74. 事件です!
「ところで、あのダンジョンのゲート前にあるプレハブは一体なんなんだ?って言うか、人は疎か、警備員すら居なかったぞ?」
雄太はダンジョンから出て来た時の、ゲート前の光景について尋ねた。
「あぁ、あれね。あれは、ギルドの調査隊の詰所よ。警備員がいなかったのは、あの詰所にギルドから派遣されて来たダイバーが居るからね」
「それにしても・・・外には誰も居なかったぞ?あんなザルな感じの警備で大丈夫なのか?」
雄太は、アーススライムを刺激しない限りは、いくら最弱ダンジョンとは言え、ダンジョンのゲート前に見張りが一人も居なかったと言う事に対して不安を覚えていた。
「今は、誰もあのダンジョンへと入れない様になっているから、大丈夫だと思うわ。それに、今は警備員じゃなくてギルドから派遣されて来たダイバーがあそこに常駐しているし、ゲートにも対人センサーを取り付けているらしいからセキュリティーの質は上がっている筈よ」
「え?」
雄太は、そんなのあったのか?と言う様な顔をしながらおばちゃんへと尋ねる用に確認した。
「センサーなんてのがあったのか?俺がダンジョンから出て来た時、なんの反応も無い様に見えたが?」
「え?そんな筈はないわ。ちゃんと、人の出入り時にはセンサーが反応して音が鳴っていた筈よ?」
「いや。音なんて全く鳴ってなかったし、外にも誰もいなかったぞ?」
「・・・・・・変ね」
おばちゃんは、雄太の言葉を聞き、何かを考える様に顎へと手を当てて動きを止めた。
「鈴木くん。ちょっとお願いしてもいいかしら?」
「はい?」
「一走り行って、適当にコーヒーでも持って行って差し入れする様な形で、プレハブの様子を見て来てくれるかしら?何かいつもと様子がおかしいわ・・・」
「ちょっ!?所長!?僕が行くんですか!?」
おばちゃんからの様子を見て来てと言うお使いに対し、不安そうに、狼狽えながらおばちゃんへと確認した。
「申し訳ないけど、お願い鈴木君。所長のわたしや、ダイバーの彼が行けば、何事かと怪しまれてしまうでしょ?と言う事で、鈴木君が様子を見に行ってくれるかしら?デバイスの通話回線は繋いでおくから、何かあったら直ぐに大声をあげてその場から館内へと逃げて来て」
「えぇぇぇ〜」
鈴木は、心底不満そうに露骨に嫌な顔をしながらおばちゃんを見た。
「お願い。少し気になるから急いで」
「わ、分かりましたよ・・・何かあったら、本当に、絶対に助けてくださいよ!」
「鈴木さん。何かあれば俺がすぐに駆けつけますんで、すいませんがお願いします」
「・・・本当にすぐに来てくださいよ〜」
雄太がすぐに駆けつけると言う言葉に対し、少し安心したのか、鈴木は嫌々ながらも、いそいそと部屋から出て行った。
「一体どうなっているのかしら?いつもはダイバーがゲート前で見張りをしている筈だけど・・・」
「なんか、きな臭いな・・・スライムダンジョンで、何か特別な素材とかアイテムとかが出たのか?」
「いいえ。全く。ギルドのユーザーとピュアが1層は調査をしたけど、スライム素材以外は何もドロップはなかった筈よ」
おばちゃんは、鈴木が出て行った後も何かに身構える様にソファーへと背を預けず、背筋を伸ばして座っていた。
ーブヴヴヴヴヴヴヴヴー
雄太とおばちゃんが話していると、突然おばちゃんのデバイスへと着信があった。
「ちょっとごめんね・・・鈴木君だわ」
ピっ
「はいー」
おばちゃんは鈴木からかかって来た着信を、スピーカーフォンにしてソファーの前のテーブルへと置いて会話を始めた。
『所長。鈴木です。今、自販機でコーヒーを買ったので、これからダンジョン前に向かいます。回線はこのまま繋げておきますので、本当に何かあったらすぐに来てくださいよ』
「分かったわ。申し訳ないけどお願いね」
テーブルの上にあるデバイスからは、カツッカツッと革靴の底と外の敷石が当たっている、鈴木が歩いている足音が暫く聞こえていた。
不意に足音が止まり、ドアをノックする音が鳴る。
『「コンコンコン」ハロワの鈴木です。差し入れをお持ちしました』
鈴木がドアをノックするも、室内からは何の反応も帰ってこず、鈴木は再度ノックをしドアを鳴らす。
『「コンコンコン」すいませ〜ん。入りますよ〜。「ガチャ」差し入れをお持ちしました〜。すいませーーうわぁぁぁぁぁぁぁ!!』
再度ドアをノックして室内へと入った鈴木は、急に大声を出して叫んだ。
「ど!?どうしたの!?鈴木君!?」
「どうしたんですか!?鈴木さん!?」
雄太とおばちゃんは、咄嗟に鈴木の大声へと反応し、回線を開いているデバイスへと向けて声をあげて確認した。
『だだだ、ダイバーの人達が倒れています!きゅ、救急車を!!』
「すぐに手配するわ!」
「鈴木さん!今行きます!」
雄太は鈴木の報告を聞いて急いでドアを開けてダンジョン横のプレハブへと向けて走って行った。
雄太はドアが開いて一際中から灯りが漏れているプレハブへと駆けて行った。
「大丈夫ですかぁ!鈴木さんっ!!」
雄太がプレハブへと到着すると、鈴木は腰を抜かしてプレハブのフロアへとヘタリこんでおり、雄太が来た事に気付くと、ダイバーが倒れている方へと指を差した。
「だだだだ、ダイバーの人が!」
雄太が覗いた部屋の中は、まるで、泥棒に入られたかの様にフロアへと何かの書類や紙が乱雑に散らばって荒らされており、雄太は鈴木が指を差している方向で倒れている3人のダイバーの横へと移動し、鼻や口へと手を当てて呼吸を確かめた。
「・・・呼吸はしている・・・まだ生きています。取り敢えず、なんで倒れているのか分からないので、救急車が来るまで動かさず、このままにしておきましょう。今、おばちゃんが救急車を呼んでいる筈です」
雄太はダイバーの生死を確認した後に鈴木の方へと向かって移動し、床でへたり込んでいる鈴木へと向けて手を差し出した。
「大丈夫ですか、鈴木さん?」
「はははは、はい!」
鈴木は雄太の手をとって足をガクガクさせながらフラフラと立ち上がり、横にあったパイプ椅子へとドカっと身体を投げ込む様に腰を下ろした。
雄太は鈴木を椅子へと腰かけさせた後、擬装を発現させて辺りをデバイスで確認した。
『シス。周りにスライムや人の反応はあるか?』
『ノー。マスター。スライムの反応はないです。人間の反応もここ以外にはないです』
『どうしたのユータ?』
雄太がシスと話していると、エルダが会話へと割り込んで来た。
『なんでオマエまで出てくるんだよ?』
『え?だって、普通に声かけられる様になったから?』
『・・・最悪かよ・・・』
雄太は初期にエルダを取り込んだ時の事を思い出し、エルダが自由に五月蝿く話かけて来たと言う最悪な過去がフラッシュバックした。
『ちょ、ちょっとぉぉぉ?どう言う意味よソレ!』
『まんまの意味だよ・・・今、少し忙しいから邪魔すんじゃねーぞ』
『じゃ、邪魔ってどう言う意味よ!』
『エルダぁ。主の邪魔をするでない』
『主は忙しいと言っている』
「え?」
雄太の頭の中で、エルダだけでなく、大鬼と鬼人の声まで聞こえ、雄太は思わず声をあげてしまった。
「どうしたんですか、橘花さん?」
急に声をあげた雄太が気になったのか、鈴木が雄太へと声をかけて来た。
「い、いや。なんでもないです」
雄太は盛大に色々と焦りだし、身体中から変な汗がダラダラと流れ始めた。
『オイ!?なんでオマエらまで俺の頭の中で話せているんだよ!?』
雄太は、急に自分の頭の中で話しだした鬼達に対して盛大に驚いた。
『何故ですかねぇ?』
『我々も詳しくは・・・』
『ちょっと、ちょっとぉぉぉ!わたしを無視しないでよ!』
『エルダぁ。ぬしゃぁ、黙っておれ』
『静かにしろエルダ。主の迷惑だろうが』
『黙れってなによ!迷惑ってどう言う事よ!って言うか、わたしが喋っているんだから、あんた達こそ黙ってなさいよ!』
『なんだと、エルダぁ?もういっぺん言うてみぃ?』
『オイ。何様だオマエは?』
『何度でも言ってやるわよ!私が喋るんだから、アンタ達が黙れって言ったの!私はエルダ様よ!何か文句ある!』
『ほぉぅ。よう言えたなぁ。ぬしゃぁ、余程死にたいらしいのぉ』
『主を差し置いて、何、自分に様をつけてるんだオマエ?殺すぞ?』
「・・・・・・」
雄太は自分の頭の中で勝手に話し、終いには言い争いをしだしているエルダと鬼達に対し、「今はソレどころじゃねぇんだよ!!」と思いながら、だんだんとイライラしてきた。
『表出ろやぁ。エルダぁ。泣いて謝っても、延々シバキ倒したるわぁ』
『オマエは死んだ方が主の為だ。今からそれを証明してやる』
『じょぉぉとぉぉよぉぉ!!あんた達なんて、小指で相手してやるわよ!あんた達こそ、あたしに泣いて謝っても知らないんだからね!』
雄太はエルダと鬼達の口喧嘩があまりにも五月蝿すぎた為、我慢ができずにとうとうブチ切れた。
『うるせぇぞオマエらぁぁぁ!!俺の頭の中で、勝手にごちゃごちゃ言うなぁぁぁ!!今、忙しいって言ってんだろぉがぁぁぁ!!』
『『失礼しました!主!』』
『ごちゃごちゃとは何よ!ごちゃごちゃとは!!人がせっかく心配してあげてるんでしょうが!!』
雄太に怒鳴られた事で、鬼達は素直に謝って静かになったが、エルダは更にうるさくごちゃごちゃと喚きだした。
『うるせぇぇぇぇ!オマエが一番うるせぇぇぇんだよっ!!マジで少し黙ってろっ!いいか!俺が良いって言うまで黙ってないと、オマエら全員、今後一切、マジで飯抜きだからなっ!』
『『『了解です!』』』
雄太の「飯抜き」と言う言葉に対し、何故かエルダと鬼達は見事にシンクロして言葉を発し、まるで、電源を落としたテレビの様にピタッと大人しく静かになった。
(ったく、なんなんだよこれは!?スキルが増えてレベルが上がったら、前より余計酷くなってんじゃねぇか!最悪かよ!?)
周りに何も反応がないと分かった雄太は、一旦、擬装を解除しておばちゃんが来るのを待った。
引き続き楽しくお読みいただければです!




