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殲滅の魔法少女  作者: A12i3e
X1章 勇者召喚
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x1-10.断罪者

 白井さんと付き合い始めてから、早くも5日ほどが経った。

 あの後朝食の時、コノと望の二人に俺と白井さんが付き合うことになったと報告をしたら、散々に冷やかされた。特に望がウザかったが、今回は許してやろう。おかげでいいものが見れたしな。

 そしてその日は丸一日休みということにして、二人でデートでもしてこいと送り出されたりもした。なんだかんだで祝福をしてくれているのだろう。


 まあ、そこまでは良かったんだが、どうも白井さん、付き合い始めてからやたらと俺にくっつきたがる。くっついているとなんか安心するらしい。いや、俺としてもくっつかれるのは嬉しいし、色んな意味で幸せなんだが、正直言って理性を保っていられる自信がない。そのうち白井さんを襲ってしまわないか不安になる。

 そんな白井さんと一緒にいると、どうやら白井さんは甘えたがりなんだということがわかってきた。親しく付き合わないとそっけない態度な上、見た目も相まって淡白な人のように見えるんだが、実はものすごい甘えたがり。なにそのギャップ。白井さんが可愛すぎてつらい。


 つーかね、俺に抱きついてきて「ぎゅってして」だとか「キスして」だとか言ってくるんですよ。なんかもう、付き合う前と別人じゃないですか?ってくらいに態度が違う。

 どうやら白井さん的には、俺に告白することも出来ずに片思いで終わるものだと思っていたらしく、こうやって付き合うことの出来た今が幸せすぎて、気持ちが抑えられないんだそうだ。そんなことを聞かされたあげく、上目遣いで「……駄目?」なんて言われたら、駄目じゃないとしか言えるわけがないじゃないですか。


 しかし、そうは言っても心配なのはやはり俺の理性だ。いつ暴発するのかわかったもんじゃないので、俺は正直に白井さんに言ってみた。


「あんまりくっつかれると、白井さんにエロいことをしたくなってしまうから、少し控えないか?」


 もしかしたら少し引かれてしまうかもと思ったりもしたが、取り返しの付かないことをしてしまってからでは遅いので、俺の気持ちを正直に伝える。

 しかし白井さんは、俺に抱きついたまま顔を上げ、恥ずかしそうにこう言った。


「大丈夫。私も、結構、エロいよ」


 何が大丈夫なのかわからない。つーか、何の解決にもなってないですよね?

 どういうことですか?エロいことしてもオッケーってことですか?マジで俺の理性が崩壊するから、そんなセリフを恥ずかしそうに言わないで欲しい。

 とりあえずその場は思いっきりギューっと抱きしめてごまかした。いくら同意の上だとしても、流石に王宮の客室なんかで致せるわけがないじゃないですか。

 果たして俺の理性はどれだけ保つのか……。




 まあ、余計な話はここまでにしておこうか。正直、脳内でこんなことを語ってしまうくらいには浮かれているという自覚はあるんだが、すっげー可愛い彼女ができたんだからしょうがないよな?最近、魔物の討伐に身が入っていないような気がしないでもないけど、しょうがないんだよ。それもこれも白井さんが可愛すぎるのがいけないんだ。だから、俺の幸せが有頂天になるのも仕方がないこと。あ?言葉の使い方がおかしいって?そんだけ浮かれてるってことだよ、言わせんな恥ずかしい。

 ……ああ、また脱線したよ。話を進めよう。


 今俺達がいるのは王宮へと続く道の途中。いつもの魔物狩りの後、食事を済ませた帰り道だ。

 あれから俺達は毎日満月堂へ顔を出している。

 仲間にはなってもらえなかったが、それでもユノさんとは仲良くしたいということもあるし、意外と食事が美味しかったというのもある。王宮での食事ももちろん美味しいのだが、満月堂の食事はどこか懐かしいような、ほっとするような美味しさがあるのだ。好みで言えば満月堂のほうが俺にはあってるな。


 因みにこの満月堂、ものすごい人気店だったりする。昼や夜なんかはあっという間に席が埋まってしまうのだそうだ。まあ、それも当然だろう。食事が美味しいのもさることながら、店員さんがみんな美女美少女という、見た目にも嬉しいお店なのだから。そりゃ男共は喜んで飯を食いに来るわけだ。

 とは言っても、流石に食事時以外はそれほど混んでいるわけではなく、俺達はそんな時間を狙って行っている。やっぱり美味い飯ならゆっくりと落ち着いて食べたいしな。おまけに忙しくない時間を狙って通っていたため、店員さんと話をする機会もそれなりにあり、ユノさん以外の店員さんともそこそこ仲良くなれた。まあ、だからなんだと言われれば別になんでもないんだが、行きつけの店の店員さんとの関係が良好だというのはいいことだろ?


 で、いつも通りに食事を楽しんだ帰り道。もう数分程歩けば、この世界での俺達の拠点となっている王宮へ辿り着くというところで、向こうから立派な馬車がやって来た。

 恐らく貴族だろうなと思い、そのまま馬車が通りすぎるのを待っていると、俺達の目の前で馬車が止まる。

 なんだろうか?俺達に何か用なのか?こっちとしては貴族なんかと関わり合いになんてなりたくないんだがな。


 この世界へ来て一ヶ月と少しが経つ。王宮なんていう所で生活をしていると、貴族なんかと顔を合わせることもそれなりにあるわけだ。

 そんな貴族の大半が、やたらと高圧的で、俺達が王宮内を自由に歩いていることを快く思っていない、という気持ちがあからさまに態度に出ているような、ろくでもない奴等なのだ。そもそもお前達が勝手に俺達を呼び出しといて、その態度は何なんだと言いたい。女子陣に言わせれば、典型的なクズ貴族だそうだ。典型的なのかどうかは知らんが、クズだという言葉には俺も同意する。あんな態度ばかりとられれば、否定する言葉なんて出るわけがないしな。大体、よそ者に歩き回られるのが嫌なら、最初から勇者召喚なんてしてんじゃねーよ。


 もちろんそんな貴族ばかりでなく、俺達に対してもちゃんと対応してくれる貴族はいる。いるんだが、やはりクズが圧倒的多数なのが事実だ。

 つまり、目の前の馬車に乗っているのはクズ貴族である可能性が非常に高いという予想が成り立つわけで、面倒なことにならなければいいなぁ、などと他人事のように現実逃避したくなるのもしょうがないことなんだよ。


 そんなことを考えつつ、どんな奴が出てくるんだろうかと俺達が身構えていると、馬車からは身奇麗な少し年配の男性が降りてきた。


「このような場所で失礼します。あなた方が異世界より召喚されたという勇者殿でしょうか?」


 思いの外丁寧な言葉に、俺達は逆にビビってしまった。どうせ横柄な態度で話しかけてくるんだろう思っていたからな。まさか数少ないまともな方の貴族だったとは。


「え、ええ、確かに私達が異世界から来た勇者です」


 コノも驚いてはいたが、ちゃんと返事を返していた。一人称も「私」になっていたので、意外と冷静なのだろうか。流石に貴族相手に「俺」なんて言えないよな。


「やはりそうでしたか。私はアンリーケ・アルミテイグと申します。この国にて伯爵の位を戴いております。少しお話をさせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


 伯爵だって?確か伯爵ってかなり偉い人だったよな?そんな人が俺達に何の話があるんだ?


「はい、別に構いませんが」


 そうコノが返事をすると、アルミテイグ伯爵は色々と質問をしてきた。

 まあ、大体の内容は魔王に関してだったな。どうやらこの人は魔王討伐に否定的な派閥らしく、アレにはどうあがいたって絶対に勝てないからやめておけ、なんてことも言われた。推定レベルからしてそう思ってしまうのも無理は無いけどな。

 つーか、そんなことよりも、魔王討伐に否定的な派閥があるなんて話、初めて聞いたんだが……。


「あの、アルミテイグ伯爵は魔王討伐はすべきではないという考えなんですよね?実際に国に被害が出ていて、今後も被害が出ることが予想されますが、それでも討伐はすべきではないと思っているのでしょうか?」


 アルミテイグ伯爵の言葉を聞き、コノがそんな質問をする。

 そうだよな、結局のところ今後も被害が出続けた場合、最終的に国が滅ぶ可能性がある。それを回避するためには例え勝つ見込みが少なくとも、魔王を倒すしか方法はない。それを放棄するというのであれば、国を見捨てるも同然のことだ。

 そう思ったんだが、アルミテイグ伯爵からは意外な言葉を返された。


「それは物事をある一方からのみ見た意見ですね。国民からすれば、その『仮面の魔王』という存在は無害、どころか有益な存在であるという認識です」

「え!?それは一体どういうことですか?」

「申し訳ないが、これ以上のことは私の口からお伝えすることは出来ません。どうしても知りたいというのならば、あなた方自身でお調べになってください」


 魔王が国民にとって有益な存在だ?どういうことなんだ?

 しかも理由は話せないという。正直言って、なにがどうなっているのかわからない。


「せっかくこうして出会えたことですし、少しおせっかいをしておきましょう。今からディポネ男爵の屋敷に向かいなさい。もしかしたら『断罪者』に出会えるかもしれません」

「『断罪者』とは?」

「申し訳ないが、それも答えることは出来ません」


 新しい単語が出てきた。『断罪者』。話の流れからすると『仮面の魔王』と何か関わりがあるんだろうけど……。魔王の部下か何かだろうか?


 俺達は目の前の一人の男性からもたらされた情報に考え込んでしまうが、そんなことはお構いなしにアルミテイグ伯爵が口を開く。


「思いの外長い時間話し込んでしまいましたね。私はここでお暇させていただきます」


 そう言って俺達に向けて優雅に礼をする。

 確かに話し始めてからそれなりの時間が経ったようだ。それに今の話のおかげで、考えなければならないことが出来たし、やらなければならないことも出来た。

 俺達も別れの挨拶を返すと、アルミテイグ伯爵は馬車へと乗り込もうとし、もう一度こちらを振り向き言葉を発した。


「ああ、そうそう、最後に一つ言っておきましょう。『仮面の魔王』なんていう存在は、醜い人間が勝手な都合で創り出した存在です。勇者殿が言葉に惑わされず、物事の本質を見て行動できることを祈っておりますよ」


 そう言い残して馬車へと乗り込み、早々に俺達の目の前から去っていった。

 ……どういう意味なんだ?今の言葉は。

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