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星神機ミソロジア―孤独を抱く瞳に白翼の道標を―  作者: 巴 雪夜
第二章:弱さに震える心を抱きしめて

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第12話 グラナート、邂逅


 ハナノミヤ国領海、海上予測ポイント五時の方向にそれは現れた。例えるならば、それは狼だ。


 太陽を思わせる金の鎧は騎士のように凛々しく、狼の風体をした兜の視界からはぎらりと光が零れる。


 白い隼のようなザフィーアとは違う、金の狼であるグラナートは右手に剣を、左手に盾を持ち構えていた。相手も同じく、認識したようだ。


 グラナートの周囲には狼の頭部に似た浮遊物が三機、ぐるぐると回っている。


 あれはなんだとアルフィルクが確認しようとすれば、ポラリスが「あれはグラナートの武器の一つ」と察したように教えてくれた。



「ウルフヘッド。レーザーを射出してくるから気を付けて」


「遠距離攻撃もできるってか」


「でも、連続射出はできないの」



 どうやら、連続でレーザーを撃つことはできないらしい。クールタイムがあるということなのだろうと、アルフィルクは解釈する。


 ザフィーアに遠距離攻撃の武装が無いわけでない。けれど、特徴として近距離と格闘戦術がザフィーアの得意とする戦い方だ。遠距離攻撃の武装はお守りのような扱いである。


(ビームだろうと、ミサイルだろうと、当たらなければ意味はないからな)


 遠距離攻撃の武装に頼りきりでは接近戦に持ち込まれた時に不利となる。その点においては問題なくザフィーアは対応ができた。


 遠距離攻撃をされても、白翼のマントがシールドとなって防ぎ、距離を詰めることができる。


 相手はどう動くのか。アルフィルクは視界モニターからグラナートを観察した。


 相手はぴたりと立ち止まり、高度を維持しながらザフィーアを見止めている。一定の距離を保ちながら、じっと。



『我が弟よ、グラナート。聞こえるか』



 ザフィーアが語りかける。同じミソロジアであるならば、グラナートにも自我はあるはずだ。


 けれど、返事は返ってこない。沈黙するグラナートにザフィーアがもう一度、声をかけて――剣を向けられた。


 ゆっくりと真っ直ぐに。剣先が向けられて相手の敵意を知る。ザフィーアの声はグラナートには届いていない。


 グラナートの両脇に居た、蛾のようなフォルムの二機のアポストルスが翅を羽ばたかせながら突進してくる。


 それを待機していたエクエス部隊第二、第三戦隊が止めるように間に入った。


 同じくして、グラナートが勢いよく飛んできた。戦闘の合図にアルフィルクは操縦桿を切り返す。


 上空に飛び上がったザフィーアが槍を振り上げて、盾を構えたグラナートに突撃され――空中戦が開幕した。


 槍と盾がぶつかり合う。鈍い音を鳴らして、二機は距離を取った。獲物を狩る狼のようにグラナートは間を置かずに襲い掛かる。


 振るわれた剣を白翼のマントで弾き返し、ザフィーアは応戦する。


 槍を振い、距離を詰めて、ザフィーアはグラナートの名を呼ぶ。けれど、返事はなく、ただ飢えた獣のように牙を向けてくるだけだ。



『ユーストゥス! 聞こえる、ユーストゥス』



 通信機からフォルティアの声がした。グラナートへの通信を試みているようで、搭乗しているだろう調律者の星人(ほしびと)、ユーストゥスに問いかけている。


 無事なのか。意識はあるのか。フォルティアの声音は落ち着いていたが、心配しているだろう想いが籠められていた。



『っ、……ぅ』



 僅かな声が聞こえた。苦しげな、嗚咽を吐くような。声音からして少し高めの若い女性だ。


 些細な反応にユーストゥスが搭乗していると確信したフォルティアの声が大きくなる。



『ユーストゥス、苦しいのね。大丈夫よ、わたしがいるわ』



 わたしがいる、だから戻ってきて。優しく語りかけるようにフォルティアは想いを伝える。


 グラナートの動きが変わった。ザフィーアの槍を盾で受け止めて、剣を振り上げたかとおもうと後方へと飛んだ。


 ぎちぎちと腕が押さえつけられている音を鳴らす。それは攻撃をしようとしながらも、拒絶しているかのようだ。


 抗っている。アルフィルクは思った、まだ意思があるのだと。ユーストゥスは洗脳汚染されて操られながらも、まだ意思は残っているのではないか。


(操縦しているのは調律者か? いや、エクエス機のパイロットがメインのはず……)


 エクエス機のパイロットだった少年、シリウスの操縦をユーストゥスは止めようとしているのかもしれない。



『あ、あぁぁああああああっ!』



 張り上げる声が通信機から響いた。若い少年の唸るような雄叫びだ。瞬間、ぎちぎちと鳴る腕に力が籠められて、解放される。


 獲物を捕らえんとする狼のように飛びかかってきたグラナートを、ザフィーアの槍で受け止める。先ほどと違った力にアルフィルクは操縦桿を押さえこんだ。


 ぷつりと通信が切れる。それは相手からの拒絶、あるいは拒否反応。ただ、フォルティアの声が届いている証明でもあった。


 アルフィルクは操縦桿を操作して、ザフィーアはグラナートの腹部を蹴り飛ばした。空中から海へと落ちながらグラナートは旋回し、浮上して剣を向ける。


 荒く振り下ろされる剣を槍で跳ね返し、ザフィーアは白翼のマントを翻して――展開する。


 グラナートの周りを浮いていた三機のウルフヘッドがザフィーアを取り囲み、口を開ける。淡い光が射出され、白翼のマントに傷を作った。


【レーザー反応確認 損傷度:軽傷

 シールド耐久値:92.5% 稼働率:65.9%】


 シールドの耐久値が減るが、稼働率は安定している。損傷度も低く、まだ戦うことはできると、アルフィルクは小型モニターに指を滑らせた。


 入力されるコマンドによって、ザフィーアの稼働率がゆっくりと上昇し、白翼のマントが羽ばたく。


 隼が空を駆ける。槍を振るい、剣が交わり合う。刃と槍先がぶつかり合う音だけが海上に木霊する。


 背後を狙うウルフヘッドのレーザーを舞うように避け、蹴り上げた。びゅんっと勢いよく飛んだ一機のウルフヘッドが、二機目にぶつかり、海へと落ちていく。



 蹴られた一機は浮遊するのがやっとといったふうで、三機目と共にグラナートのほうへと戻っていった。


 ザフィーアが槍を大きく振るった隙、グラナートが懐に入ろうとして、後方から弾丸を受ける。


 ザフィーアの真下を潜り抜けるように回避したグラナートの視界の先には、エクエス部隊第一戦隊たちだ。


 彼らはフォーメーションを組んで、ザフィーアを援護する。放たれる弾丸をグラナートは避けながらも、盾で防いでエクエス機たちと距離を詰めてきた。


 一機のエクエス機が銃を向けたと同じく、グラナートの剣によって切り捨てられる。その勢いのまま、盾で殴られて海面に叩きつけられた。



「っ!」



 アルフィルクの反応が間に合わない。目の前で海に沈むエクエス機を確認する間もなく、グラナートは剣を向けてきた。


 ザフィーアが剣を避け、第一戦隊のエクエス機が二機、三機と銃撃で応戦する。


 けれど弾丸は全て盾で防がれてしまい、ザフィーアはそのまま接近されて――グラナートは横から突き飛ばされた。


 黒いスマートなフォルムのエクエス機がグラナートに体当たりして守ってくれたのだ。相手が振り返るのと同時に銃を放つ。


 距離を引き離すように連射される銃撃にグラナートは盾を構えながら後方へと下がる。



『少年、今だ!』



 黒いエクエス機から通信が入る。この声は第一部隊長、スーザリオだ。


 アルフィルクは操縦桿を操作し、ザフィーアを一気に降下させて、エクエス機たちから離れたグラナートに急接近した。


 振り上げられた槍がグラナートの頭部を掠める。盾を構え直し、ザフィーアの胸を殴るようにしてグラナートは回避した。



『ユーストゥス! シリウス!』



 通信が再び繋がり、二人の名が呼ばれる。フォルティアの優しくも、力強い声に。



『グラナート!』



 ザフィーアの声がした。彼もまた、グラナートへ呼びかける。


 ぎしりとまた腕が鳴る。グラナートが無理矢理に動かそうして。再び、呼びかけられてグラナートは上昇した。


 それはザフィーアから、フォルティアの声から逃れるように。ぶつりと通信が切れて、グラナートは後退していく。


 逃がすかと、アルフィルクが操縦桿を切り返し、ザフィーアを上昇させるも、蛾のような見た目のアポストルスが突撃してきた。


 エクエス部隊第二、第三戦隊の攻撃を吹き飛ばすように。


 アポストルスを弾き返し、グラナートを追いかけようとする瞬間、周囲は光に襲われる。強烈な閃光にエクエス機だけでなく、ザフィーアも、視界が奪われた。


【視界不良 修復まで一分三十五秒

 索敵機能 一時、停止】


 グラナートが放った攻撃か、アポストルスの支援か。視界が回復する頃にはグラナートの姿はなく、囮として残された一機のアポストルスしか残されていなかった。


 グラナートたちとの戦闘領域から離れていた巨大空母艦オリジンビリーブもまた、視界・索敵不良に陥っていたようで、通信機から「索敵範囲外、逃げられました」と、オペレーターの指示が聞こえた。



「逃げられた、か」



 アルフィルクは小さく舌打ちをする。救助が無理であるとは聞いていたが、相手の反応に洗脳汚染から抗っているのは見て取れた。


 もしかしら、そんな考えが過らなくもない。逃亡したのがその証明ではないだろうかと。



『我が弟、グラナート……』



 悲しげなザフィーアの声がする。アルフィルクは黙って操縦桿を操作した。逃げられてしまった後にとやかく言っても無駄だ。


 アルフィルクは襲い掛かってくる蛾のようなアポストルスを倒すことへと意識を向けた。

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