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Present  作者: I.H
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彼女がほしい男

 鳥のさえずりが聞こえる。カーテンのすき間から光が差し込んでいる。いつも通りの朝だ。

今日はいつもより早く起きた。理由はただ一つ。今日僕に、人生初の彼女ができるかもしれない日だからだ。

 僕は村春伸二、35歳。サラリーマンで、彼女いない歴35年。顔は自分でも不細工と思えるくらいのレベル。髪の毛もハゲかかっている。いわゆる、「ダメオヤジ」だ。まわりの痛い視線だとか悪口とかは、もう聞き慣れてしまったので気にしない。しかし、そんな僕に何故彼女ができるかもしれないのか、というと・・・

 それは、おとといの出来事だった。

                 ✽ ✽ ✽ ✽

 その日も今日のような朝を迎え、一人で暮らしているアパートのポストを見に行ったときのことだ。新聞やチラシに紛れて、一枚の茶封筒が入っていた。表面には「アンケート」とだけ書かれていた。

 住んでいる街でアンケート調査でもしているのかと思い、封を切って中身をとりだした。中に入っていたのは、4つ折りにされたアンケート用紙らしきものだった。コーヒーを飲みながらそれを開くと、つい吹き出しそうになってしまうような内容が書かれていた。 

 

---もし願い事が一つだけ叶うとしたら、あなたは何を望みますか?---

なんとも子供向けのようなアンケートだった。小学校の頃の記憶がふとよみがえる。あのころはヒーローになりたいとか、宇宙飛行士になるとか・・・無邪気だったなあ、なんて思ってしまう。

 せっかく届いたアンケートだし、協力しないのもどうかと思い、コーヒーを飲み干してペンを取った。

 「願い事かぁ・・・」

 ふと、そんなつぶやきを漏らした。会社で成功したいとか、金持ちになりたいとかいうものなら思いつく。しかし、それは厳しいけれども自力で実現可能なことなのだ。道のりは遠いだろうけど、不可能なことではない。どうせならもっと、自分にはできないことを・・・

 「・・・あ、そうだ。」

 思いついたのは一瞬だった。僕の長年の願い・・・それを書き終えた直後に、ポストへ走った。宛先とかわからなかったけど、大丈夫だったのだろうか。それだけが心残りだ。

                  ✽ ✽ ✽ ✽

 そして二日後の今日。早く願いが叶わないかと、わくわくしていた。不思議と、嘘をつかれているような気はしなかった。すっかりだまされてしまっているのかもしれないが・・・

 そんなことを考えているうちに、玄関のチャイムが鳴った。まさかアンケートのことで・・・と思い、玄関へ向かった。覗き穴から外を見ると、黒いスーツにみを包んだ長身の男性が立っていた。まだ20代くらいで、なかなかイケメンだ。鍵を解除し、ドアを開くと、男は礼儀正しくおじぎをした。

 

「アンケートのご協力、ありがとうございました。今日はその件でお伺いしました。彼女がほしい、という内容でよろしいでしょうか。」

 

 なかなかしっかりした人だ。と思いきや、僕の願い事をさらっと言われてしまった。確かにそう書いたけれども、書くだけでも恥ずかしかったものが他人に言われると、恥ずかしさは2倍になって襲いかかる。

 「は、はい。村春と申します。」 

 「さて、村春様の願い事ですが、同じようなアンケートを行なったところ、偶然にも一人の女性の方が、村春様と同じ内容で回答をされてていまして。」

 そうなのか・・・って、え?まさかの?同じ回答をした二人が・・なんてことに!?

 「もし村春様さえよろしければ、その方と一度お会いになってみてはいかがかと。お名前は河村清美様です。河村様は、お会いになってもよろしいとのことです。」

 「ほ、ほんとですか?じゃあぜひ・・・」 

 「かしこまりました。では、こちらにサインをお願いします。」

 と言って、一枚の紙とペンを渡してきた。紙には、注意書きのようなものが書かれていた。

 「・・・ってこれ、どういうことですか?」

 注意書きには、{願い事を叶えた場合、あなたの所有物を一つだけいただきます。命などではありません。}と書かれていた。

 「文字通りですよ。生活必需品やお命などではございませんが、村春様の”所有物”をお一つだけいただきます。いただいたものについてはお気づきにならないと思いますので、お気にしなくて大丈夫です。」

 僕の所有物を、一つ・・・彼女ができるなら、何をとられたっていいかな。

 「わかりました。サインします。」

 承諾して、名前を書いた。

 「ありがとうございます。では、こちらが河村さんの簡単な自己紹介と、連絡先になります。」

 と、メモを渡してきた。ーー河村清美。23歳のOL。それと、メールアドレス。

 「では私はこれで。」

 とだけ言うと、男は一礼して帰っていってしまった。僕は部屋に戻って、さっそく清美さんのアドレスを登録した。・・・まずはメールからか。女の人とメールしたことなんてないからなぁ。がんばらないと・・・

 {はじめまして。村春 伸二です。河村さんで合ってますか?}

 なれない手つきで作成したメールを、緊張しつつ送信した。するとすぐに返事が来た。

 {はじめまして。河村 清美です。メールありがとうございます。}

 絵文字付きの可愛らしいメールだ。返事が早いのは、やはり若いからだろうか。

 {メール、遅くてすみません。いきなりこんなことを聞くのはおかしいと思いますが、私とお付き合いしていただけるんですか?}

 まずい。送っておいてだが、とても恥ずかしい。急いで謝罪のメールを送ろうとしたとき、

 {もちろんです。私で良ければ、よろしくお願いします。}

 と、目を疑ってしまうような返信がきた。思わず頬がゆるんでしまう。そしてそのメールには、河村さんと思われる写真が添付されていた。整ったきめ細やかな顔。黒色のロングヘアー。とてもきれいだった・・・一目惚れだ。ほんとにこんな綺麗なひとが、僕の彼女なんかでいいのだろうか。

 {すごく綺麗ですね。私じゃ釣り合わないかも。} 

 と、自分の原付の免許証の写真を撮影して添付する。あまりの顔面崩壊度に、エラーでもなるんじゃないかと心配だ。

 {とてもかっこいいじゃないですか。今すぐ会いたいくらいです。}

 ・・・おぉ、おせじとはわかっていても、人に自分のことを褒められるのはこんなにも嬉しいことだなんて。だめだ、ニヤニヤがとまらない・・・

                  ✽ ✽ ✽ ✽

 その日から僕らは毎日メールをするようになった。仕事の悩みや、その日の出来事、もっと詳しい自己紹介、毎晩のおやすみメールなど、いろいろな内容で僕らは通じ合っていた。けど、まだ一度も会ったことはない。お互い仕事が忙しく、メールだけの関係になっている。それだけでも僕は幸せなのだが、このままでは長続きしないのでは、という恐怖感も芽生えていた。

 そしてメールを続けること、2ヶ月。ついに運命の日がきた。いつもは僕からメールをするのだが、今日は清美から先にきていた。

 {今度の日曜日、ご都合がよろしければお会いしませんか?そろそろ、会ってお話がしたいです。}

 そのメールを見たとたん、心臓が跳ね上がるような緊張が襲った。ドキドキがとまらない。

 {ちょうど日曜日、休暇をとったんですよ。いやぁ、うれしいな。やっと会えますね。}

 僕も今日、お誘いメールを送ろうとしていたところだったのだ。

 {ほんとですか!?やったぁ!じゃあ、10時ごろに鳴宮駅前のカラオケボックス前で待ち合わせで、いいですか?}

 清美はカラオケが好きと言っていた。初デートにしては、いいんじゃないだろうか。カレンダーを見る。今日は金曜日なので、明後日ということになる。

 {わかりました。たのしみです!}

 {はい!それじゃあ、今日はもう寝ますね。おやすみなさい!}

 それからは返事はしなかった。しつこいと思われたら困る。・・・いやぁ、ほんとに楽しみだなぁ。人生初のデートだ。あ、洋服とかどうしよう。いままでこんなことなかったから、テキトーに選んでたしなぁ・・・

 クローゼットを見ても、シンプルな黒地のシャツや、見るからにして地味なものしかない。

 「明日、仕事終わりに買いに行こうかな。」

 今日は明日の買い物のために、僕も寝ることにした。

                  ✽ ✽ ✽ ✽

 翌日。仕事上がりに、最近会社の近くにできた大型ショッピングモールへ洋服を求めてでかけた。仕事も少し早めに終わり、金ならタイミングよくボーナスが入ったので、ひとまず安心。モール内に入って、案内板をみる。男性服フロアは4階。エスカレーターを使って、4階まで行くことにした。

 時刻は5時を過ぎているのに、ここはとても混んでいた。カップルや、親子、友人同士らしき集団、学生・・・僕のように一人で来ている客は全く見当たらなかった。

 4階に到着して、辺りを見回す。服なんて、僕にはどれも同じにしか見えない。・・・どうしたものか。とりあえず、品揃えの良さそうな大きめの店に入った。

 「いらっしゃいませぇ~」

 と、地味に高いテンションで女性店員が挨拶してくれた。これがいわゆる、営業スマイルというやつだろう。軽く会釈して、服が並んでいるところへ向かった。・・・しかし、僕にはやはりすべて同じにしか見えない。ぐるぐる店内を回っていると、男性店員が笑顔で近づいてきた。

 「どんなものをお探しですか?」

 突然声をかけられたので、つい「あっ」とマヌケな声を出してしまった。

 「お困りのように見えましたので・・・」

 「は、はい。えと、明日出かける用の服を探しているのですが、いままでオシャレに縁がなかったもので・・・」

 「そうなんですか。もしかして、女性の方とデートでも?」

 「な、なんでわかったんですか!?・・・お恥ずかしながら、その通りで・・」

 顔が熱い。的中だった。超能力者なのだろうか。この人。

 「おぉ、当たってました?よろしければ、お相手の女性の性格など、簡単でいいので教えていただけますか?そのほうが服を選びやすくなりますので。」

 と言われたので、僕は軽めに清美のことを紹介した。どんな性格かによって、好みの色などがあるらしい。僕は店員さんに服選びを任せることにした。

                  ✽ ✽ ✽ ✽

 「ありがとうございましたぁ~」

 やっぱりテンション高いなぁ。僕は会釈をして、店を後にした。・・・結構高かったな。

 店員さんが選んでくれた服は、僕でも似合うような、シンプルかつオシャレな服だった。合計3着。金額は1万5千円。赤地のチェック柄の長めのシャツ、黒地に少し派手なマークがあしらわれたもの、白地でさわやかな感じのもの。店員さんは、「その日の気分に合わせて、着るものを選ぶといいですよ。」など、いろいろアドバイスしてくれた。これで準備万端だ。いつの間にか、明日のデートへ対してのの緊張は消えていた。

 ・・・よし、明日は歌いまくるぞ。・・・なんか眠いな。今日はもう帰って寝よう。時計を見ると、時刻はもう7時をまわっていた。今日の夕飯は、ジャンクフードで済ますことにした。

 自分でも驚くほど、その日は早く眠りについた。あえてその日は、清美にメールはしなかった。

                  ✽ ✽ ✽ ✽


      第2部へ続く

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