悪とは、『華やかしく美しく』あらねばならない。
おそらく生まれながらに、『悪』という運命の道こそを、自身が歩むと分かっていた。
悪。
それは「ある種の間違い」である。
ゆえに、悪とは、『華やかしく美しく』あらねばならない。
私は考える。
悪の道こそを歩むのなら。
『悪』たる意味を、醜い、または下賤であるという意味にしてはならない。
『華やかしく美しく』あらねばならない。
たとえ、「ある種の間違い」であったとしても、私という存在をして『悪』の美しさを証明しなくてはならない。
故に。
私は醜く、下賤な悪――または自身以上の『悪』というものを許さない。
私こそが、最も美しい、『最悪』なのだから。
◇
フランシエスという名を、無礼にも噛んだり、あまつさえ「フランシエル」と間違えてみたり、または「発音しづらい」などと宣った輩には、例外なく地獄を見せてきた。
高貴な名を口にすることに喜びあれど、その名を損なうことなど許されない。
その一例でいえば、国の第二皇子アルベルトと、その幼馴染である令嬢クラシスは、意想外に私の美しき目に叶う者と、私の癇に障る者とで対比的であった。
「初めまして、フランシエス」
そうして彼が私の名を呼ぶ初顔合わせの声には、どんな含みもなく私を明るく照らすような陽と、また私の名を呼ぶに相応しい敬意が込められていた。
「アルベルト」という名を、この私が、初対面ではっきりと覚えた。そのような程度の男であった。
対して。
「は、初めまして、フランシエ――ス、様……!」
クラシスとの初対面。――何に苛ついたかといえば、自身の名の末にも「息を擦る音」が混じっているくせに私の名を危うく噛みそうになった、その底なしの阿呆さ加減であった。巫山戯んな。
あの時は「ブッ殺すぞ」という言葉を危ういところで飲み込んだものだ。
印象はあれから変わらず、今も彼女の名を口にするその末尾、私は冷笑的な息が漏れるのを抑えられないでいる。――三回に一回は未だに私の名を噛みそうになってんの、バレてんだよ、あの阿呆ヅラ。
そんな彼女が、幼馴染という立場でアルベルトと近しい場所にあることが、どうにも癇の種であった。この私に苛々させるとは、どのような存在のつもりなんだ、あの女。
今夜の晩餐会。
アルベルトも出席するようであるが、一方クラシスとも顔を合わせなければならないことを考えると、癇に障って頭が痛む。
…………お前、今、「勝手に苛々していろ」、と考えたか?
面白い。処刑を超えた地獄を見せてやる。
『悪』の意味を知るがよい。




