76. 依頼の報告
昨夜、雄太が日向達に解放されたのは、夜の22時を過ぎた頃だった。
久しぶりに跨ったお気に入りの愛車を運転し、ボロアパートへと帰る途中にコンビニへと立ち寄って、収納から減った食べ物を補充するかの様に、弁当や菓子パン、飲み物やアイス、お菓子や雑誌等を大人買いした後にボロアパートへと帰った。
ボロアパートへと着いた雄太は、かなり遅い夕食を取ろうとしたところでエルダにしつこく弁当をせがまれ、あまりにもしつこくうるさかった為、いちいち擬装を使ってエルダ、鬼人、大鬼を発現させた。
「もう、いいや。オマエら、頭の中にいたらマジでもう、本当にうるさいし、いちいち何かある度に擬装使って発現させるのも面倒だから、お前らもう、ずっと外に出てろ。って事で、大鬼と鬼人は、そんな格好で外をウロつけないから、そこにある雑誌を読んで好きな服を発現させておけ。後、ツノや皮膚の色も人間っぽくしとけよ」
「「はっ!」」
ドンドンドンドンッ!!
「うるせぇぇぇ!!「はっ!」ってなんだよ!コラァ!!今、何時だと思ってんだぁぁぁ!!静かにしろっ!!」
「「「「・・・・・・」」」」
雄太達は、鬼人と大鬼の雄太への返答が煩かった為に、隣人によって激しく壁ドンされて叱られてしまい、なんともシュールな状態でお互いの顔を見合わせている。
「それと、エルダ。俺が寝るのを邪魔したら、ご飯を始めとして、オマエから”色々なものを消す”からな。マジで」
「はっ!了解であります!」
ドンドンドンドンドンッ!!
「ウルセェって言っているだろうがぁぁぁ!何べん言わしゃ分かんだぁぁぁ!王様ごっこは他所でやれやっ!!」
「「「「・・・・・・」」」」
エルダが大声で雄太へと敬礼すると、またしても隣人から壁ドンされ、エルダは敬礼している格好のままで、ドンドンされている壁の方を何か恐ろしいモノを見る様な目で見つめていた。
「・・・おまえら、お隣さん、ガチで怒っているぞ・・・次、うるさくしたら、ここに突撃して来かねないから、俺が寝た後もマジで静かにしてろよ。明日、おばちゃんに、今日、聞きそびれた頼んでいた新しい部屋の事を確認するから、引っ越すまでの辛抱だ」
「わかったわ」
「「了解です」」
雄太とエルダと鬼達は、再度、隣人に壁ドンされない様に、お互いに顔を近づけて、ヒソヒソと声を潜めて話しあった。
雄太はエルダと鬼達へと注意をした後、スライムグラトニーやアリアからの依頼、ダンジョン前のプレハブ襲撃事件の事もあり、先に発現させておいた水龍のベッドへと横になった途端に眠ってしまった。
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピピピっ
ピピっ
雄太はデバイスで設定していたアラームの音で目を覚ました。
雄太がおばちゃんから借りているデバイスは、ダンジョンに潜っていた時の設定のままだったらしく、雄太はアラームによって朝の6時に目を覚ましてしまった。
雄太は徐に窓へと目を向けると、既に朝焼けが薄れ、外は太陽が上り出して明るくなっており、雄太は欠伸をしながら水龍のベッドの上で上半身を起こした。
雄太が辺りを見回すと、鬼人と大鬼はドアの近くで俯きながら座っていたが、何故かエルダの姿が見えず、雄太は少し慌てる様に水龍のベッドから飛び起き、広くない部屋の中を見渡した。
「あいつ・・・まさか・・・」
雄太は部屋の中に見当たらないエルダの姿を探す為に水龍のベッドの上へと急いで立ち上がったのだが、当の本人は、雄太の死角となる、雄太の足元の方の水龍のベッドの下へと、しがみ付く様に気持ちよさそうに丸くなって寝ていた。
「・・・・・・」
雄太がベッドから降り、エルダの元へと移動すると、鬼達が起きた雄太に気づき、雄太の元へとやって来た。
「おい、コイツ、何やってんだ?」
「主が、床に着いた後、自分も寝るとか言いだしまして、一度、静かに寝たのですが、暑い暑いとうなされながら、水龍の涼しさを求める様に、結局ここまで寝ながら移動して来ました」
「そんでぇ、エルダが主が寝ている水龍の上へと移動しようものなら、ワシが殴って、外に捨てて来てやろぉ思ったんですがぁ、エルダは水龍に抱きついたまま、この位置から動く事なく今に至ってぇいる訳です」
「・・・・・・」
雄太はバカを見る様な目で寝ているエルダを見下ろしていた。
「そうか、分かった。ありがとう。こいつ、一体、何考えて動いているんだろうな・・・」
「我にはさっぱり」
「ワシも分かりません」
雄太は、エルダを無視してさっさと朝食を取る事にし、収納から人数分の菓子パンと牛乳を取り出して鬼人と大鬼と一緒に食べ始めた。
雄太達が朝食を食べ始めたタイミングで、横で寝ていた筈のエルダは、まるで、ゾンビの様にカクカクした動きでゆっくりと、音もなく静かに起き上がり、涎をたらし、目をギラつかせながら、物音を一切立てず、背後から急に雄太達の菓子パンへと襲いかかって来た。
「うぉっ!?何なんだ!いつ起きたんだコイツっ!?」
「エルダぁ!何しとんじゃぁ、ワレぁ!?」
「ど、どこからそんな力が!?」
エルダは其々が手にしている菓子パンへと涎を撒き散らしながら大口を開けて襲いかかり、一瞬で雄太と大鬼の菓子パンはエルダの腹の中へと収まり、鬼人はエルダの顔を抑えて食われるのを阻止しているが、後少しというところで、鬼人の菓子パンはエルダの口へと収まろうとしていた。
「ガチンっガチンっガチンっガチンっ!食べ物をよこせぇ〜!!」
エルダは口を開け閉めし、歯をガチガチとさせながら、まるでピラニアの様に鬼人の菓子パンへと喰らいついた。
「ガツガツガツガツ!!ムシャムシャムシャムシャ!」
「わ、我の・・・こ、殺してやる!!」
最後までエルダへと抵抗していた鬼人だが、とうとう自分の菓子パンを食べられてしまい、鬼人は怒りに任せてエルダへと襲い掛かろうとした。
ドンドンドンドンッ!!
「朝っぱらからバタバタ、バタバタ、ウルセェぞこらぁ!!」
「「「「・・・・・・」」」」
鬼人が口の中へと必死に菓子パンを収めているエルダの胸ぐらを掴んで殴りかかろうとしたところで、隣人から朝壁ドンをされ、全員の動きが反射的に止まった。
「「「「・・・・・・」」」」
隣人から壁ドンをされた事により、雄太達は、朝からなんとも言えない気まずい雰囲気になってしまった。
「・・・ここはもう、だめだな・・・」
雄太は人数が増えてうるさくなったこの状況に対し、ここに住むのは無理と言う事を悟った。
その後、雄太は収納から再度朝食を取り出し、みんなでひっそりと息を潜めながら無言の朝食を取って部屋を出た。
部屋を出る前にエルダと鬼達の発現を解除し、雄太は愛車の原チャに跨り、ハロワへと向けて出発した。
ハロワへと到着した雄太は、いつもの様に冷水機で水を飲んだ後、おばちゃんがいるカウンターへと向かった。
「おはよ。来たぞ」
「あぁ。おはようさん。早速で悪いが、昨日の報告の続きをするよ。いつもの部屋で待ってな」
「分かった」
雄太はカウンターでおばちゃんと短く会話をした後、おばちゃんに言われるままに、いつもの会議室へと足を向けた。
雄太が会議室で待つ事数分、ドアのノックの音と共に、おばちゃんと鈴木が入って来た。
「さてと、こっちも忙しいから、さっさと昨日の続きといこうかね」
「あぁ。そうだな。あ、おはようございます鈴木さん」
「おはようございます!橘花さん!」
おばちゃんと一緒に入って来た鈴木は、朝にもかかわらず何故かテンションが高めであり、遠足当日の子供の様に目をキラキラさせながらソファーへと腰を降した。
「昨日、あんたが帰った後、日向さんに今日のコンテナトラックについての手配をしてもらったわ。後、1時間程でコンテナトラックがここに到着する予定よ」
「お、おう。相変わらず行動が早いな・・・」
雄太は部屋にある時計を見て、相変わらずのおばちゃんの行動の早さ驚いていた。
「それで、昨日聴きそびれたダンジョンの報告について話してちょうだい」
「そうだな・・・」
雄太は、スライムグラトニー、最下層の巨大な空間、アリアの事、異世界からの侵略、原初のピュアの事は全て伏せておばちゃん へと報告した。
「最下層は、台座の上に丸い玉があるだけの部屋で、他は一切何もなく、最下層の部屋にあった丸い玉を触ったら、急にダンジョンの入り口へと転移させられた」
「・・・そう・・・最下層は他のダンジョンと変わらないのね。あんたが触ったその丸い玉は、ダンジョンコアって言うらしいわ。それで、その玉、ダンジョンコアは持ち出せたの?」
「え?アレって持ち出せるのか?」
「いいえ、コアを持ち出そうとしてダンジョンコアへと触れると、あんたみたいにダンジョンの入り口まで飛ばされるという報告しかないわね。どのダンジョンでも同じらしいけど、規格外のあんたなら、ダンジョンコアに触って何か変わった事が起こったんじゃないかと思ってね」
「いや・・・流石にそれはないだろ。俺をなんだと思ってるんだ・・・」
雄太は指輪がダンジョンコアを吸収した事を思い出し、少しドキドキしながらおばちゃん へと返答した。
「これで、俺のダンジョンを先行して調べてくるって言う依頼は終了だな。次は何かあるか?」
「そうねぇ〜。スライムダンジョンを踏破したあんたは、これから、ギルドのユーザーやピュア達と一緒に、ここのダンジョンを詳しく調査していく事になる筈よ。1層の調査だけでもかなり苦労していたから、あんたが調査隊に加われば、2層めの調査効率が上がるのは間違いないわね。まぁ、そうなるのは確実だと思うから、近々、依頼としてお願いするわ。とりあえず、ギルドの次の調査が始まるまではここのダンジョンには入れないけど、あんたが持って来た素材を販売すれば、当分どころか、余裕を持って生活できるわよね?」
「あぁ。そうだな。まぁ、俺も大量に素材を集められたし、依頼料も入るし、近々で生活が困るって事はないと思うから、とりあえず、それで大丈夫だ」
雄太は、スライムダンジョンに入れないと言うおばちゃんの言葉に対し、特に反対する事なく、次の調査の開始を待つことにした。
(まぁ、4層に放してきた餓鬼達がいるから、俺が直接ダンジョンに入らなくてもいつでも素材も膨張も手に入るし、少しずつだがスーツのレベルも上がっているからな)
雄太が4層に放した餓鬼達は、未だにバルーンスライムを狩り続けており、雄太のスーツのレベルは、とっくに100となっていた。
「あ、それと、頼んでいた俺の部屋ってどうなった?」
雄太は餓鬼を思い出した事で、鬼達の事を思い出し、連想しておばちゃんに頼んでいた新しい部屋の事を思い出した。
「部屋は借りてあるわよ。名義はここのハロワ名義でね」
「お!よかったぁ〜」
「まぁ、あんたがここと契約した事で、このハロワのスタッフ扱いって事で部屋はすぐに借りれたわ。鈴木くん。部屋の地図と間取りを彼に」
「はい。こちらが橘花さんの部屋の地図と間取り図、それと鍵になります」
おばちゃんに促された鈴木は、テーブルの上へとA4の用紙に印刷された部屋の地図と間取り図を広げ、雄太へと鍵を差し出した。
「ありがとうございます!場所は・・・おぉ!?今の部屋の近くだ!若干、ハロワに近づいている感じのとこだな」
「そうですね。少し時間はかかりますが歩いても十分にここへと通える距離ですね。橘花さんはバイクがあるので、移動には不自由無いと思います。それと、マンションの近くには商業施設や商店街もありますので、生活には困らないかと」
「ありがとございます!って言うか、そんなとこって家賃が高いのでは?」
地図と一緒に渡された部屋の間取りは、3LDKとなっており、ファミリータイプの様な部屋であった。
「そうですね。共益費込みで月、18万です。この広さで18万は安いですよ。まぁ、その分、近くに駅がないので、電車を利用する方には、かなり不便ですが・・・今の橘花さんの買い取り量を考慮し、これくらいが妥当かと。あ、因みに、家賃は橘花さんのダイバーライセンスから引き落としになってますので。それと、各部屋にはエアコンが設置完了済みですが、他の家具は全くない状態ですので、そちらについてはご自身で、と言う感じになります」
「色々とありがとございます!これって、今日からでも住んでいいんですか?」
「はい。既に契約などの手続きは完了してますので、橘花さんの好きなタイミングで入居可能です」
「よっしゃ!」
雄太は鈴木に渡された鍵を嬉しそうに眺め、地図を見ながら大体の場所を想像していた。
「あ、それと、これお返しします」
地図を眺めていた雄太は、思い出したかの様に、おばちゃんから借りていたデバイスをジーンズの後ろポケットから取り出してテーブルの上へと置いた。
「あ、それは橘花さんが持っていて大丈夫ですよ。ですよね、所長?」
鈴木は雄太へと返答しながらおばちゃん へと顔を向けた。
「ええ。それは、あんたが持ってな。どうせ、携帯の契約とかってできないんでしょ?それがないと、こっちから必要な時にあんたと連絡が取れなくなるから、あんたがもっておきな。ダンジョン外では通話もネットも利用できるから、あんたの好きにすればいいさ。月々の利用料は、部屋の家賃と一緒に差し引くから。携帯付き賃貸物件とでも思ってなさい」
「お!?マジで!?助かるわ!ありがとう!」
雄太はだんだんと生活がまともになりだした事に対し、ホクホク顔で喜んだ。
「それで、これからの事なんだけど、今朝、あんた宛にギルドから出頭要請が来てるわ」
「え?」
「届いたメールによると、未知のダンジョン踏破の確認って言う事らしいけど、3日以内にギルド本部へと来る様にという内容だったわ」
おばちゃんの言葉を聞いた雄太は、アリアから聞いた内容を思い出し、今までのホクホク顔から一転して険しい表情へと変わった。
これより第2章へと入ります!
引き続きお楽しみいただければです!




