97. 鬼の子は鬼、鬼の親も鬼
雄太が棘槍や餓鬼を解除しながらスキルズの下へと到着すると、大鬼と鬼人が雄太へと労いの言葉をかけてきた。
「主ぃ。お疲れです!」
「主。お疲れ様です!」
「おう。オマエらもな」
そして、壁の上に座っていたエルダが、戦いが終わって帰って来た雄太へと向けて口を開いた。
「相変わらず容赦ないわね〜・・・あんな可愛い娘をボロボロになるまで追い詰めた上に、油断させておきながらあんな酷いトドメの刺し方をするとか・・・ホント鬼ねっ!ユータは正真正銘の鬼ね!大鬼と鬼人には、ユータの性格や考え方が色濃く反映されているって事を、今日、改めて知ったわ!」
エルダはボロボロの芽衣へと躊躇なくトドメを刺した雄太にドン引きしていた。
「言い方ぁっ!なんて事言うんだオマエは!?」
「だってもう、外から見ていたら誰もがそう言うわよ!あの娘との戦いと言い、戦意喪失して逃げている相手に対して、餓鬼を大量に嗾けて追い込む姿勢と言い、流石鬼達の主って感じよ!」
「そんなの、こんな巫山戯た事を考えたヤツが悪いんだろぉがっ!?俺は全く悪くねぇぞ!」
「容赦の無さは、雄太が一番で、次が鬼人、そして大鬼って順ね!鬼の子は鬼で、鬼の親も鬼って事ね!」
エルダは誰に対しても容赦のない雄太の戦い方を貶して楽しんでいた。
「おまえ、今晩、飯抜きな。働かざるもの食うべからずな」
「え?ちょっと?何よソレ!?どう言う意味!?雄太が私は戦わなくて良いって言ったんでしょぉぉ!?なんでそうなるのよ!?なんでわたしだけご飯抜きになるのよ!?おかしいでしょソレ!絶対におかしいでしょぉぉぉぉぉ!?」
エルダは、雄太に言われたご飯抜きと言う言葉に対して酷く焦りだした。
雄太へとエルダが必死になって今夜のご飯の事について激しく抗議していると、広場の入り口から白髪の男と、薄ピンク色のおばさんが現れた。
「エージ。連れて来たぞ」
白髪の男は広場へと現れるなり大声を出して木下へと声をかけ、薄ピンク色のおばさんは、事前に状況を知っていたのか、近くに倒れている者へと向かって行き、何やら治療をしている様だった。
「ありがとうヤリク。助かる」
木下にヤリクと呼ばれた白髪の男は、自分の仕事は終わったとばかりに、闘技場の入り口からゆっくりと雄太へと向かって歩いて行った。
大鬼と鬼人は、こちらに向かってくる白髪の男に気付いて視線を向けた。
「どもども。君が橘花 雄太君で合ってる?」
白髪の男は抑揚のない低い声でエルダと言い争いをしている雄太へと声をかけた。
「ん?どちら様で?」
「雄太ちょっと!?ーー」
「ーーうるさい。黙ってろ」
雄太は晩ご飯についてしつこく抗議してくる煩いエルダを黙らせて、白髪の男へと向かい合った。
「俺はヤリク。あのバカのパーティーメンバーだった者さ」
ヤリクは闘技場で芽衣を抱き抱えている木下を左手の親指で指差した。
「・・・って事は、あなたはーー」
「ーーあぁ。ルカと一緒にこの世界へと来た者だ」
この言葉で、雄太はヤリクと名乗る白髪の男が異世界の者と言う事が分かった。
「・・・そうですか」
「え?それだけ?他に何かないの?」
「他に何かあるんですか?」
雄太はヤリクが異世界の人間、母親のパーティーにいた人物だからと言って特に何も感情を抱く事はなかった。
「・・・いや・・・別に・・・」
ヤリクが雄太に無下にあしらわれていると、芽衣を抱えた木下がやって来た。
「小僧・・・」
木下はボロボロになっている芽衣を抱えながら雄太へと睨む様に鋭い視線を向けていた。
「どうした?なぜ俺を睨む?」
「大切な1人娘がここまでボロボロにされれば、親としてそうなるだろ」
木下はまるで子の仇と言わんばかりに雄太を睨んでいた。
「アホか・・・アンタが容赦無くやって良いっつったんだろ?逆恨みかよ?」
雄太は木下の愚痴や戯言をオマエのせいだろ?と言った様な感じで軽くあしらった。
「だが、ここまで酷くやる事はーー」
「ーーはぁ?アンタが欲しがってた経験や覚悟ってものを俺は見せたんだぜ?そもそも、相手の方が人数的に有利だっただろうが?ってか、コイツら、戦いを舐めすぎだろ?ジジイ、俺を舐めてるのか?舐めプなのか?」
「グぅっ!」
「それに、武器を取って人へと向かって来るんだったら、逆に襲われるって事も、勿論分かってるんだよな?コイツらは?アンタは勿論その事をコイツらに真っ先に教えんたんだよな?」
「・・・・・・」
木下は雄太の言葉に対し、下を向いて黙ってしまった。
「・・・うわ・・・マジかよ・・・アンタ、そんな常識すらも教えてなかったのかよ?そんなの、イジメっ子が、イジメられるヤツに問題があるって言っているのと同じだぞ?どこからそんなアホみたいな巫山戯た自信や理屈、理論が出てくるんだ?モンスターと対峙するのも一緒だろ?狩るのであれば、狩られる覚悟も勿論こいつらにはあるんだよな?」
「雄太君。それくらいにーー」
「ーーアンタも一緒だよ」
「え?」
ヤリクは木下を責めている雄太を止めようとしたが、逆に自身へと雄太と言う火の粉が飛び火する。
「アンタも、何故、このジジイのやり方や考え方を良しとした?大の大人が揃いも揃って、何を次の世代へと教えた?アンタらが教えたのは、敵は攻撃してこない。だから自分は安全、大丈夫。集団で、みんなと一緒に居て、みんなと一緒の事をすれば安全。って事だろ?」
「「・・・・・・」」
雄太の言葉に対し、木下もヤリクも何も言い返せなかった。
「ホントクソだな。何が裏ギルドだ。そんなクソみたいな事を胸を張って教えてるんだったら、ギルドと一緒に同じ事してろよ。その方がみんなと仲良しこよしできるだろ?そんで、モンスターって言う共通の敵でも作って、幸せに暮せばいいだろ?そうすりゃ誰も傷つかねぇぞ?」
雄太は、入るとは言ったものの、この余りにも緩すぎる考えを持った組織に対し、あまり良い印象を抱く事ができなかった。
(緩すぎる。ここは全てが緩すぎる。だからギルド、異世界の連中にも良い様にされてるんだ)
「小僧。それまでにしとけ」
「雄太君。言い過ぎだよ」
「お?図星だったか?昨日は入るって言っておいてなんだが、悪いが俺はここを抜ける。お袋が作った組織って言われても、俺には全く関係ねぇ」
「な!?」
「えぇぇ!?」
雄太が組織を抜けると言うことに対し、木下とヤリクは表情を変えて驚いた。
「抜けるついでに言っといてやる。こいつら、全くダメだ。一緒に連れて行けねぇし、連れて行って足を引っ張られるのもごめんだ。唯一真面だったアンタの娘は、過保護な親によって、ガラス細工の宝物の様に大切に守られているしな」
雄太は木下の腕の中にいる芽衣へと視線を向ける。
「って事で、今後一切、俺に関わってくるなよ。オマエら行くぞ」
雄太はスキルズを顎をしゃくってここから出て行く様に促した。
「小僧!?」
「ちょっと待ってよ雄太君!?」
木下とヤリクは、この場から立ち去ろうとする雄太を引き留めようと手を伸ばすが、雄太は木下達へと背を向けてこの場から立ち去ろうとする。
「キミ。ちょっと待って」
しかし、不意に声をかけられた事によって雄太は足を止めてしまい、声の主へと顔を向けた。
声の主は、長い薄ピンクの髪を後ろでまとめて束ねているおばさんであり、先ほどから傷ついて倒れていた裏ギルドのメンバー達を治療していた人だった。
「まだ何か?組織の秘密を知ったから俺を生かして返さないとか?」
雄太はそっちがその気なら殺ってやるぞ、と言った様な表情を浮かべながら、薄ピンク色の髪をしたおばさんへと身体を向けた。
「キミ。ルカの子供の雄太君だよね?」
どうやら、このおばさんは雄太の母親や雄太の事を知っている様子だった。
「そうですが、それが?」
「キミが此処を去ると言うのなら止めないわ。個人の自由だしね」
どうやらこのおばさんは雄太が去るのを止める様子はなかった。
「けどね、キミはこの組織で一番強い娘を倒したのよ?」
「はぁ?」
雄太はおばさんが放った言葉に疑問を抱いた。
「キミが倒した彼女は、この組織の誰よりも、そして、そこにいるエージ、ギルドマスターよりも強かったのよ。その事は覚えておいて」
薄ピンク色のおばさんの言葉に対し、雄太は木下へと目を向けるも、木下は雄太の目を見つめ返して無言で頷いた。
「・・・ソレが事実なら、この組織、マジで終わってんだろ・・・」
雄太はおばさんの言葉によって、雄太が木下 ー勇者ー 以上の力を持っていると言う事に気づかされたが、ソレがどうしたと言わんばかりにおばさんへと視線を移した。
「その終わってる組織をキミのお母さんが作ったのよ。そこで・・・キミは、この終わっている組織を、キミの力で変えてみようとは思わない?」
「な!?」
「クレシア!?」
おばさん、クレシアが発した言葉に対して、木下とヤリクは驚き、表情を色濃く変化させた。
「だってそうでしょ?彼にはこの組織を引き継ぐだけの力も理由もあるわ」
クレシアは悪びれた素振りもなく、木下とヤリクへとサラっと雄太についてを理解させた。




