透明人間になりたい~決意(前編)~
人は誰でも、一度はくだらない夢を持っていた頃があると思う。ヒーローになりたいだとか、超能力を使いたいとか。私もそうだった。正確に言うと、今もそうだ。
私は松野 明子。高校3年生で、毎日が同じことの繰り返しみたいでつまらないと思っている。学力は平均的で友達はそこそこいて、彼氏もいる。まわりから見れば、ありきたりな普通の女子高校生。
そんな私は、今でもくだらない夢を願い続けている。
それは、「透明人間」になること。
自分でも恥ずかしいと思う。しかし、便利そうで、自己満足ぐらいにはなるかな、なんて思ったりしているのでなかなかやめられない。まぁ、叶う夢ではないだろうけど・・・と、今日までは思っていた。
✽ ✽ ✽ ✽
今日も学校があった。いつもの通学路を通って、いつもの授業を受けて、いつもの友達や彼氏と他愛のない話で盛り上がったり。そしてまた、一日が終わっていく。その日常に私は飽き飽きしていた。そして、ある日の帰路の途中のことだった。
「無意味とも思える、繰り返しのような日常に飽きた・・そんな顔をしてますね、あなた」
突然声をかけられ、ビクッと体を震わせてしまった。恐る恐る振り向くと、そこには黒いスーツに身を包んだなかなかのイケメンさんが立っていた。年齢は、20代くらい。
「な、なんですかいきなり・・べ、別にいいじゃないですか」
「ふ~ん・・本当は、何か非現実的な出来事が起こってほしいとか、そう思ってるんでしょう?」
なんだこの人は。いきなり話しかけてきたかと思えば、私の頭の中を見透かしたように・・
「そ、そんなこと・・というかあなた、一体何者なんですか?」
私がたずねると、男は少し考えるそぶりを見せた。
「う~ん。「願いを叶える者」・・とでも呼んでいただきましょうか」
願いを叶える者?大丈夫なのかな、この人・・
「あなたに声をおかけしたのは、あなたの願いを叶えてあげよう、と思ったからです」
私の願いを・・? やっぱりこの人、危ない人なのかな・・それとも、私をからかってる?
「そんな話、信じるわけないじゃないですか。どうせからかいとかなんでしょ?」
「どうせ、とおっしゃるということは多少信じていただけてるんですね?」
「っ・・・」
確かに、興味がないというわけではない。でも、いきなりすぎて信用ならないのだ。
「まぁ、叶えるかどうかはあなた次第ですので。もしも願いを叶えた場合、代価として、あなたの”所有物”を一つだけいただくことになります」
「所有物・・・?」
「はい。お命や生活に必要なものや、金銭的なものではありません」
男は一拍置いて、
「なくても困らないもの・・それをいただきます」
「・・ほんとにお願い、叶えてくれるんですか?」
「もちろんです。なんでもいいですよ」
ますます怪しくなってくる。ダメ元で私は、
「じゃあ、私を透明人間にしてください」
と答えた。すると男は、少し驚いた顔をした。もし本当に叶うなら、これが一番いい。
「そんなものでいいのですか?ほかにもいろいろあると思いますが」
「はい。小さい頃からの夢だったので」
「そうですか・・では、目をとじてください」
私は言われた通りにする。
「・・もう一度お聞きします。本当にいいんですね?」
声は出さず、静かにうなずく。「わかりました」と言って、私の頭に手を乗せてきた。するとすぐに、体が軽くなった感じがした。




