82. VSフード 3
赤腕に拘束されながら雄太の下へとやって来た短槍の男は日向であり、雄太は、何故、日向がここに居てこんな事をしているのかと言う事に対し、驚きと同時に多くの疑問や疑いが溢れて出て来た。
「アンタ・・・一体何してんだよ・・・」
雄太の顔は、色々な考えや思いと言った感情がグチャグチャになったかの様に歪められており、まるで悲しいモノをみる様な目つきで、口の端から血を流している日向と目を合わせた。
「クっ!」
雄太に顔がバレた日向は、気不味そうに雄太から視線を外して顔を背け、奥歯を噛み締めていた。
「オイ。言い訳でもなんでも言いから何か言えよ。アンタ、一体何やってんだよ?」
雄太は眉間にシワを寄せて悲しそうな顔で日向へと再度質問した。
「・・・参ったよ。まさか、君にここまでの力があるとは・・・スライムダンジョンを一人で先行し、踏破したのは伊達じゃなかったんだな・・・」
「そんな見えすいたお世辞なんてどうでもいい。俺が聞きたいのは、何故、アンタが此処に居て、何故、こんな事をやっているのか、って事についてだ」
日向は何かを諦めたのか、大きく息を吸って鼻から「ふぅ〜」っとゆっくりと吹き出し、背けていた顔を雄太へと向けた。
「・・・君は・・・ギルドに対してどう思っている?」
徐に口を開いた日向は、意図が分からない質問を雄太へとした。
「そんなの、ダイバーになったばかりの俺が知る訳ないだろ」
「あぁ、そう言えばそうだったな・・・では、質問を変える。今日、ギルドへと出頭して来たらしいが、ギルドに対してどう感じた?」
雄太は、ギルドのトップである近藤と片桐の事を思い出し、同時にアリアの言葉が頭を過った。
「この質問に俺が答える意味が?」
「無いな。何も感じなかったのであればそれで良い」
日向は何かを含んだ様な言い方をしながら話を切った。
「それで、何故、私がここに居て、何をやっているのかと言う質問だったな」
「あぁ。頼むから大人しく話してくれないか?俺としても、顔見知りはあまり傷つけたくないんでな」
「ククククク。これだけやっておいて良く言えるな。さっきの君の一撃で、既にアバラが何本かイッているよ」
日向は何が可笑しかったのか、笑いながら拘束されている雄太の赤腕へと視線を落とした。
「あのスライムダンジョンを踏破した君は、ダンジョンの奥にあったダンジョンコアを見た筈だが違うか?」
「あぁ。見たな」
「だが、君は、ダンジョンコアを見ただけじゃなく持ち出した筈だ」
「何故そう思う」
雄太は日向の言葉に対し、無表情で淡々と答えた。
「それは・・・あのダンジョンが最後だったからだ」
「は?」
雄太は日向の”最後”と言う言葉の意味が分からなかった。
「ダイバーになったばかりの君は知らないだろうが、この地球上にあるダンジョンは、全て踏破されている。ただ1箇所、スライムダンジョンだけを残してな」
「・・・それで。その最後のダンジョン踏破と、何がどうなって俺がダンジョンコアを持ち出したって事に繋がるんだ?」
「通常、ダンジョンコアは、ダンジョンからはどうやっても持ち出せない。持ち出そうとしてコアへと触れると、何故かダンジョンの入り口へと転移してしまう。これはどこのダンジョンでも同じ現象が起こると言う事が分かっている」
雄太は、先日おばちゃんから聞いた話を思い出した。
「だが、ソレが例外なダンジョンがある」
「なんだそれ?」
「持っているんだよ。我々も。ダンジョンコアを1つ、な」
「!?」
「数多くあるダンジョンの中には、ダンジョンコアを持ち出す事ができる特殊なダンジョンがある。そして、コアが持ち出された後もコアが無いダンジョンは今も尚存在している。知っているかい?そのコアが持ち出されてコアが無い、特殊なダンジョンの最下層に何があるのか?」
雄太は広大な空間やスライムグラトニー、鎖で繋がれていたアリアの事を思い出した。
「コアが無い全てのダンジョンには、コアの代わりに”鎖で繋がれた人間がいる”」
「・・・・・・」
「しかも、その人間へと触れようとしても、触れる事ができない。君はあのダンジョンでその光景を見た筈だ」
雄太を見つめる日向の目は、力が籠もっているかの様に月の光を浴びてギラついていた。
「そして冒頭の君への質問だ。ギルドに対してだ」
「・・・それで」
雄太は日向へと続きを言う様に相槌をうって先を促した。
「ギルドは、その持ち出せる特殊なコアを5つ保持している」
ピクっ
日向の言葉に対し、雄太は不覚にも反応してしまった。
「ほぅ。それで、その特殊なコアはギルドに5つあって、アンタ達が1つ持っていると」
「あぁ、そうなる」
「しかし何故だ?アンタはダイバーであり、ユーザーであり、ギルドの職員の筈だが?何故そのコアをギルドへと渡さないんだ?」
雄太の質問に対し、日向は睨む様に雄太を見つめた。
「そうだな・・・真実を知ってしまったから、とだけ言っておこう」
「なんだソレ?」
「私が思うに、君はその真実を既に知っている筈だ」
「さぁな」
日向は何かを含む様な言葉を雄太へと向け、雄太は答えを濁した。
「話は変わるが、ダンジョンからモンスターが溢れたと言う話は聞いたことはあるか?」
「・・・ないな」
「では、ダンジョン外で一般市民がモンスターに襲われたと言う話は?」
「それも・・・ないな」
「では、何故、我々人類は、そんなダンジョンの外へと被害を出さないダンジョンへと潜った?最初からダンジョンへと潜らなければ、これまでに多くの人達が犠牲になる事もなかった筈だが?」
日向からの質問に対し、雄太は確かに、と思いながら返答した。
「・・・文明の復興、発展の為か?」
「・・・そうだな。それもある・・・では、誰が、ダンジョン内に居る、モンスターからドロップされる素材が、我々の文明の復興や発展の為に有用である、と伝えた?」
「・・・ダンジョン素材を調べたどこかの研究者か何かか?」
「機材も何も利用できない、一度崩壊した文明で、その様な高度な研究が真面にできると思っているのか?」
「・・・無理、だな・・・」
雄太が小さい頃に習った文明崩壊後の旧時代は、原初のピュアが人々を助けたとは言え、ソレこそ石器時代に近い様な生活をしていたと習った覚えがあった。
「今の世界は大きな矛盾だらけだ。それを皆は知らない。いや、知る由もなかった。文明崩壊後の沢山の矛盾は、最初から大きな力によって全てが隠され操られていた。そんな、最初から隠され、操られている矛盾を、誰が知る事ができる?答えは否だ」
何かに火がついたのか、日向は饒舌に語り始めた。
「ある筈のものが無く、無い筈のものがある。これが今の我々の世界であり、現状だ。だが、私はその矛盾の理由を知ってしまったのだよ」
饒舌に語る日向は、雄太から目を離さずに強い視線を向け続けた。
「この際、君がダンジョンを踏破して、何を見て、何を知ったのかは置いておこう。ダンジョンコアについても、隠したければ隠し続けるが良い。そこで、私から君へと交渉を持ちかけたい」
「は?」
雄太は、いきなりの日向からの交渉と言う意味が分からず、思わず声を出してしまった。
「我々は、限られた者だけではあるが、君のご両親について知っている。もちろん、君のご両親が死んだ本当の理由もな」
「なっ!?」
「そこで、君に我々の幹部と会って話しをしてもらいたい。我々の幹部は、君のご両親のパーティーメンバーだった者達だ。その後に君がどうするのか、どうしたいのかを決めてくれれば良い」
雄太は、いきなり話に出て来た自分の両親についてや、死んだ理由、両親のパーティーメンバーについてと言うのは全く何も知っておらず、ただ雄太が知っていた事は、両親ともダイバーで、ダンジョン内でモンスターに襲われて死んだと言う事だけだった。
雄太自身も、生活の為とは言え、両親と同じダイバーとなってしまい、スライムダンジョンを踏破し、色々と処理しきれない様な出来事や情報を手に入れてしまった雄太は、この、ダンジョンコアが目的の日向達による襲撃と、自身の両親がどう繋がっているのかが気になってしまった。
「それで、アンタ達が俺の親父達の事を教えたとしたら、アンタ達は、俺に対して何を求めるんだ?」
「・・・君と、君達のその異常な戦力だ」
「ソレはソレで分かりやすいが、アンタ達は俺の力を使って、一体、何と戦うつもりなんだ?モンスターか?」
日向は、雄太の質問に対し、今まで以上に目をギラつかせながら真剣な顔で雄太へと答えた。
「・・・ギルドだ」




