75. 新たな問題
雄太と鈴木は、訳が分からない現状に対し、取り敢えず心を落ち着ける為に、鈴木が差し入れの為に買って来た缶コーヒーを飲みながらおばちゃんがプレハブへと来るのを待った。
雄太と鈴木が缶コーヒーを飲み終わって暫くすると、おばちゃんが息を切らしながら走ってプレハブへとやって来た。
「ハァハァハァハァ・・・す、鈴木君!大丈夫!?」
「はい。僕はこの通り大丈夫です。ですが、それよりも・・・」
鈴木はおばちゃんからの安否確認へと答えながら、荒れ放題で3人のダイバーが倒れているプレハブの中へと視線を移した。
「なっ!?何よこれ!?一体何が起こったの!?」
「僕が来た時は既にこうでした・・・まるで誰かに襲われた様な感じで・・・」
「ダイバーの人達は大丈夫なの!?」
「あぁ、多分な。呼吸を確認したが、3人共息はしていた。なんでこう言う状況になって倒れているのか分からなかったから、取り敢えず動かさない様にこのままにしている」
雄太は鈴木の代わりにおばちゃんへと3人のダイバーについて答えた。
「なんなのよこの状況は・・・ギルドから派遣されて来たダイバーが襲われるなんて・・・こんな状況、普通じゃないわよ!?と、取り敢えず、ギルドへともう一度連絡するわ!」
おばちゃんは雄太と鈴木の話を聞き、プレハブの現状を見た後に、スカートのポケットから慌てる様に携帯を取り出し、再度ギルドへと連絡した。
「も、もしもし。先ほどご連絡を差し上げましたー」
数分後、プレハブから少し離れた箇所で電話をしていたおばちゃんが、ギルドとの会話を終えてプレハブのドア口へと歩いて来た。
「すぐに救急車と警察が来るそうよ」
「まぁ、現状の見た目からすれば、警察も来るわな」
雄太はおばちゃんからの話を聞き、再度、プレハブ内を見回した。
「それと、ギルドからユーザーが数人来るわ」
「え?」
「こ、こんな時間なのに!?」
雄太はおばちゃんに告げられたユーザーが来ると言う言葉に対して反応し、鈴木は自身の腕にある時計を見ながら少し驚いていた。
鈴木の腕時計では、既に夜の20時を回っていた。
「それと、鈴木君とあんたは、重要参考人として話を聞くらしいから、申し訳ないけど、もう暫く残っててちょうだい」
「うぁ〜。マジかよ〜。ついさっきダンジョンから帰って来たばかりなんだぜ俺・・・」
「えぇぇぇ〜!?」
おばちゃんにここに残る様にと言われた雄太と鈴木は、露骨に嫌な顔をした。
「仕方ないじゃないの。あんた達が最初にこの現状を見つけた訳だし、鈴木くんはともかく、あんたなんて、一回、この立ち入り禁止区域を通りすぎて来ているのよ?」
「はぁ〜。こんな事なら急いでダンジョンから帰ってくるんじゃなかったわ・・・」
雄太は、ため息を吐きながら鈴木の横にあるパイプ椅子へと怠そうに座って肩を落とした。
「取り敢えず、救急車や警察、ユーザーが来るまで辛抱してちょうだい」
「だぁ〜。分かったよ。ったく・・・」
「はい・・・分かりました・・・」
雄太の横で座っている鈴木も、雄太同様にガックリと肩を落としており、膝に肘をついて頭を抱えながら俯いていた。
ー待つ事数分後ー
ハロワの敷地内へと救急車とパトカーが到着し、ダイバーの搬送や現場検証が行われる為にプレハブを封鎖する事になり、雄太達は一旦、ハロワの館内へと移る事になった。
ハロワ館内は既に職員達は帰った後で、雄太達はカウンターの前にある長椅子に座ってギルドからユーザーが来るのを待っていた。
ー更に待つ事、数十分後ー
今まで静かだった自動ドアが、急に「ブゥーン」と音を立てて開いた。
雄太達は一斉に音がした方へと顔を向けると、外から、中肉中背でイマイチパッとしない顔の警察官と一緒に、小綺麗な灰色のスーツに身を包んだ、ナイスミドルを思わせる様な細身の男性が館内へと入って来た。
「春日所長。先日はどうも」
スーツの男はおばちゃんを知っているかの様に、1名の警察官を伴いながら真っ直ぐにおばちゃんへと向かって歩いて来た。
「こちらこそ、先日はご苦労様です。ギルドからはユーザーを送るとは伺っておりましたが、何故あなたが此処に?」
「クックックック。春日所長、私もユーザーですよ。お忘れですか?」
スーツの男は何が可笑しいのか、笑いながらおばちゃんへと返事をした。
「いえ、それは覚えておりますが、日向さんは、確か、ダンジョン調査部所属だったのでは?」
おばちゃんは胡乱な目つきで目の前にいるスーツの男、日向へと視線を合わせた。
「まぁ、現在、私がここのダンジョンの調査の指揮をとっていると言う事もあり、それで、私が現場の責任者として派遣されたと言う次第ですよ。先日の一層の調査が一段落し、明後日からの2層調査開始迄のせっかくの休み中だったと言うのに・・・本当、ここのハロワは色々と話題が絶えませんねぇ・・・」
日向は休暇中と言うのに上から急に呼び出しを食らったらしく、本当に参った、と言う様な表情で「ふぅ〜」っと軽くため息を吐いた。
「それで、現場はどうでしたか?そのご様子ですと、もう既にご確認されたんでしょ?」
「ええ。こちらへお伺いする前に、到着して真っ先に現場の方を確認してきました。今も一緒に来た私の部下が現場の確認をしています」
「それで、被害の状況は?」
おばちゃんは真剣な顔をして日向へと目線を合わせながら現場の状況について尋ねた。
「ここではなんですから、ゆっくりとお話できる場所へご案内頂いても?」
「分かりました。では、こちらへどうぞ。ホラ。あんた達も行くわよ」
おばちゃんは日向と警察官を先導する様に、以前、日向達ユーザーを招いた会議室へと案内し、雄太と鈴木も日向と警察官の後へと続いてノロノロと移動を始めた。
会議室へと入り、各自が席へと着いたタイミングで、おばちゃんは開口一番、口を開いて日向へと質問をし始めた。
「それで、どうでした?」
「はい。あれは、確実に何者かに襲われた後ですね」
「!?」
「まじかぁ〜」
「そんな!?」
雄太達は日向の答えに対し、三者三様に驚きを見せた。
「春日所長。お話しする前に少々宜しいでしょうか?」
「ええ」
「こちらの方はどなたで?」
日向は少し鋭い目つきで、この場にそぐわない様な、Tシャツ、ジーンズ、サンダルと言う、明らかにハロワの関係者には見えない姿の雄太へと視線を移した。
「ああ。そう言えば彼の紹介がまだでしたね。彼が、ウチで専属契約し、先日、ダンジョンへと先行して色々と情報を提供してくれました、ウチの専属ダイバーとなります」
「ほおぅ。彼が噂の・・・」
(え?噂?ナニソレ?)
おばちゃんは雄太へと顔を向け、顎をしゃくって挨拶する様に雄太へと促した。
おばちゃんの意図が分かった雄太は、椅子から立ち上がり、雄太が立ち上がったタイミングで日向も同様にスッと立ち上がった。
「はじめまして、私、数日前よりここで専属としてダイバーをしております、橘花と申します」
「はじめまして。私、先日より、ギルド本部からこちらのダンジョンへとダンジョン調査の為に派遣されております、ダンジョン調査部所属の日向と申します。現在は、こちらのダンジョンの調査担当として責任者を務めております。以後、お見知り置き頂ければ幸いです」
雄太へと挨拶を返した日向は、スーツの胸ポケットから名刺を取り出して雄太へと手渡した。
「ご丁寧にありがとうございます。申し訳ございませんが、今、名刺がないものでして・・・」
「いえいえ、お気になさらなくて結構ですので。あ、どうぞ」
日向はお互いの自己紹介が終わると、椅子へと手を差し向けて雄太へと席につく様に促した。
「失礼します」
雄太は以前の仕事での習性が身に染みついており、この場に似合わない格好ではあるが、教科書通りの社会人的態度でもって着席した。
「まぁ、色々と、彼に聞きたい事もあるとは思いますが、今は、何故、ダイバーの方々が襲われたのかをお話し頂けますでしょうか?」
おばちゃんは話を進める為に雄太と日向のやりとりを区切るかの様に割って喋り出した。
「そうでしたね。先にこの件についてお話させて頂きます。すみませんが、現場検証についての現状をお話いただけますか?」
日向は横に座っている警察官へと顔を向けた。
「はい。先ずは、倒れていましたダイバーの3人についてなのですが、3人共に首を絞められて気絶させられた跡が見られております。気絶させられたダイバー達には争った様な痕跡が見られず、それと、ダンジョンゲートに設置されていましたセキュリティ装置が切られておりました。この状況から考えられますのは、犯人は1人ではなく、3人以上の複数人、それと、相当な腕の持ち主かと」
「まさか!?ダイバーの彼らが首絞めで落とされたなんて!?そ、そんな!」
「マジかよ・・・」
「となると、一般人ではないと言う事よね?」
雄太達は、警察官の報告に対して普通ではない状況に驚きを見せていた。
「はい。高い技術の持ち主、そして、統制が取れた集団によって一気に襲われたかと」
「なんの冗談よそれ・・・それで、犯人の目的は?」
おばちゃんは、まるで頭痛を抑えるかの様にテーブルへと肘をつきながら手でこめかみを挟みだした。
「現場は荒らされた形跡がありますが、現状では何を盗られたのか、何が目的なのかも分からない状態です。犯人の目的についてはこれからの捜査になっていくかと」
「ここのダンジョンは、最近、下層が発見されたダンジョンであり、乱雑に荒らされていた現場を見ますと、ここのダンジョンについての何かを探っている者の犯行の可能性もあります。つきまして、本日の出来事については、私から早急にギルドの上へと報告させて頂きます」
警察官と日向からの報告を聞いたおばちゃんは、頭を抱える様に両手の親指でこめかみを抑えて更に俯き、鈴木は驚きのあまりに声も上げる事なく目を見開いてフリーズしていた。
「なんで、こうも次々と問題が・・・」
おばちゃんはまるで呪詛を呟くかの様に俯きながらぶつぶつと何かを言っていた。
「それで、最初にダイバーが倒れているのを発見した鈴木さん、橘花さんへとお話をお伺いさせて頂ければと」
警察官は、喋りながら雄太と鈴木へと向けて視線を移動させた。
「は、はい!」
「はぁ、構いませんが」
雄太と鈴木は、それから約30分程、警察と日向からの事情聴取を受け、おばちゃんへのダンジョンの報告は、時間も遅いと言う事で、続きは明日と言う事になり、今日はこのまま解散という事になった。
やっと、スライムグラトニーについての問題を解決したばかりの雄太だが、心休まる暇もなく、新たにアリアに頼まれた異世界の門の事や、何者かにダイバーが襲われた事件といった問題を抱えながらも、長い、長い一日を終えたのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
誤字報告をしてくださった方々、
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評価をしてくださった方々、
励ましやお気遣いご感想を頂けました方々へと、
心よりお礼を申し上げます!
本当にありがとうございました。
この話を最後に、1章は終了となります。
明日から2章へと突入いたします。
これからも、良い意味で、皆様の期待を裏切る様な楽しい方向へとブっ壊していく所存です!
まぁ、いつも通り、フラグとテンプレは、尽くへし折っていきますが!www
引き続き楽しくお読みいただければです!




