体を起こして話に応じるアルベルトと、背もたれを前面にして肘置きとして使いながら椅子に座る、エドガーの姿があった。


「たいした毒じゃなくて、本当に良かったよ」


「ああ、私はもう、ほとんど問題ないよ。お前は大丈夫だったのか、エドガー?」


「大目玉だよ……。簡単に謝っちゃいけないんだろうけどよ、悪い……、今回のは確実に俺の過失だ」


「ハハ、私に万一があったら、お前の立場こそがヤバかったな。お互いラッキーだった」


 顔を反らして髪を搔きながら、エドガーは沈んだ声を漏らした。


「今回は、クラシスにも、悪ぃことしたなぁ……」


「いや、それはどうだろうか……? 状況的には、あの展開は、しかし仕方ないところはあろう」


「バラの水(ローズウォーター)。幼馴染の長い付き合いだけどな、でもやっぱり、女性の考えるようなことは、男には、分からないものだな」


 そして、エドガーは頬を掻いた。


「嫌だったら言ってくれな。ちょっと突っ込んだ話になるけど、アルベルト、お前そ(・)の(・)こ(・)と(・)は、どうするつもりなんだ?」


「バラの水(ローズウォーター)。薔薇の花言葉は、情熱、愛情、そして……――」


「『あなたを愛しています』。それを胸内に忍ばせてたってな。いじらしいじゃねえか。いや、正直……応援したい立場では、あるんだよ」


「んん……。彼女とは……その、どうにも、親友という認識が先行してしまってな。まあ、それだけのことなんだが。踏み出すとなると、勇気がいる」


「そうかぁ。ハァー、しかし、蒸し返すようだがな、クラシスには悪いことしたよ」


「そうかもしれないが、しかし、彼(・)女(・)ならあるいは――それで『悪い』などと、なんて、鼻で笑うかもしれないな」


「――なあ、アルベルト」


 エドガーは遠くを見やりながら、ぼんやりとした声を投げかけた。


「彼女――フランシエス嬢は、いったい、何なんだろうな?」


「ふむ。――何、か」


「何なんだろうとは随分な言葉だが、それ以外に、表現できる言葉が見つからないんだ。彼女はどうして……、ああまで自身を、『悪』と言い定めているのだろう。自負といってもいい自覚は、矜持にまで昇華されていて、だからこそ……あの時の、尋常でない様相《ようそう》だった彼女が、ある種、美しくすら見えたのだろう……。不思議だった――……全てが……」


「おそらく生まれながらに、『悪』という運命の道こそを、自身が歩むと分かっていた……そのように言っていたな、彼女は」


 アルベルトは指を組んで、エドガーのほうではない、どこかへ視線をやりながら話した。



『自身が歩むは悪の道であるという、気づき。であれば、そのことに無自覚になどならぬことこそ、私に成せる唯一の、美しい生き様《ざま》――』



「人はどうしたって、美しく生きる他《ほか》ない。自身の道を歩むのであれば。――彼女の言うことの大半は、正直よく分からないのだけど、そのことについては何となく、私にも分かるような気がするよ」


「醜《みにく》くも美しく、って話では……ないよな。彼女の様《さま》を見ていれば、それくらいは、分かる」


「我が性根と真正面から向き合う。なかなか、――難しいよな」


「永劫不変であろう性根というものを、認める、か。性格は変わろうと性質が変わろうと、性根は絶対に変わらん……それは、ともすれば、その通りなのかもしらん。だが、しかし。どうにか生きていかねばならない中、その姿見《すがたみ》から僅かも目を逸らさないなんて覚悟が、持てるだろうか? きっとほとんどの誰しも、そこまで『自分を救う力』はないだろう」


「だから、彼女は美しいんだろうね。そう、その棘さえも」


「『悪』の道……か。…………。なぁ、ところでアルベルト。お前、もしかして、フランシエス嬢に……悪くない気を寄せていたりするのか?」


 すると、アルベルトは「フっ」と、息を一つ吐き出した。


「――分かるだろう? 私と彼女では、少なくとも現状、格というものがまったく釣り合っていないことに」


「まあ、正直ちょっとばかし、『格』の差はある気がするよな。能力云々(うんぬん)のことではない、そう、『立ち方』が」


「そういうことだ」


「へえ、悪くは思ってないんだな。だがまあ、お前も、この国の第二王子だ。『立ち方』についてのことは、これから嫌でも磨き抜かれていくことだろうよ、そうすればいつか――……。でもな、選ぶなら絶対、他の女のほうがいいぜ」


 その真面目な声に、もう一つ「フっ」と息をついて。

 アルベルトは広い窓から、晴れ渡った空を見上げた。


 青く透明に澄んだキャンパス。


 白くたなびく、風の音が刻まれた雲。


 そして――……。


 なんとなしに空を眺めながら。


 燦然と輝く太陽にこそ、アルベルトは、彼女の持つ漆黒《いろ》を見出《みいだ》していた。



 

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