第九話 クエスト
ギルドのお姉さんに頼んで私は、一番簡単なクエスト『キュアル草の採取』を受注した。
キュアル草とは近くの森に生えている薬草の一種で、解毒作用のあるものらしい。
採取に行く前にギルドのお姉さんから、薬草の絵を見せてもらった。
前世の植物ならいざ知らず、異世界の薬草の知識なんてものは私にはほとんどない。
間違ったものを採取してしまわない様に私はしっかりと確認をしてから家に一度戻ることにした。
私は一度家に戻り装備を整えてから、改めて森へ向かった。
街の近くにある森と言っても前世ほど安全ではない。
街から離れれば、魔物が襲ってくるのだ。
だから、街の外に出るときは武器や防具といった対策が必要なのだ。
ちなみに私が家から持ってきたのは里にいた時から使っている弓矢だ。
他にも剣や槍なんかも家にはあるのだが、パパが言うには一番使い慣れたものを使った方がいいと言われたので、弓矢以外の武器は家に置いてきた。
まぁ使わない武器を持って行っても荷物になるだけだし当然かもしれない。
私は弓を肩にかけるように持ちパパとママと一緒に森へ向かった。
時間にして一時間ほどだろうか、道中は一度も魔物と出会わなかったためスムーズに進むことができた。
街から歩いて目的の森についた私は、早速『キュアル草』を探すことにした。
『キュアル草』は、大きいゼンマイのような薬草で、木陰などに群生しているらしい。
私は手に弓を持ちながら、木陰を注意深く探していく。
私が『キュアル草』を探している後ろをパパとママはニコニコしながらついてくる。
「ミーシャ頑張ってますね」
「そうだな。おっと、あそこに魔物がいるな。全くミーシャが襲われた危ないな」
そう言ってパパは地面に落ちていた石を拾うとスナップをきかせて森の奥に向かって投擲した。
石はもの凄い速さで標的に向かい、いとも簡単に魔物の命を刈り取った。
「はぁ……パパあまり魔物を狩るとミーシャのレベル上げができませんよ」
「しかしだな……やっぱり娘を守るのは父親の務めだろ?」
「もう~ミーシャに怒られても知りませんからね」
その後もパパは私に気づかれないように石や魔法、弓矢で魔物を倒し安全に私達は森を進んでいった。
「あ、あそこに——」
「ダメよパパ。ミーシャの受けたクエストなんだから、自力でやらないとね」
「うむ……そうだな。ミーシャ頑張るんだぞ。」
二人は私の耳に入らないように口元の隠しながら話す。
私がパパとママの方を振り向くとさり気なく手を隠したり、あくびをしてごまかした。
むむむ?パパとママがニヤニヤしてる。まさか『キュアル草』を私より先に見つけたな。
怪しいなぁ。怪しすぎる。こういう時は愛娘処世術『愛娘の無言の視線』で白状してもらいますよ。
私はパパとママを交互に見つめた。
さぁどっちが『キュアル草』を見つけたんですか。
目を向けるとママは私を見つめ返しニコニコと笑い、パパは目を逸らした。
なるほど、パパが見つけたんだね。ふふふ、それじゃ『キュアル草』のありかを教えてもらいますよ。
私は目を逸らしたパパの方を見つめる、いつもより三割増しくらい熱く、首をコテンとするオプション付きで見つめる。
するとパパの視線が私の右奥の方をチラチラとまるで合図するかのように向けられた。
視線に誘導されるようにパパの見ている方を向くとそこには茂みに隠れるように生えた大きなゼンマイ『キュアル草』があった。
丁度私の身長では見つからない様な位置であったためにパパは私より先に見つけることができたのだろう。
決して私が探すのが下手と言う訳ではないんだからね。
ふふふ、でもこの勝負、勝ったな。見つけましたよ『キュアル草』!
別に勝負とかはしてないんですけど、これは勝利なのです。
「あー!キュアル草あった!」
私は『キュアル草』が群生している木陰に向かって走った。
「おぉ。流石ミーシャだな。もうキュアル草を見つけたか!」
「パパ、ミーシャに教えましたね?」
「な、なんのことかな……あれはミーシャが見つけたんだろ?」
「はぁ~あんまりミーシャを甘やかなさいでください。ミーシャがダメな子になってしまいますからね」
「ははは、面目ない。あまりも家の愛娘が可愛くてつい……」
「もう~パパったら仕方ないですね」
「パパ!ママ!何してるの?早くこっちに来てよ!」
「はいはい。今行きますよ」
『キュアル草』の群生地で私は七本ほど採取し、家から持ってきたカバンの中に入れた。
クエストに必要な本数を集め終わると私達は森でお弁当を食べた。
お弁当はママが作ったサンドイッチだった。
私は瑞々しい野菜を挟んだパンを口いっぱいに頬張りながらもはやり物足りないと思ってしまう。
ママの作ったサンドイッチは好きなんだけどやっぱりマヨネーズとかが欲しいな。
はぁ~他の転生者で作り方知っている人いたら早く私のところまで広めてくれないかな。
実は私、里にいるときに結構前世の料理を再現しようとしていた時期があった。
けれど結果は惨敗……。理由はいくつかあるが、一番の理由は作り方を知らないことだろう。
カレーを作ろうと香辛料を混ぜたら黒色の泥が生まれ、マヨネーズを作ろうとしたら食べた人のギュルギュルにする兵器を生み出してしまった。
お陰様で私は一人で料理することを禁止された。
物語の主人公達ってなんでニートとか社畜なのに自家製マヨネーズ作れて、私は作れないんですかね?
前世ではよく自分で料理をしていたっていう初期設定を誰かつけ足してくれませんか?
はぁ~普通に日本に住んでたらマヨネーズなんて作んないじゃん。
みんな全裸の子供がプリントされたやつ使ってるでしょ?少なくとも私は使ってましたよカロリー半分のやつ!
だけど無いものは仕方ない前世の味に未練はあれど、ママの料理がおいしくないわけではない。
パンは少し硬くて、デザートの果物は少し酸っぱいけど私はママの作ってくれた料理は大好きですよ。
まぁ食についてはこの辺りにしないとキリがないのでここら辺でやめておこう。
ご飯を食べ終わった私は、ついに!満を持して!パパとママにお願いをした。
私が森にやってきた本当の目的を果たすため。そう。経験値を稼ぐことですよ!
「パパ、ママついにこの時が来ました。そう。経験値を稼ぐのです!レベル上げです!」
「はいはい、わかってますよ。そのために家から弓も持ってきたんですよね」
「うん!修練の成果を発揮するときが来たの!もう学園にも入学したし、いいよね?」
「う~ん。ママはいいと思うんだけどね……肝心の魔物、もうこの辺にいないみたいよ」
「えっ?なんでいないの?」
「だって……ほら」
そう言ってママはパパの方に目を向けた。
パパは木の上から弓を引き丁度矢を放つところであった。
獲物を狙うパパの姿はいつも優しい雰囲気とは違い、刃物の様に鋭く冷たく別人のようであった。
そして、引き絞られた矢は音も無く放たれ目視も危うい速度で森の深いとこに消えていった。
矢を放つ姿はとても凛々しく絵の様に美しかったが、私はブスっとした顔でパパを睨んだ。
パパは私の視線に気が付くと先ほどの雰囲気から一転し、慌てだした。
「ミ、ミーシャどうしたんだい?そんな目でパパを見つめて——」
「パパ何してたの?」
「何ってミーシャが安全に薬草採取をできるように魔物を倒して——」
「パパのバカー!」
「な、なんで!」
「やっちゃえ『氷魔狼』」
私は全力で魔法を使った。魔法陣から現れた氷の狼は教室で作った狼よりほんの少し大きいもので出現と同時にパパに向かって牙をむき出しに襲いかかった。
体内の魔力の大半を使って生み出しただけに私はその場にへたり込んでしまったが、目はパパをキリッとパパを睨む。
「よくも私の経験値を奪ったな!パパなんて大嫌い!」
「ミーシャごめんよ。パパはそんなつもりでやったんじゃないんだよ」
氷の狼の攻撃をパパは軽々と避けながら私に謝ってくるが、私はそれを無視する。
攻撃を全て避けているはずのパパであったが、私が嫌い、嫌いと口にする度にグハッと何故かダメージを追っている。
「うーん、変換効率は六割くらいね。もう少し練習が必要ね」
「ママ!魔法についての分析なんかしてないでミーシャを止めてくれないか!」
「ミーシャ、ママの魔力少し分けてあげるわね」
「うん、ママありがとう!くらえ『雷鳥』」
ママはパパの叫びを無視し、私に魔力を譲渡した。
ママからもらった魔力で全回復した魔力を使って私は新たな魔法『雷鳥』を使った。
『雷鳥』は雷でできた鳥で敵を攻撃する魔法である。
『氷魔狼』の次に私が得意にしている魔法で、火力こそ『氷魔狼』に劣るが、鳥を模した機動力と追尾性能を持ち確実に敵を追い詰める魔法——であるはずなのだけど、なんでパパに当たらないの!
『雷鳥』の攻撃をパパは木々を縫うような動きで回避していく。
「むぅぅん!なんで当たらないの!」
「ハハハ、まだミーシャにやられるほどパパは弱くはないぞ」
私は手に持った弓矢でパパを射抜こうとするも、放たれた矢はことごとく避けられるか、短剣で撃ち落とされてしまう。
「あらあら、ミーシャもパパも熱くなって……仕方ないですね」
「ほらほら、しっかり狙わないと当たらないぞ」
「う、うるさい!これでもくらえぇぇ!」
私は矢を二本取り出すと、パパの頭と胴に向かって放った。
パパは放たれた矢の軌道を見切ると余裕の笑みを浮かべながら避けようとした。
「甘い甘いぞって!な、なんだこれ!」
矢を避けようとしたパパであったが地面から不意に伸びた蔦が足を拘束し、それを妨げた。
拘束されたのが足であったため、辛うじて頭への矢は避けることができた。
しかし胴体の回避は間に合わなかった。
「ぐあぁぁぁ」
「えっ——」
パパは呻き声を上げながらその場に倒れた。私はその様子をただ茫然と見ることしかできなかった。
えっパパ?何が——う、嘘だよね?だって、だって——。
最初、私は何が起きたのかわからなかった。
いや、起きたことは理解できる。
私の放った矢にパパが貫かれ倒れたのだと、でも信じられなかった。
ドクン、ドクンと鼓動の音が大きく速くなっていく。
心臓が脈を打つたびに血の気が引いていく。
わ、私が……パパを……殺しちゃったの?
う、嘘だよね?だってパパなら余裕で——。
『避けられたはず』だと……でも現実は違った。
私の放った矢はパパの胴を射抜き、パパは倒れたのだ。
これは嘘じゃないと高まる鼓動が私に訴えてくる。
まるで犯した罪を責めるように——。
矢を人に向ければこうなることは予想ができた。
いや、そもそもこれが弓矢本来の正しい使い方、武器として相手を傷つける本来の用途。
それを私は知っているはずだった、知っている気でいた。
武器を扱うことに認識の甘さ、避けるだろうなんていう私の甘い考えが悲劇を招いたのだ。
子供だから許されるなんてことは思わない、前世の記憶の有無なんて関係ない。
罰ならいくらでも後から償う。だから、お願いパパ、パパを誰か助けて!
「うわぁぁん。パパ、ごめんなさい。ごめんなさい。死んじゃ嫌だよぉぉ」
「ミーシャ」
「ママ!ママ!お願いパパを助けて!」
後ろからやってきたママに私は縋りつくように無様に泣き顔を晒しながら懇願した。
ママは私を優しく私を抱きしめ、頭を撫でながら言った。
優しい声音と生暖かい体温に包まれるように私の動悸を落ち着きを取り戻していった。
「ミーシャ、人を傷つけることがどれだけ悪いことかわかった?」
「……うん」
「ミーシャがこの先レベルを上げて強くなってもそれは変わらないことよ。私達は果てしない強さへの探求者。頂きへの道程は果てしなく険しく美しい道ではない。殺す覚悟、奪う覚悟が時には求められる。でも今の気持ちも大切なこと。歩む道は修羅道でも私達は修羅ではないの。最強はただ純粋に自分を鍛えるの。わかったかしら」
「……うん」
「よし!ミーシャが反省したことだし、それじゃママが新しい魔法を——」
「ママ待って!パパが……」
「大丈夫よ。ふふふ、ミーシャったらよっぽど気が動転してたのね」
ママは私にパパをよく見る様に言った。
私は倒れているパパをこれでもか凝視した。
パパは先ほどと同じように地面にうつ伏せに倒れ、腹部からは血が……流れていなかった。
血が出てない?でも、私の撃った矢は確かにパパのお腹を——。
「まぁ見てなさい」
私が結論を出す前にママはパパの真上に鋼でできた大きな杭を作りだすとそれに雷と風で覆い勢いよく射出した。
杭は視認することのできないほどの速度に急加速しながらパパに向かっていった。
ママの魔法はドゴーンという大きな地響きと共に周囲の木々を吹き飛ばした。
ママの張った結界のお陰で私達の方への魔法の余波はなかったが、爆心地は大きくえぐれ小さなクレータができていた。
「マ、ママなにやってるの!さっきママ、私に人を傷つけちゃダメって言ったのに!」
「ダメなんて言ってないわよ。悪いことだっていったけどね。それによく見て見なさい」
ママに促され、クレータの中心地に目を向けると頭を抑え蹲るパパの姿があった。
「パパ!」
「やっぱり、無傷ね。私の複合魔法『雷風槍』じゃ火力不足かぁ……」
私はパパのもとに急いで向かった。
「パパ!パパ!パパ!」
「お、ミーシャ」
「よかった、よかったパパ生きてる!」
「ははは、ミーシャの矢でパパが死ぬわけないだろう。まぁさっき死にかけたけどな」
「あらあら、私の魔法をくらって脳震盪で済んでいるくせにこの男を何を言っているのかしら」
「ママ、言葉に棘がある気がするんだが……」
「気のせいですよ。忠告を破って魔物を狩りまくって、結果ミーシャと戦い初め挙句事態の収束にわざわざ死んだふりしてミーシャを泣かせて、私に尻拭いをさせた件はもうさっきので許しましたから」
「パパ、死んだふりしてた!?私、パパが死んじゃったと思って心配したのに!最低!」
「…………すみませんでした」




