69. ダンジョンの奥
エルダの言葉を聞いた雄太は、怒りや疑い、軽蔑を含んだ鋭い視線をエルダへと突き刺した。
「なんだよソレ?」
雄太から発せられた声は多分に怒りを含んでおり、雄太に睨みつけられたエルダは「ヒぃっ」と軽く悲鳴をあげた。
「どう言う事だ一体?オマエの願いはスライムグラトニーの討伐じゃなかったのか?」
雄太の声のトーンは冷たく低く下がっており、誰が見ても分かる程にその身に怒りを内包していた。
「ちっ、違うのっ!スライムグラトニーの討伐はー」
「オマエ、あの日、仲間がどうのこうの、眷属がどうのこうの言って、スライムグラトニー討伐の為に助けてってオマエ自身で何かを誓ってから俺にその身体を喰われたよな?」
雄太はエルダの言葉を遮ってエルダを喰べた時の事、エルダが何を誓ってその身を捧げたのかと言う事を口にした。
「あの誓いはー」
「アレは全部嘘か?」
雄太は怒りに任せて再度エルダの言葉を遮る。
「嘘じゃない!私がユータと誓った事は全部嘘じゃない!わたしは仲間や眷族の仇の為にこの身をユータに捧げたわ!あの誓いは決して嘘偽りのない誓いよ!」
「じゃぁ、なんなんだ?この奥には何がある?」
雄太は更に探る様な鋭い視線をエルダへと向けた。
「・・・この奥に・・・この奥には、わたしの友達が閉じ込められているの・・・」
エルダは今にも泣き出しそうな顔で雄太へと縋るように視線を合わせる。
「・・・なに言ってんだオマエ?」
雄太はエルダの言葉を聞いて一瞬思考が止まってしまった。
「お願い・・・あの子を解放してあげて・・・スライムグラトニーに皆んなが吸収された後、クサリちゃんだけがわたしの唯一の話し相手だったの・・・お願い・・・」
エルダは涙を流しながら雄太へと嘆願してきた。
「・・・お願い・・・」
エルダは涙を流しながらその場へと砕け落ちる様にペタリと座りこんだ。
「なんでそれを早く言わなかった?言う機会は初めて会った時から腐る程あっただろ?」
雄太は怒りを含めながら地べたに力なく座り込んでいるエルダを見下ろす。
「うぅっ。何度も言おうとした。だけど、クサリちゃんを助けるのは、ユータのスライムを吸収して強くなるっていう目的と全く違うし、見返りなんてないから、ユータにはなんの得にもならないし、これはわたしだけの問題だったから・・・だから、だから、ついつい、ずっと言い出せなくて・・・」
エルダは俯きながら絞りだす様に声を発した。
「ふぅ~・・・だからオマエはバカなんだよ・・・バカなオマエは使える頭なんて最初っから持ってないだろ。バカはバカらしく、いつもみたいに図々しく、太々しく言ってりゃ良かったのに・・・」
雄太は泣きながら話すエルダを見て怒りを抑え、収納からタバコを取り出して吸い始めた。
「そんで、一体、俺に何を助けて欲しいんだ?もう、ここまで来ちまったから、俺にできる事は手伝ってやる。って言うか、早く地上に帰りたいからさっさと終わらせるぞ」
エルダはグチャグチャな顔を上げ、驚くような顔で雄太を見上げた。
「本当に良いの?」
「あぁ、さっさと終わらせて、さっさと帰るぞ」
「・・・ありがとう・・・ユータってチョロいね・・・」
「よし!やっぱり助けるのやめた!お前ら帰るぞ!」
雄太はエルダのバカな一言に対して気が変わり、このまま地上へと帰る事に決めた。
「ちょちょちょっ!?ちょっと待ってぇぇ!?冗談よ冗談っ!本当に助けてぇぇぇぇぇ!お願いしますぅぅぅぅぅぅ!!」
エルダはまるでお手本通りの綺麗な土下座をし、踵を返そうとしている雄太の脚へとしがみついた。
「放せっ!引っ付くなっ!マジでウザいから解除してやる!」
雄太は足に絡みつくエルダがウザくなり、エルダの発現を解除しようとした。
「お願いっ!お願いだからっ!クサリちゃんを助けてっ!お願いしますっ!」
エルダは諦めずに雄太の脚へと必死にしがみついている。
「クソっ!なんなんだよ一体!?どうせオマエの友達なんて碌なのじゃないに決まってる!」
「見るだけ!取り合えず見るだけでいいから!クサリちゃんを見た後にどうするかはユータが決めていいから!」
エルダはどこぞの夜の繁華街のしつこいキャッチの様に雄太を引き留めた。
「あぁ~!もぅっ!分かったよ!そんじゃ見るだけな!俺に敵意を向て来る様だったら速攻で潰すからな!それで良いか?」
「うぅっ。ありがとう。ありがとうユータ。うぅぅっ」
エルダは雄太の言葉を聞いてやっとのことで雄太の脚から手を離した。
「あぁ~!クッソ面倒臭ぇなもぉっ!そんじゃ、なんでも良いからさっさと終わらせるぞ!俺だってさっきのスライムグラトニーとの戦いで死にかけたから、早くゆっくりと休みてぇんだからな!鬼達。あの扉を開けろ!警戒は怠るなよ!」
「「はっ!」」
雄太に指示された鬼達は扉の左右へと1体ずつ駆け寄って手をかけ、白い扉を押し開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
鬼達に押されて開かれた白い扉は、大きく重たい岩同士が擦れる様な音を立てて開かれた。
鬼達によって押し開けられた扉は、開かれたと同時に扉の隙間から光が漏れ、薄暗い最下層に目が慣れてしまっていた雄太は、手の甲を額へと当てて顔を顰め、開かれた扉から漏れ出た光を遮りながらも警戒を続けた。
「・・・・・・」
鬼達によって人が2人程並んで通れるくらいまで開かれた扉の先を見つめる雄太は、ある程度まで扉を開いた鬼達へと指示を出した。
「戦闘態勢を解かずに、注意しながら中を確認してくれ」
雄太の指示を聞いた鬼達は、扉へと背を合わせ、警戒しながらゆっくりと扉の中を確認した。
「主ぃ。モンスターは居やせん」
「スライムの反応は無いです」
大鬼は視覚的に扉の中を確認し、鬼人はスライムの反応を探って雄太へと伝えた。
「分かった。中に入るぞ。警戒は緩めるな」
雄太は地面へと腰をつけているエルダへと視線を向け、顎をしゃくって中へ行くように促した。
ソレを見たエルダは、雄太の視線を受けて立ち上がり、雄太と並行して歩き出した。
雄太とエルダが扉へと近づくと、鬼人と大鬼は先行して扉の中へと入り、雄太はディスプレイから鬼人と大鬼の視野と繋がっているモニターを見て中の様子を確かめた。
扉の中は明るく、まるでコンクリートでできているかの様な発光している壁で覆われた造りとなっており、まるで廊下の様に真っすぐな通路が奥へと続いていた。
「主ぃ。大丈夫そうです」
鬼達の視覚と大鬼の言葉で雄太はエルダと共に扉の中へと足を踏み入れた。
扉の向こう側は、光る灰色の天井、壁、床のそれぞれが2m程はある正四角形の一直線な通路で、床は中央に1段高くなった1m程の幅がある青白く光る敷石の様になっており、シンプルながらも、圧倒される様な神秘的な光景が廊下の先までずっと続いていた。
「なんなんだここは!?ここだけ今までの階層と雰囲気が全く違うぞ!?」
「ここには全くモンスターがいないんだよ。何故かモンスターはここに入って来ないの。わたしは何度も入っていたんだけどね・・・」
雄太の驚きを見たエルダは、まるで自分の家の様に説明しだした。
「そんなところにオマエの友達ってのが居るのか?・・・」
雄太はエルダの言う友達というのが益々分からなくなってきだした。
「うん。ここをまっすぐ進めばクサリちゃんが居るよ」
「・・・・・・」
雄太は真っ直ぐに延びている通路の先を見ながらゆっくりと歩き出した。
通路は歩いて5分程で通り抜け、雄太達は広々とした真っ白な広間へと出た。
広間の中央には高さが1m、幅が1m程のコンクリートの様な灰色の正方形の台座があり、台座の上には、野球ボール程の大きさの白く輝く玉が乗せてあった。
「な、なんなんだここは一体!?」
雄太は中央に台座と光る玉があるだけの、あまりにも殺風景な部屋に驚いた。
「ここは、ダンジョンの最も奥にある場所で、ダンジョンコアの部屋だよ」




