第11話 出現する、ミソロジア
それは夜が明けた頃だった。まだ太陽が海に半分ほど飲まれている中、艦内アナウンスが流れる。眠っていた意識を浮上させて、アルフィルクは起き上がった。
質素な狭い室内の、寝心地が良いとは言い難いベッドから下りて服を着替える。まだ新しい白地に黒のラインがあるパイロットスーツを身に纏って部屋を出た。
無機質な通路を白衣を着た研究員と軍人たちが忙しなく駆けていく。アルフィルクは自分を呼ぶ艦内アナウンスを聞きながら司令部室の扉を開けた。
エクエス部隊の各部隊長が敬礼し、アルフィルクと入れ違うように部屋を出て行く。
そんな彼らを横目にモニターの前に立つクリフトンの傍へとアルフィルクは歩み寄った。彼の隣いたポラリスが気づいのか手招きをする。
同じパイロットスーツ姿のポラリスを見るに出撃するのは間違いがない。アルフィルクは「俺はどうすればいい?」と問う。
「グラナートが出現した。ミソロジアは彼の相手をすることになる」
グラナート。フィーニスコアによって洗脳された星人と、エクエス機のパイロットだった少年が搭乗しているミソロジア。オリジンは彼らの位置情報を特定したようだ。
複数体のアポストルスと共にリュウグウ国とハナノミヤ国を繋ぐ海域を移動しているという。
海上での戦闘となるとクリフトンに言われて、アルフィルクは初めてのことに少しばかり不安を抱いた。
地上での戦いと違い、海上は勝手が違うはずだ。そんな不安を察してか、ポラリスが「ザフィーアなら大丈夫」と言った。
「ザフィーアは空中戦もできるわ」
「そう言われても上手くできるとは限らないだろうが」
ザフィーアが空中戦もできる性能をしているからと言って、上手く戦える保証というのはない。アルフィルクにそう言い返されて、ポラリスはそれもそうねと納得したように頷く。
ポラリスのそんな態度にアルフィルクが眉を寄せれば、クリフトンが「今すぐ救助するわけではない」と間に入る。
「現状、救出は難しい。彼らの情報を集めつつ、ハナノミヤ国への侵入を阻止するのが今回の任務だ」
ミソロジアであるグラナートが破壊行動へと参戦すれば、被害の拡大は免れない。そうならないようにハナノミヤ国へと到着する前に撃退しなければならなかった。
オリジンはグラナートの位置情報を集めていたこともあり、ハナノミヤ国の領海へと入っている。
特定した位置から離れてはいなかったこともあり、巨大空母艦はもう間もなく、予測移動地点に到着する予定だ。
「グラナートと邂逅後、こちらは通信を試みる。彼らの反応も情報の一つだ。君たちはザフィーアに搭乗し、出撃してくれ」
クリフトンの指示にアルフィルクは返事を返すことなく、司令部室を出た。急げと言われたのだから、言葉など必要ないだろうと。
早足で格納庫へと向かえば、ザフィーアの出撃チェックが行われていた。モニターを操作しながら研究員たちが、整備員へと指示を出している。
どたどたと忙しなく走る中を通り抜けてリフトに乗れば、たっとポラリスが飛び乗ってきた。
小走りに追いかけてきたのか、少しばかり息を切らしているポラリスにアルフィルクは声をかけない。なんと、話しかければいいのか分からなかったのだ。
リフトが上がりザフィーアの胸のハッチが開いて、アルフィルクはコックピットに乗り込んだ。
ポラリスが後部座席に座り、安全装置の接続を確認してからハッチはゆっくりと閉まる。
「ミソロジア――ザフィーア、起動確認!」
「パイロット搭乗、調律者との接続正常!」
「システムオールグリーン! 出撃、いつでも可能です!」
外からモニターを弄っていた研究員たちの声が上がる。背に繋がれたプラグが外されて自由になったザフィーアは、手に槍を携えて一歩、前に出た。
視界モニターに映し出さる光景に異常はなく、画面端に表示される情報も正常だ。アルフィルクは操縦桿を握って、小型モニターに指を滑らした。
がちゃんとザフィーアの手首が鳴る。収納されている鎖も、隼の爪を彷彿とさせる槍も使用可能だ。整備に問題がないことを確認してから、アルフィルクはポラリスの言葉を待った。
「調律を開始。バイタル正常……感覚一致、完了」
ザフィーアと繋がったポラリスが調律を始める。アルフィルクには何をしているのかは分からない。
ただ、複数の機器が彼女たちを繋いでいるのが見えるだけだ。
「ザフィーア、調律成功」
ポラリスの合図にアルフィルクがセーフティを解除する。ザフィーアの瞳の光が増した。
ゆっくりとリフトから上がり、巨大空母艦の飛行甲板へと足をつけて、ザフィーアは駆け飛んだ。白翼のマントを羽ばたかせて。
すっかりと昇った太陽に向かって、隼のように空を飛ぶザフィーアの飛行は問題ないようだ。
アルフィルクは操縦桿を握りながら、周囲を警戒するように視界モニターを見る。
天気は快晴。雲一つない空は見渡しが良い。視界は良好であり、天候が悪くなる気配はなかった。
後方では色鮮やかなエクエス機がザフィーアに追従していた。あれはエクエス部隊第一戦隊だろうと、アルフィルクは小型モニターを使って情報を視界モニターに映し出す。
エクエス部隊第一戦隊はザフィーアの援護を、第二、第三戦隊はグラナートの傍に居るアポストルスを引き離す、言わば囮だ。
表示された作戦司令にアルフィルクは何とも言えない表情を作りながら情報を消した。
『グラナート接触予測ポイント、五分以内に到着予定』
オペレーターの声が通信機から聞こえる。もう間もなく、グラナートと邂逅することになるだろう。
アルフィルクは操縦桿を握る力を強める、不安を誤魔化すように。




