第十三話 魔王軍独立旅団
初めての転生をした翌朝、私は普段と同じような朝を迎えた。
身体にこれといった以上もなく、寧ろ快調と言ってもいいだろう。
私はいつもと同じ様にベッドから起き上がるとリビングへ向かった。
リビングまで行くとそこにはママとパパいつも通り朝食の用意をしていた。
唯一いつも通りと違う点と言えば、リビングにいたのは、パパとママだけではなかった点だろうか。
いつものリビングにはいるはずのない、見知った美形のお兄さん、お姉さんたちがいたのだ。
「お、ようやく起きたね、おはようミーシャちゃん」
「あ、おはようバラライカおばさん、ってなんでバラライカおばさんがお家にいるの!それに里のみんなも!」
家のリビングにいたのは、里にいるはずの仲間達だった。それも一人、二人ではない。
なんと十人以上の大所帯がリビングにいたのだ。
「な、なんでみんながここにいるの?」
私がみんなに尋ねるとバラライカおばさん以外の人達はそろって困ったように笑いバラライカおばさんの方を見た。
当のバラライカおばさんはというと一人だけ椅子に座り一口紅茶を飲むとゆっくりと口を開いた。
「なぜってミーシャが街に行ってしまって、私達寂しくてね。少し様子を見に来たのよ。そうよね、お前達?」
「そう、そうです。ミーシャがちゃんと学校行けてるか心配だったのよ。そうよね?」
「あぁ。そうだ。ミーシャがいなくなって里が寂しくてな」
バラライカおばさんが他の人に振ると皆口々に私に会いたかったと言った。
まったく、いい年した大人が私に会いにわざわざ街まで来るなんてしょうがないですね~。
バラライカおばさんは里にいた頃、私に色々なことを教えてくれた人の一人で、見た目は金髪巨乳のエロいお姉さんなのだが、年齢は五百歳を超えており、里の長老衆の一人でもある。
私は頬を緩ませ久しぶりというとほどでもないが、わざわざ家まで来てくれた仲間達と楽しい朝食を食べた。
朝食を食べ終え学校に行こうと制服に着替えようとすると、パパに止められた。
「ミーシャ、今日は学校を休みなさい。昨日の疲れもまだあるだろう。今日一日安静にしていなさい」
「え、別にもう体は——」
「そうですね。ミーシャ、今日はお家にいなさい」
「うーん。わかった」
本当はもう体調も体力も全快しているのだが、あんなことがあった後でパパもママも私のことが心配なのだろう。
私はそれ以上何も言わずに自分の部屋に籠ることにした。
部屋に入ると、私はベッドに飛び込んだ。
ベッドにゴロリと寝ころんだ私は、天上を見ながら今日の予定を考えた。
はぁ……暇だな。学校に行かないってなると今日は何をしようかな。魔法の練習でもしようかな?
でも、安静にしてろって言われたしなぁ。
魔法なんて使ったらすぐにママにばれちゃうしなぁ。
そうだ、暇だしクロリスに念話でもしようかな。
いつでも念話してきていいって言ってたし。
よし、そうと決まったら早速念話しようっと。
私はステータスを開きクロリスに念話をした。
頭に響くコール音は前回と同じように1コール以内に繋がった。
「もしもし、クロリス?」
『はいはい、女神クロリス様ですよ。なんの様かな?』
「いや、別に大した用じゃないよ。あえて言うなら暇つぶし」
『はぁー私、一応女神様なんだけど。暇つぶしで神を呼び出すとか——』
「あ、ごめん。わかった。それじゃあ切るね。バイバイー」
私は念話を切ろうとステータス画面に手を伸ばそうとする、大慌てでクロリスがそれを静止しようした。
『う、嘘!暇つぶしで念話してくれてありがとう。だから切らないでよぉ!』
若干涙声気味の叫びに私は仕方なく念話を続けることにした。
なんだこの女神、ひょっとしてアホなのかとかは思っていない。うん。思ってないですよ。
「冗談ですよぉ。実は少し聞きたいことがあるだよね」
『うん?いいよ。なんでも聞いておくれよ。答えられる範囲なら何でも教えてあげるから』
「えっとね。私のスキル『転生』についてなんだけどね。発動の制約とかあるのかなって?」
『制約と言うと?』
私はこれまで深く考えていなかった転生のスキルについて聞くことにした。
「例えば、発動条件の死亡ってあるでしょ。その死亡の判定とかってどうなってんの?」
『えっとね、肉体から魂が乖離した時って言ってもわかんないよね?そうだね、生命活動が完全に停止したときって言う認識でいいかな。他にはあるかい?』
「あとは——」
私は思いつく限りの質問をした。
発動条件を満たせば事故、他殺、自殺は関係ないのか?死因は関係あるのか?
転生直後、転生中に死亡したらどうなるかなどを聞いた。
そして、それらの問に関しては全てクロリスは教えてくれた。
『私の作った転生に死角はないよ。事故死でも自殺でもスキルは発動するし、死因はなんでも発動するよ。焼死、圧死、溺死、感電死、病死、老衰関係なく死ねば発動するよ。あとは、転生直後に殺されたらだっけ?それはまた、転生スキルが発動するだけだよ。それと転生中に殺されることはないよ。転生中は君の体は蒼い炎に包まれるんだけど、その蒼い炎は君の体を癒し、あらゆる障害を燃やし尽くす。もし君が毒で死ねば体内の毒を燃やし尽くし、水底に沈めば水を焼き尽くすし、君が生きられる環境を確実に作る。まさに最強のスキルだろ』
「う、うん。そこまで凄い性能だとは思わなかったよ。でも例えばだけど『略奪』とか他人のスキルを奪うスキルを持った相手にはどうすればいいの」
『ふふふ、その辺もぬかりないよ。称号にある『転生者』にスキル保護の効果をつけたからね。普通、神様は転生者にチート能力、アイテムの他に異世界の生活に順応できるように補助スキルみたいな感じで称号にいくつか効果をつけるんだけど、私はそこにも手を加えたのさ』
「え?初耳なんだけど、ちなみにだけど普通の転生者はどういう補助スキルなの?」
『そうだね。例えば言語翻訳とか鑑定、経験値増加、アイテムボックスとかかな。その辺は担当の神様次第だけどね。ちなみに私の与えた称号の効果の『スキル保護』の効果は文字通りスキルを守る効果で奪われたり、使用できないなんてことはないから安心して死にまくってくれていいよ』
「私、別に死にゲーの主人公じゃないんだけど」
まったく可愛い美少女である私に死にまくれなんて、なんてひどいことを言う女神だ。
死ぬってどういうことか理解しているのか?超痛くて苦しいんだぞ!
実際に死んだから断言できます。死ぬのマジヤバイんですよ。
そんな私の心の声が聞こえたのか、クロリスはケラケラと笑いながら言った。
『焼死が辛い死に方なだけで、一気にヤッちゃえば痛みを感じない死に方だってあるよ。ほら試しにそこ変にあるナイフで首をブスっとやってみなよ』
「ほ、ほんとに痛くないの?」
『まぁ焼死よりは痛くないと思うよ』
私はクロリスに言われるがまま私の部屋にあるナイフを手に持った。
『よし、ブスっとやるんだ!ザシュっと首を切断するくらいの勢いで!』
「よ、よし、やるよ」
私は大きく深呼吸をするとナイフを右手に握り自分の首元、頸動脈の辺りに刃を当てた。
「だ、大丈夫。痛くない、痛くない、痛くない」
私は自分に言い聞かせるように何度も繰り返した。そして腕にグッと力を入れ、そのまま一気にナイフで自分の首を切らなかった。
カランカランとその場にナイフを落とした私は、その場にうずくまった。
「やっぱり無理だよ!だってこれ刃物だし絶対痛いじゃん。無理!自殺なんて無理だよぉ」
『ヘタレ』
「うっさいよぉ。怖いものは怖いんだよ」
『ビビり、チキン、玉無し』
「うるさい!うるさい!ビビりでチキンで悪かったわね!あと玉無しって私、今は女の子なんだから当たり前でしょ!」
『はぁ~死んでくれていたら君の裸が見れていたのに……』
「おい!クロリス。まさか私の全裸が見たくて自殺を勧めたんじゃあ」
『……』
「ねぇ!なんとか言いなさいよ!」
『……さて、他に聞きたいことはあるかい?』
「露骨に話題を変えないでもらえますかね。はぁ……もういいですよ」
はぁ……これ以上言っても無駄だよねぇ。
クロリスからの謝罪を求めるだけ無駄だと悟った私は、他に彼女に聞きたいことはないか考えを巡らせた。
そう言えば、昨日もらった神具、確か名前は『外法魔書』だったけ?
転生者の特典ってことでもらったけど、これってひょっとして他の転生者も私と同じ様に神具が与えられているってことなのかな?
疑問に思った私は神具についての説明を求めた。
『ん?神具?うん、他の転生者の子も持ってるよ』
「はぁ、やっぱり持ってるのか……。ちなみにどういうのを持ってるかとかは?」
『うーん。担当の神様によって変わるから、その辺は何とも言えないかな。そもそも神具って言うのは——』
神具と言っても、全部が全部、武器であるというわけではないらしい。
神具とは神様の道具全てを指しており、転生者には一人につき一つ神具が与えられるらしい。
神具の性能についてだが、基本的に強力な神具ほど扱いにくいモノであるという。
中でも武器の類はそれが顕著であり、一振りするだけで魔力を大量に消費したり、そもそも途轍もない重量の武器であったりするモノもあるらしい。
そういう観点で言えば、私の概念神具『外法魔書』も強力な神具の類と言えるらしい。
というか、私のもらった神具の説明を聞く限り、まともに使える代物ではない。
第一に神具を使うための魔力が圧倒的に足らないのだ。
クロリスに説明を聞きながら試そうとしたのだが、まず何も書けない。
普通のペンで書こうとすると、書いたそばから消えていき何も書けないのだ。
神具に書き込むための専用のペンも本と一緒にあるのだが、ペンを持った瞬間に魔力を急速に吸われ、魔力切れを起こしそうになった。
あれではペンを持っただけで倒れてしまう。
私の神具が日の目を見るのは、かなり先になりそうだ。
「クロリス、これじゃいつまで経っても神具使えないじゃない」
『そう?たぶんステータスの魔力の値が百億くらいあれば、ギリギリ使えると思うけど』
「ひゃ、百億って、ちょっと待って計算するから」
えっと今、私のレベルが12で魔力の値は+60。
つまり、今のところ1レベル上がるごとに5上がってるから……は?
レベル二十億?はい、無理!私の神具は漬物石になりました。
「ねぇ、これ要らないから、もっと扱いやすいのと交換してよ」
『無理でーす。神具の交換はできませーん』
「貴様、さては私を嵌めたな。女の子に転生させたり、強いスキルとか言っときながら、全裸になったり。新しく手に入ったスキルはネタスキルだし、極めつけは漬物石の神具!私をネタキャラにしようとしているな!」
『そ、そんなことないよ。転生先が女の子だったのは、元々決まっていたことだったし——』
「正直に答えなさいよ」
私はクロリスの言い訳を遮るように言った。
するとクロリスは聞こえるか、聞こえないか微妙な大きさで言った。
『……だってつまんないんだもん』
「うん?よく聞こえなかったんだけど」
『だから、つまんなかったんだよ!今まで適合者がいなくて神域から出れなかったし』
「それで?」
『それで……これまでつまんなかったから……ね?』
「だからって私をネタにするなー!」
『べ、別にネタキャラじゃないからね!さ、最強だよ!ただ少しだけ君の物語にアクセントを加えただけで……。でも、ほら主人公には困難が付き物でしょ』
「だからって、わざわざ自分から障害をつくらないでよ!」
『えーもう、やっちゃったものはしょうがないから、ね、諦めて』
「ぐぬぬぬ……いつかぶっ飛ばしてやるからな!」
『私の神域まで来られたらね。それじゃ今回はこれくらいで、またね~』
クロリスはそう言うと私から逃げるように念話を切った。
私がクロリスと念話をしている間、家のリビングでは、バラライカおばさんが優雅に紅茶を飲み、他のエンシェントエルフたちは部屋の隅に全員直立不動でおり、そしてなぜかパパとママは正座していた。
誰もが動かずにいる中、その場で唯一、バラライカおばさんだけは紅茶を飲む光景は異様そのものであった。
「まぁまぁね。でも、貴女達が飲むには十分だけど、ミーシャにはもっと美味しい紅茶をあげるべきね」
バラライカは、ティーカップをテーブルに戻すと冷ややかな目で言った。
「それで、私が来たわけわかるかしら?」
「……さぁ?わかりません」
ママはわからないと言った様子でバラライカに答えた。
すると、バラライカは深くため息を吐くと呆れたように言った。
「あのね。私の目を盗んで里から仲間を呼ぼうなんて、五百年早いわよ。この私を誰だと思っているのかしら?魔王軍独立旅団諜報科団長バラライカ・フォン・カノープスよ。まったく、私に黙って諜報科の子を呼べるわけないでしょうに……。はぁ……それで、詳しく話してみなさい。大体何があったかは、この子達から聞いてるけど、情報は多い方はいいわ」
魔王軍独立旅団。旅団員はエンシェントエルフのみで構成され、常駐している魔王軍とは異なり、完全に独立した旅団である。
有事の際に魔王の要請からのみ行軍する旅団であり、人数こそ少数であるものその戦闘能力はトップクラスである。
その実態はエンシェントエルフの里に住む住民から構成されており、ミーシャ以外の全員が旅団に属している。
彼らは騎士の爵位と免税を得る条件に彼らの持つ武力を魔王に提供している。
そう言った背景があるため、里の全員が旅団に属しているのだ。
だが、彼らはエンシェントエルフ、弱いはずがない。
全員が一騎当千の実力を持つ猛者ばかりだ。
それ故に正規の軍には入らないのだが……。
強すぎるために力を振わないように里に籠り、ひたすら自分を磨いているのだが、バラライカの言葉は耳を疑うものだった。
「それはつまり、協力していただけるということですか?」
「そうよ。あと援軍は私だけではないわ。貴女達の団長と魔王様にもこのことは報告してあるから。魔王様の方は兎も角、私達旅団員はほとんどが来ると思うわ」
「えっ?ほとんどがですか?」
「そうよ。あ、貴女達のためじゃないから。全部ミーシャのためだから。というかあの子ためなら魔王様にも私達は戦争するわ」
「あの、団長。あまりそういったことを言うのは」
あまりに不穏な発言をするバラライカに部下の女性が苦言を呈した。
「あら?私も他の団長、長老衆も割と本気よ。あの子は里の宝よ。それを守るためなら、国の一つ二つ余裕で滅ぼしてやるけど?貴女達もそうでしょ?」
「まぁ……街くらいなら一人でも」
「そうですね、城くらいなら私も……」
バラライカは部下に聞くと部下たちは自分の戦力の自己分析をし始めた。
もし、この場にミーシャがいたら彼女達の愛の重さに耐えられなかっただろう。
ミーシャは里で唯一の子供であり、幼いころから里の全員から愛され大切に育てられてきた。
里に住む者なら全員がミーシャのために動き、ミーシャの願いを叶えようとするだろう。
それがどんなに困難なことでも——。
下手をしたらミーシャの一言で本当に国の一つや二つ滅ぼしてしまうかもしれない。
「ほら、見てみないさいよ。いい?ミーシャは私達の大切な子供なのよ。あの子の平穏な日常を脅かすのは何人たりとも私達が許さない。それが魔王でも、天災でもね。わかったら知ってること、洗いざらい吐きなさい」
「わかりました。実は——」
ママとパパはこれまで得た情報と昨晩話し合って導きだした結論をバラライカたちに話した。
話を聞き終えると、バラライカは深いため息を吐いた。
「はぁー。シェリー残念ながら私もお前たちの話を聞く限り『暴走』の可能性が高いと思うわ。しかも、かなりの大規模のね。森の浅いところまで暴走のしわ寄せがきているってことは最悪ランクSオーバーの魔物もいるね。それでもって原因体の魔物はそれ以上の魔物だろうね……」
「やはりバラライカ様もそう思いますか……」
「あぁ。この眼で確認しないと断言はできないがほぼほぼ確定だろうね」
「団長直ぐに動きますか?」
話を聞いた男のエンシェントエルフの一人が一歩踏み出て、バラライカに指示を仰いだ。
「そうだね。魔物戦力を計ってから里の援軍を待って掃討するわ。戦力分析と原因体を見つけなさい」
「わかりました。それでは行動に移ります」
「あぁ。行きなさい」
バラライカが静かに命令を下すと、パパとママ以外のエンシェントエルフは一斉にその場から姿を消した。
残されたバラライカは懐から懐中時計を取り出し、時刻を確認した。
「私の部下なら三時間あれば、全て調べがつくわ」
「そうですか。では私達は?」
「待機よ。これは団長命令よ。貴女達の団長がつくまで家で大人しくしていなさい」
「わかりました」
「あ、あと、紅茶のおかわりを頂戴、この気配だと七人分ね」
「七人分ですか?」
「そうよ。もうすぐ来るからね」
バラライカの言葉が終わると同時にドアを大きくノックする音が響いた。
パパは急いで玄関に向かい扉を開けると、そこには先程いたエンシェントエルフと別のエンシェントエルフが六人ほどいたのだった。
「息災であったかアーサー?」
「エルビス様!ど、どうしてここに?」
「決まっておるだろ?ミーシャを魔物から守りに来たのだよ。それじゃ失礼するぞ」
そう言うと金髪碧眼の筋骨隆々としたエルビスと呼ばれた美丈夫は家の中に入っていった。
それに続くように同じくエンシェントエルフの美男美女たちが家に入った。
「よぉバラライカ。首尾はどうだ?」
エルビスに尋ねられたバラライカは、予想通りだよと肩をすくめながら答えると少し驚いた表情をした。
「うん?エルビスか。今、私の部下に調べさせているとこだが、戦闘科団長のエルビスがいるのはわかるが、なぜ暗殺科の団長のサラーナがいるのよ」
サラーナと呼ばれた身長の小さい銀髪童顔の少女は自分の髪を指に絡ませながら平淡な声で言った。
「いいじゃん、別に部下の娘が心配で来ただけだし。暴走ごとき殲滅科のババァだけで事足りるし。私はミーシャと会えれば、それだけでいい」
「あらあら、誰がババァなのかしら?このまな板娘はいったい誰に向かって言っているのかしらね?」
サラーナの言葉に淡い水面のような髪をした美しい美女、アンナが殺気の混じった目を向けながら言った。
サラーナの胸をまな板とバカにするのも頷けるほど豊満な胸を強調するようにアンナは、腕を組んだ。
その仕草が何を意味するかをサラーナはいち早く察した。
自身のコンプレックスをダイレクトに刺激するアンナの仕草にサラーナは、猛烈な殺気を叩きつけた。
「殺すぞ年増」
「ふふふ、血祭にあげてあげますよ」
二人の本気の殺気にパパとママは大慌てで止めに入った。
「ちょっ!サラーナ団長落ち着いてください」
「アンナ団長、ここは私達の家なので、お、落ち着いてください」
パパはサラーナ団長を、ママはアンナ団長をそれぞれ自分の団長を落ち着かせようと奔走した。
魔王軍独立旅団には、諜報科、戦闘科、暗殺科、殲滅科、飛空科、群体科、支援科の全七兵科で構成されている。
それぞれの兵科によって特色があり、諜報科は情報収集。戦闘科は通常戦闘。暗殺科は暗殺。殲滅科は魔法による広範囲攻撃。飛空科は、飛行魔法による航空戦力。群体科は、使い魔などの軍団操作。支援科は魔道具、武具の開発や支援魔法。
それぞれの兵科によって指揮系統もまちまちだが、どの兵科も共通して言えるのは、その兵科の団長がその分野で最強であるということだ。
故にその団長同士の争いはたとえ小さくとも看過できるものではないのだ。
ちなみに、パパ、アーサーは暗殺科、ママのシェリーは殲滅科に属している。
暗殺科の団長サラーナは幼女体型の童顔少女であるのに対して、殲滅科の団長アンナはボンキュッボンのグラマーな体型のお姉さんであるため、この二人の仲はそこまでよくない。
そんなことは里の中の周知の事実であるのだが、二人の団長の争いに関わりたくないのか、バラライカも他の団長もそそくさとテーブルにつき先程ママが用意した紅茶を口につけている。
「はぁ……奴らはほっとくとして、バラライカ、調べ終わるのは、いつ頃だ?」
「昼頃には、帰ってくるだろうね。それよりあんた達の部下はどうしたんだい?」
「おいてきた」
「同じく」
「はぁ……それでいつごろこっちに着くのよ」
「おそらく明日の朝だろうな。武器やら装備やらの面倒な手続きは全部副団長に任せてきたからな」
「そうかい、なら私達はそろそろ本題に行こうか」
「そうだな」
バラライカ達は一斉に立ちあがった。
「皆さまどこ行くんですか?」
「うん?決まっているだろ、我々の可愛い娘に会いに行くのだ」
そう言うとバラライカたちはミーシャのいるであろう彼女の部屋に向かった。
「アーサー離して、私もミーシャのとこ行く」
「団長!もうアンナ様と喧嘩しないでくださいよ」
「ババァが喧嘩売ってこなかったらね」
「そういうとこがダメなんですよ」
「シェリー、貴女も離してください。私もミーシャの元に行きます」
「だ、大丈夫ですか?」
「ええ、あの貧相な胸の小娘の件など、ミーシャに会うことに比べたら瑣事ですので」
「お願いですから、家は壊さないでくださいよ」
「わかっていますよ。シェリーあとで直しますから」
「壊す前提で話さないでくださいよ」




