77. ギルドへ
おばちゃんに言われた、ギルドへの出頭という話に対し、雄太は一切の感情を殺しておばちゃん へと答えた。
「あぁ。分かった。三日以内だな。時間は?」
「時間の指定はなかったから、ギルド本部が開く、7時半から、20時迄の間で行けばいいんじゃないかしら?」
「そうか。それじゃ、早速この後にでも行ってくるわ」
「そうね・・・早いに越したことはないわね」
雄太達がギルドからの出頭の事について話していると、徐に部屋のドアからノックの音が聞こえて来た。
「どうぞ」
おばちゃんの返答と共に、部屋のドアが開かれ、ハロワの女性職員が一礼しながら部屋へと入って来た。
「お話中、失礼します。所長、コンテナトラックが到着しましたので、ご報告に参りました」
「ありがとう。ご苦労様」
「では。失礼します」
女性職員はおばちゃんに報告をした後、そそくさと部屋を出て行った。
「それじゃ、コンテナトラックが来た様だから、話はこれくらいにして、あんたの素材の確認と買い取りをするわよ」
「あぁ」
「それじゃ、鈴木君はこのまま彼と一緒に行動して。私は日向さんと、この後に約束があるから」
「分かりました。では、橘花さん、ご同行をお願いします。では、所長、失礼します」
「はい。そんじゃ、またな」
「えぇ。何かあったら連絡するわ」
鈴木は席を立ってドアへと向かい、雄太も鈴木へと続く様におばちゃん へと軽く手を降りながら部屋を後にした。
部屋を出て行った鈴木と雄太は、館内を出て駐車場へと駐めてあるコンテナトラックへと向かった。
駐車場には、20フィートのコンテナを乗せたトラックがでかでかと1台停めてあり、丁度、コンテナをクレーンで地面へと降ろしている最中だった。
コンテナが完全に地面へと降ろされると、鈴木は運転手となにやら話をした後に、コンテナの扉を開いて雄太へと手招きをした。
「橘花さん。では、ここへ素材を出してください。素材は、この中の半分、片側へと出してください。パンパンに出してしまわれますと、素材の確認が面倒になりますので、コンテナの半分程まででお願いします」
鈴木は手にしているタブレットへとペンを走らせ、簡単な絵を描いて雄太へと説明した。
「分かりました。それじゃ、素材を出しますんで、一度コンテナの扉をしめますね。鈴木さんも中へどうぞ」
雄太は他の人に収納から素材を取り出している姿を見られない為に、鈴木を伴ってコンテナの中へと入って行った。
コンテナの中はエアコンと電気が完備されたフローリングの様な作りになっており、まるでちょっとした部屋の様な内装になっていた。
「では、出します」
雄太が徐にコンテナの壁際へと手を翳すと、色々なスライムの素材がコンテナの半分を埋め尽くす様に出現した。
「先ずは、こんなもんですかね?」
雄太が涼しい表情で出した沢山の素材を見た鈴木は、目を見開き、口を大きく開けて固まってしまった。
「す、鈴木さん?どうしました?」
雄太は、微動だにせずに固まっている鈴木の顔の前へと手を振って声を掛けた。
「あ、あぁ。すいません・・・分かってたんですよ。分かってたんですが、実際にこの量を見たら、ちょっと思考が飛んでしまいました・・・」
鈴木は思考を切り替えるかの様にブンブンと頭を振り、涙目になりながら雄太へと視線を移した。
「因みになんですが、これで残りはどれくらいですか?次のコンテナの予約もあるので」
鈴木は何かへと希望や期待を抱く様に雄太へと素材の残量の確認をした。
「え〜っとですねぁ。なんか言い辛いんですが、これで1割くらいですね・・・」
「・・・・・・」
雄太の返答を聞いた鈴木は、コンテナ内の天井を見つめながら、静かに涙を流していた。
「そ、それじゃ、また明日も今日と同じ時間に来ますんで、頑張ってください!」
「はい・・・また明日・・・」
鈴木は盛大に肩を落とし、まるで呪い殺す様な視線を向けて去りゆく雄太を見送った。
コンテナを出た雄太は、一度ハロワの館内へと戻り、カウンターにいる女性へと声をかけた。
「すいません。お伺いしたい事がありまして」
「はい。なんでしょうか?」
「ギルド本部から出頭要請を受けているんですが、ギルド本部の場所がどこにあるのか分からなくて・・・」
「畏まりました。ご利用されます交通機関はどうされますか?」
「あ、自分でバイクに乗って行きますんで」
「では、本部への地図を出しますので少々お待ちください」
「ありがとうございます!」
雄太はカウンターにいる受付の女性から、ギルド本部までの地図をもらい、駐輪場へと駐めてある原チャに乗ってギルド本部へと向けて走り出した。
ギルド本部は、ハロワからバイクで約1時間かかる都心の中にあり、雄太は、久しぶりに訪れた都心の淀んだ空気に少し懐かしく感じた。
ハロワでもらった地図を頼りにギルド本部へと到着すると、ギルド本部は商業施設と併用されているビルの中にあるという事が分かった。
雄太は原チャに跨がりながら青空に聳え建つビルを下から見上げるが、ギルド本部は上が見えないくらいの高さがあるビルであり、雄太は商業施設内の駐車場へと原チャを駐め、商業施設の中を抜けて別棟になっているギルド本部のビルへと向けて歩いて行った。
商業施設では、衣類や生活用品、食料品等と言った一般向けの店舗の他に、ダイバー向けの武器や防具、ダンジョン探索に必要なものが色々と販売されている店舗が多くあり、ダイバーのみならず、ダイバーではない一般向けにも色々と楽しめる様な店舗や施設が数多くあった。
雄太はギルド本部へ行くという事で、商業施設内にある衣類の店舗や靴屋へと入り、新しい洋服や靴を購入し、その場でどんどんと着替えながら別棟へと向かった。
現在の雄太の服装は、Tシャツ、ジーンズ、サンダルというユルい格好から、薄いカーキ色の細身のスラックスを履いて、くるぶしの上までロールアップし、白いVネックのカットソーの上から7部袖の薄い水色のシャツ、足元はサンドスウェードのデザートトレックを素足で履いているという少しキレイめな服装へと変わっている。
見た目的には夏らしく、だいぶ爽やかでキレイめな感じとなり、今までのダルダルな格好から大きく様変わりしていた。
(なんか、こういう格好をするのも久しぶりだな・・・)
着替えた服は、人目につかない様にトイレでまとめて収納へとしまい、ついでに、何かあった時の為にと、一度、擬装を発現させ、膨張を分離、造形変形を使って黒いバックパックへと偽装させ、背中へと背負った。
雄太が別棟へと到着すると、ギルド本部がある別棟は、どこぞの企業ビルの様にエントランスと受付用のカウンターがあり、エントランス内にはカフェの店舗まで完備されていた。
とりあえず、見た目的にはどこに行ってもNGにはならない格好になった雄太は、エントランスの受付があるカウンターへと向けて足を向けた。
「すいません。ダイバーなんですが、ギルド本部から出頭要請を受けて来ました」
「畏まりました。ライセンスの提示をお願い致します」
何かを読み込む機械の様なものを指差したが、雄太は後ろポケットからダイバーライセンスを取り出し、カードをアクティベートさせて受付嬢へと渡した。
「あ、はい」
通常は、リストバンドやデバイスで、受付嬢が指差した機器へとダイバー情報を読み込ませるのだが、勝手を知らない雄太はカードをそのまま受付嬢へと渡したのであった。
カードを見た受付嬢は、少し顔をしかめて雄太からカードを受け取り、カウンターの下にあるカードリーダーへとカードを差し込んで情報を読み取り出した。
「少々お待ちください。ご確認いたしますので」
何かをカタカタとタイピングしだした受付嬢は、入館カードと一緒にダイバーライセンスを雄太へと返した。
「右手のゲートをお進み頂き、20階にありますカウンターで、再度こちらのカードをお渡しください」
受付嬢は雄太へと説明をしながら、追加で真っ白なカードを渡した。
「分かりました。ありがとございます」
雄太は受付嬢に言われた通り、中央にあるカウンターから右側にある入館ゲートへと向けて歩き出した。
ゲートへと入館カードを翳すと、Aというエレベーターの位置を表す文字が現れ、雄太はそれにしたがってAと表記があるエレベータの前に立ってエレベーターが来るのを待った。
20階へと到着した雄太は、受付嬢がいる小さなカウンターへと下で渡された真っ白なカードを渡した。
「すいません。出頭要請で来た者ですが・・・」
雄太からカードを受け取った受付嬢は、カードを機械へと翳し、カード内の情報を確認した後に雄太へと伝えた。
「では、こちらを真っ直ぐ進んで頂き、左側にございます2010のお部屋にてお待ちください」
「ありがとうございます」
雄太が進んだ先は、通路の左右に沢山の会議室の様なガラス貼りの部屋があり、雄太は受付嬢に言われた通りに2010という部屋へと入り、社会人をしていた時の癖で、ドアから遠い方の席へと腰を下ろした。
(こういう場所もほんと久しぶりだな)
雄太は膨張のバックパックを、横の空いている椅子の下へと置き、グルリと部屋の内部を見渡した。
部屋には外が一望できる大きな窓ガラスがあり、外の景色は高いビルが立ち並ぶ姿をとらえる事ができ、なかなかいい感じの爽快な見晴らしだった。
雄太が外を眺めていると、ドアがノックされ、受付嬢が水とホットコーヒーをもって入室して来た。
「どうも」
受付嬢が去った後、雄太は再度窓の外を眺めて時間を潰した。
数分後、ドアに面したすりガラスの向こうから通路を歩く男性らしき足音と共に人影が姿を現した。
人影は、雄太がいる部屋のドアへとノックをしながら入室して来た。
「すまない。待たせたかな?」
雄太は2人の男性が入室して来たタイミングで座っていた席を立ち、2人の男性へと視線を移した。
「いえ。大丈夫です」
入室して来たのは、スーツを着た50代くらいの男性と、お爺ちゃんと言っても差し支えのないくらいにシワシワに年老いている、頭を真っ白にした男性の2人であり、身なりもそうだが、醸し出している雰囲気からして、2人とも明らかに幹部クラスであろうという事が見て取れた。
「私は、ここ、日本のギルド本部で責任者をしている近藤と言う」
男は自己紹介と一緒に名刺を渡して来た。
(責任者!?まさかのトップが!?何故!?)
近藤と言う男の自己紹介と名刺を見た雄太は、ギルドのトップが現れた事に驚き、反射的に身構えてしまった。
「はじめまして。私、ダイバーの橘花と申します。すみませんが名刺が無いもので」
「あぁ。問題ない。はじめまして。君の噂は色々と聞いてるよ」
(なんだよ噂って!?一体、どんな噂だよ!?)
「は、はぁ。どうも。それで、失礼ですがそちらの方は?」
雄太は、入室してから一言も話そうとしない老人の方へと視線を移すと、老人は、纏わり付く様なヌルヌルとした笑みを浮かべながら雄太へと口を開いた。
「私はここの最高責任者をしている、片桐と言う。まぁ、大体の事はそこにいる近藤にまかせておるがのぉ」
片桐と言う老人は、まるで雄太を話す価値のないモノとして見ている様で、名刺も出さずに早々に椅子へと腰を下ろした。
「すまないな。橘花君。まぁ、掛けてくれ」
「失礼します」
雄太は近藤に促されるまま、椅子へと腰を降ろした。
「こちらから呼び出しておいてなんだが、我々は忙しい身でね。巻きで悪いが、君が踏破したと言うスライムダンジョンについて話してくれないか?」
「あ、はい」
雄太は、おばちゃんに伝えた様に、スライムグラトニー、最下層の巨大な空間、アリアの事、異世界からの侵略の事は全て伏せて、1層から4層までについてを伝えた。
「ふむ。下からの報告では、最初は、1層ですらピュアを起用してやっとだったと聞いたが、君はそれを1人で軽々と倒し、終いにはダンジョンを踏破したと言うんだね?」
「まぁ、軽々ではないですが、踏破はしました」
「それで、最下層にはダンジョンコアの部屋の他に何かなかったかい?」
「何かと言いますと?」
「例えば・・・珍しいモンスターとか、上層とは違った造りになっていたとか?」
ピクっ
雄太は近藤の的を得た質問に対し、無意識に表情が反応してしまった。
(・・・何故それを・・・コイツらは、アリアが言っていた異世界のヤツらなのか?)
「いえ、4層のガーディアンを倒した後の下へと続く階段は、そのままダンジョンコアの部屋へと続いてました。そして、コアを触ったらそのままダンジョンの入り口へと転移しました」
「・・・そうか・・・」
近藤は口元へと手を当て、何か考える様な仕草をしだし、室内は沈黙した。
しかし、その沈黙を破る様に近藤の横にいた片桐が、ゆっくりとした、人を見下す様な口調で雄太へと口を開いた。
「して、小僧。貴様の名前、どこかで聞いた事があるが、両親は?」
「はい。私の両親はダイバーをしていましたが、事故で他界しました」
「もしかして、貴様は、橘花 瑠花 と、橘花 翔吾 の子供か?」
「あ、はい。両親をご存知で?」
片桐は、雄太の返答を聞いた後に、さらに醜悪な笑みを浮かべるも雄太の質問へとは全く答えず、「そうか、そうか」と言いながらブツブツと何かを呟きはじめた。
「すまないな。橘花君。総帥は少し特殊なお方でな。気を悪くしないでくれ」
「・・・はい」
片桐は、カエルを見る蛇の様な目をしながら、未だに纏わり付く様なネバっこい笑みを雄太へと向け、ブツブツと呟いていた。
「色々と話してくれてありがとう。では、要請は以上と言う事で。我々もそろそろ時間なのでな」
「分かりました」
「では、すまないがこれで」
「はい。では失礼します」
雄太は、スッと席を立って扉を開けた近藤によって追い出される様な形で退室した。
(アリアが言っていた、異世界人が紛れているって事は、ほぼ確実そうだな・・・トップがあれじゃ、ギルドは信用できないな・・・)
雄太は、先ほどまで会話をしていたギルドのトップである近藤と片桐を思い出し、ギルドは最大限に疑い、信じられない対象とし、今後の対策や対応を考える事にした。
ー雄太が部屋を出た後ー
雄太を追い出すかの様に退出させ、会議室へと残った近藤は、片桐の前でフロアへと片膝を着いて座り、まるで、何処ぞの王様と話すかの様に、仰々しく頭を垂れていた。
「して、近藤。貴様から見たあの小僧は、どうだった?」
片桐は深く背をもたれさせながら眼前で片膝を着いている近藤を見下ろしながら質問を投げかけた。
「はい。アレは何かを隠しているかと。アレを監視の対象として子飼いの者共に随時探らせましょう」
「うむ。しっかりとな。抜かるでないぞ。しかもあの小僧、あの忌々しい、橘花 瑠花の子ときよった。アレだけやったにも関わらず、まだ、血族が生き残っておったとは・・・我々の栄光の為に、このままヤツを泳がせておくのも悪くなかろぉよ。何も出なんだら、両親の跡を追わせてやれば良い」
「畏まりました。ではその様に」
雄太がスライムダンジョンを踏破してしまった事により、一度壊れたこの世界は、新たな混沌へと向けて動き始めたのであった。
土日はいつも通りストック溜めの日となりますので2話投稿です。
1話目




