表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【新版】痛いのも苦労するのも嫌なので、お家で美味しいご飯を作って静かに暮らしたい(※ただしダンジョン最深部)  作者: 翠碧ノ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/110

幕間 第五夜(後編) いつか、一緒に、里へ

 その言葉に、ティルの瞳が、じわりと、揺れた。


「……こわく、ないかな。ぼく、また、"できそこない"って、いわれるかも」


「言われても、いいよ」


 私は、きっぱりと言った。


「だって、ティルは、私の、大事な家族だもん。里のみんなが、ティルの値打ちを、鱗の厚さで測るなら。……私が、ぜんぶ、ひっくり返してあげる。あたたかいごはん一杯で。私、そういうの、得意なの」


 ティルが、ぷっ、と笑った。……ようやく、いつもの、やわらかい顔に、戻っていた。


「……レン。つよい」


「でしょ?」



    ◇



 その夜、私は、お婆さんのシチューのことを、ティルに、たくさん聞いた。


 どんな味だったか。どんな匂いだったか。どんな、あたたかさだったか。……ティルは、たどたどしい言葉で、一生懸命、教えてくれた。私は、それを、一つひとつ、胸に刻んだ。


 ……いつか、里に行ったら。あのお墓の前で、私が、その味を、もう一度、作ってみよう。ティルのお婆さんが、遺してくれた、あたたかい味を。……この子が、「しあわせだよ」と、胸を張って報告できるように。


「ティル。……里に行ったら、いちばん最初に、お婆さんのお墓に、ごはんを、供えようね」


「……うん。……うん!」


 ティルは、何度も、頷いた。その頬に、ひとすじ、あたたかいものが、伝っていた。



    ◇



 次の日から、ティルは、少しずつ、里へ行く支度を、始めた。


 といっても、剣を研ぐわけでも、鎧を整えるわけでもない。……お土産の相談だ。里のみんなに、何を作って持っていこうか。厚い鱗の戦士たちにも。薄い鱗の、隅っこの子たちにも。ひと口食べたら、思わず、ほろりときてしまうような。そんな一皿を、二人で、あれこれ考えた。


 ヒノも、私たちの足もとで、ぐるる、と嬉しそうに、尻尾を揺らしていた。まるで、「僕も行くよ」と、言うみたいに。……この子がいれば、我が家の扉を通って、いつでも、行き来ができる。留守番なんて、いらない。みんなで、いっしょに。それが、私たちの旅の、いちばん大事な決まりだった。


「レン。……ぼく、がんばる。ちゃんと、いえるように。しあわせだよって」


 支度をしながら、ティルが、ぽつりと言った。その横顔は、こわがっていた昨日とは、もう、少し違っていた。……前を、向いていた。


「うん。……大丈夫。私も、ヒノも、ずっと、そばにいるから」



    ◇



 窓の外に、いつもの星空が、静かに、瞬いていた。


 ……一人の鍋から、始まった旅。ティルと出会い、ヒノと出会い。地の底に、あたたかい我が家が、できた。孤独だった食卓は、今、こんなにも、賑やかだ。


 でも、旅は、まだ終わらない。……次は、ティルの、いちばん古くて、いちばん痛い場所へ。あの子が「出来損ない」と呼ばれた、竜鱗族の里へ。あたたかいごはんを、届けに行く。


 鱗の厚さで、人を測る里。……上等だ。私は、そういう物差しを、ひっくり返すのが、いちばん得意なのだから。一杯のスープで、里ごと、まるっと。


 ティルの、里への、はじめの一歩。それは、私たちの、次の物語の、はじまりでもあった。


 ……さあ。あたたかいお鍋を、たくさん、持って。いってきます。ティルの、いちばん帰りたかった場所へ。

ティルの、いちばん帰りたくて、いちばんこわい場所へ。あたたかいごはんを届けに行く番です。幕間は、これでおしまい。

★第一章完結。次回からは、いよいよ第二章。竜鱗族の里を、まるごと餌付けする、あたたかい戦いが始まります。 次回もどうぞ、あたたかくお過ごしください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ