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プロローグ~第1話『1000年の目覚め!』

作家《さっか》

「敵一族《てきいちぞく》はガッデムなので、主人公《しゅじんこう》はファック一族《いちぞく》にしようと思《おも》いますが、面白《おもしろ》いでしょうか?」


――ここはとあるファミレス。


そこで10話《わ》打《う》ち切《き》り常連《じょうれん》の作家《さっか》が担当《たんとう》と次回連載《じかいれんさい》の構想《こうそう》を話《はな》しあっていた。


その中《なか》の一幕《ひとまく》で発《はっ》された先《さき》ほどの言葉《ことば》に、担当《たんとう》は困惑《こんわく》する。


担当《たんとう》

「え…どういう話《はなし》なんですか?ギャグマンガですか?だとしてもちょっと…」


作家《さっか》

「普通《ふつう》の冒険活劇《ぼうけんかつげき》です」


担当《たんとう》

「何《なに》を言《い》ってるんですか…?」


担当《たんとう》が頭《あたま》を抱《かか》える。


この作家《さっか》はいつもこうだ。

センスはあるのかもしれないが、そのセンスがいつも明後日《あさって》の方向《ほうこう》に逆噴射《ぎゃくふんしゃ》してしまっているのだ。


担当《たんとう》

「先生《せんせい》、それじゃ敵《てき》との対峙《たいじ》シーンが罵倒合戦《ばとうがっせん》になってしまいます。ついに来《き》たかファック、いくぞガッデム、みたいな。中学生《ちゅうがくせい》じゃないんですから。

それに血筋《ちすじ》を打《う》ち明《あ》けるシーンも、母《はは》が『あなたもファックの血《ち》が目覚《めざ》めたのね』とかヒロインが『あなたを愛《あい》しているの…ファック!』とか作品《さくひん》がめちゃめちゃになってしまいます」


作家《さっか》

「でも面白《おもしろ》くないですか?」


担当《たんとう》

「なんでそこで食《く》い下《さ》がるんですか。いやまあそりゃ面白《おもしろ》いですけど…漫画《まんが》の面白《おもしろ》さとは別《べつ》の面白《おもしろ》さですよ、それ。例《たと》えばファルクとかファークとかならいいと思《おも》うんですが」


作家《さっか》、うーん確《たし》かにファックはよくないか、と考《かんが》える。


そして…。


作家《さっか》

「じゃあ、ファック一族《いちぞく》じゃなくてシット一族《いちぞく》で」


担当《たんとう》

「いったん立《た》ち止《ど》まったのにまた沼《ぬま》に身《み》を投《な》げないでください。ガッデム対《たい》シットなんて、ただの機嫌《きげん》の悪《わる》い外国人《がいこくじん》の口喧嘩《くちげんか》じゃないですか」


作家《さっか》、またうーんと頭《あたま》を悩《なや》ませる。


担当《たんとう》も別《べつ》の意味《いみ》で頭《あたま》を悩《なや》ませる。

なんでこんなやつの担当《たんとう》になってしまったんだ、と。


そして作家《さっか》、ついに『あっ!』と閃《ひらめ》いて担当《たんとう》にアイデアを伝《つた》えた。


作家《さっか》

「敵《てき》はガッデム一族《いちぞく》で決《き》まりだから…イディオット!勇者《ゆうしゃ》イディオットはどうでしょうか?響《ひび》きはいいし、ファックやシットよりは直接的《ちょくせつてき》じゃないでしょ?」


idiot(イディオット)…バカ、アホ、愚《おろ》か者《もの》。


確《たし》かに響《ひび》きは神話性《しんわせい》をちょっとだけ感《かん》じるし、ファックやシットよりはマシかもしれない。


だが、あまりまともな単語《たんご》ではない。ひどい侮蔑《ぶべつ》でもある。

うっかり外国人《がいこくじん》に言《い》ってしまったら殴《なぐ》られても文句《もんく》が言《い》えない言葉《ことば》だ。


なぜ罵倒語《ばとうご》から離《はな》れられないんだこの人《ひと》は、と思《おも》いつつ――。


担当《たんとう》はもう好《す》きにしてくださいと匙《さじ》を投《な》げた。

どうせまた打《う》ち切《き》りなので、もうやりたいようにやってくれ…と。


作家《さっか》

「あとで設定《せってい》を送《おく》りますので!ご確認《かくにん》お願《ねが》いします!」


そう言《い》って作家《さっか》はファミレスから出《で》て行《い》った。

料金《りょうきん》も払《はら》わずに。


やれやれ、と呟《つぶや》きつつ担当《たんとう》は苦笑《くしょう》する。


そうは言《い》ってもこの作家《さっか》、変《へん》なところで妙《みょう》なセンスを発揮《はっき》するのだ。


もっともバットも持《も》ったこともない茶道部《さどうぶ》かなにかがホームランを打《う》つより可能性《かのうせい》は低《ひく》いのだが。


とりあえず打《う》ち切《き》りまでは生暖《なまあたた》かく見守《みまも》ってやるか…と担当《たんとう》は頭(あたま)をかく。

そして、ファミレスの料金《りょうきん》を払《はら》い、領収書《りょうしゅうしょ》をもらって出《で》て行《い》った。


――そういえば、敵一族《てきいちぞく》がガッデムなのは変《か》わらないんだな…と思《おも》いながら。


――――――――――――――――――


さて、担当《たんとう》あてに作家《さっか》から送《おく》られてきた設定《せってい》は…。


『主人公《しゅじんこう》:

勇者《ゆうしゃ》イディオット。本名未定《ほんみょうみてい》。誰《だれ》も彼《かれ》を本名《ほんみょう》で呼《よ》ばずイディオットと罵倒《ばとう》する。

本名《ほんみょう》は最終回《さいしゅうかい》で叫《さけ》ぶ予定《よてい》なので最終回《さいしゅうかい》までに決《き》める。

気《き》は弱《よわ》いが優《やさ》しく知識《ちしき》があり、うーん…まあ動《うご》かしてるうちに決《き》まるでしょ。


ヒロイン:

『光《ひかり》の聖王女《せいおうじょ》 プリンセス・アナスタシア・シュニクス99世《せい》』。

失《うしな》われた1000年前《ねんまえ》の魔法大国《まほうたいこく》『シュニクス』の最後《さいご》の王女《おうじょ》にて1000年間《ねんかん》眠《ねむ》り続《つづ》けた女性《じょせい》。美形《びけい》。

すでに現代《げんだい》では失《うしな》われた魔術《まじゅつ》、そしてその中《なか》でも最《もっと》も高貴《こうき》な光魔法《ひかりまほう》を操《あやつ》り強《つよ》く美《うつく》しく己《おのれ》というものをしっかり持《も》っており美《うつく》しく強《つよ》く(1000文字《もじ》ほど中略《ちゅうりゃく》)強《つよ》くて美《うつく》しい。


主人公《しゅじんこう》の仲間《なかま》たち:

武田《たけだ》:弱《よわ》い。便利屋《べんりや》。途中《とちゅう》で裏切《うらぎ》る。


関羽《かんう》:超強《ちょうつよ》い。義《ぎ》に篤《あつ》い。なぜかこの世界《せかい》に来《き》てしまい、一緒《いっしょ》に来《き》たはずの兄《あに》を探《さが》す。


張飛《ちょうひ》:超強《ちょうつよ》い。豪快《ごうかい》だが酒《さけ》を飲《の》んで失敗《しっぱい》することもしばしば。関羽《かんう》とともに兄《あに》を探《さが》す。


敵一族《てきいちぞく》:

ガッデム一族《いちぞく》。総帥《そうすい》は「ファック・ザ・ガッデム」。

四天王《してんのう》に

「バスタード・ガッデム」

「ダムイット・ガッデム」

「ブルシット・ガッデム」

「フール・ザ・ガッデム」

「シッシー・ザ・ガッデム」

「ウィークアス・ガッデム」

がいる。

フール・ザ・ガッデムは主人公《しゅじんこう》の父親《ちちおや》。そしてファックは武田《たけだ》の父親《ちちおや》』


――担当《たんとう》は頭《あたま》を抱《かか》える。


四天王《してんのう》が6人《にん》いることやヒロインの設定《せってい》だけで7ページある属性欲張《ぞくせいよくば》りセットなこともそうだが…。


なんだ武田《たけだ》と関羽《かんう》張飛《ちょうひ》って。異世界《いせかい》ファンタジー冒険活劇《ぼうけんかつげき》じゃないのかよ。


あと四天王《してんのう》6人全員《にんぜんいん》、いや総帥《そうすい》も主人公《しゅじんこう》も含《ふく》めてただの悪口英語辞典《わるぐちえいごじてん》じゃないか。

脈絡《みゃくらく》のない武田《たけだ》という名前《なまえ》がまだマシに思《おも》えてくる。


三国志《さんごくし》の二人《ふたり》は絶対《ぜったい》に三国志《さんごくし》の二人《ふたり》だし…。


しかもフール(ばか)の息子《むすこ》がイディオット(ばか)って…。


主人公《しゅじんこう》の名前《なまえ》は未定《みてい》だし、ヒロインとの愛情《あいじょう》の差《さ》がこれ以上《いじょう》ないほど出《で》ているし…。


素材《そざい》は王道《おうどう》なのに、盛《も》り付《つ》けが事故《じこ》りまくって悪魔合体《あくまがったい》しているじゃないか、と。


担当《たんとう》

「この人《ひと》、なんでこういうところだけ妙《みょう》にセンスがあるんだろう…。まあいいや、こりゃどうせまた打《う》ち切《き》りだ。もう好《す》きにさせてやろう」


そう担当《たんとう》が呟《つぶや》いたところ――作家《さっか》から第一話《だいいちわ》のプロットが届《とど》いた。


第《だい》1話《わ》:『1000年《ねん》の目覚《めざ》め!』

あらすじ:

さて、第《だい》1話《わ》にしていきなり武田《たけだ》が裏切《うらぎ》りました。

担当《たんとう》

「えっ」


自《みずか》らを『ガッデム武田《たけだ》』と名乗《なの》り主人公《しゅじんこう》の服《ふく》を奪《うば》い逃《に》げました。

担当《たんとう》

「えっえっえっ、なんで服《ふく》?どういうシチュエーション?というか武田《たけだ》、1話目《わめ》の頭《あたま》っからいきなり裏切《うらぎ》るの?3話《わ》も持《も》たないの?いやあとガッデム武田《たけだ》って。自分《じぶん》から悪口《わるぐち》の群《む》れの中《なか》にダイブしなくても」


パンツ一丁《いっちょう》の主人公《しゅじんこう》が困《こま》っていると、そこは偶然《ぐうぜん》失《うしな》われた魔法郷《まほうきょう》『シュニクス』の封印《ふういん》の地《ち》でした。

担当《たんとう》

「ええ!?偶然《ぐうぜん》で済《す》ませる規模《きぼ》じゃないでしょ…?なんで?なんでそんなところにパンツ一丁《いっちょう》で?」


なぜ主人公《しゅじんこう》と武田《たけだ》がここにきたのかはちょっと説明《せつめい》がないのでわかりません。

担当《たんとう》

「いや説明《せつめい》してよ!一番重要《いちばんじゅうよう》なところでしょ!?第《だい》1話《わ》にして裏切《うらぎ》って服《ふく》を盗《ぬす》んで逃《に》げるガッデム武田《たけだ》も大概《たいがい》だけどさ!」


そして主人公《しゅじんこう》が光《ひか》っている玉《たま》に触《ふ》れると目覚《めざ》めるアナスタシア。驚《おどろ》いている主人公《しゅじんこう》イディオットにアナスタシアは開口一発《かいこういっぱつ》

「いや、まずは服《ふく》を着《き》て」

と言《い》い放《はな》ちます。

担当《たんとう》

「…あっ、このヒロインだけは常識人《じょうしきじん》だ。さすが設定《せってい》7ページの女《おんな》。しかし理解《りかい》が速《はや》いな…というか1000年《ねん》眠《ねむ》って目覚《めざ》めた最初《さいしょ》の一言《ひとこと》がそれでいいの?」


第一話《だいいちわ》、終《お》わり。


担当《たんとう》、プロットを読《よ》んで一言《ひとこと》…。

「…まあ王道《おうどう》は詰《つ》まりまくっている。詰《つ》まってはいるけど…接着剤《せっちゃくざい》が米粒《こめつぶ》かなにかなのかな?次回《じかい》…どうするんだろ」

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