第三十七話 「境界接続」
銀色の光の中で。
音が消えていた。
白域固定塔も。
黒域深層も。
崩壊していく世界さえ遠い。
ただ。
俺とユナだけが存在していた。
身体の感覚が曖昧になる。
境界が薄い。
自分と世界の区別すら、
少しずつ消えていく。
「玲司」
ユナの声。
すぐ近く。
なのに。
どこか遠かった。
「怖い?」
正直な問いだった。
俺は少しだけ考える。
怖い。
当然だ。
世界の境界へ立っている。
人間じゃなくなるかもしれない。
全部消えるかもしれない。
それでも。
「一人じゃないからな」
ユナが少しだけ笑った。
涙を浮かべたまま。
銀色の光が脈動する。
その瞬間。
俺たちの周囲へ、
無数の光景が浮かび上がった。
◆
幼い頃のユナ。
白い研究室。
名前も与えられず、
零番核として管理される少女。
『人格形成は不要』
『固定媒体として最適化』
一人ぼっちだった。
◆
十四年前。
東京相位崩落事件。
黒域。
崩壊する都市。
倒れている少年。
俺。
そして。
白衣姿の榊一臣。
『回収しろ』
『黒域適合体へ転用する』
俺もまた、
道具だった。
◆
銀色の光が揺れる。
ユナが小さく言う。
「わたしたち、
最初から人間じゃなかったのかな」
「違う」
即答だった。
「そんなことない」
「でも……」
「人間かどうかなんて、
誰かを想えるかで決まる」
ユナが目を見開く。
その瞬間。
銀色の光が強くなる。
共鳴。
境界核が安定していく。
白域中枢が震えた。
『危険』
黒域中枢も脈動する。
『接続率上昇』
俺たちは今。
世界そのものへ繋がっている。
白と黒。
その両方の境界。
人類全体の感情。
全部が流れ込んでくる。
苦しい。
膨大すぎる。
でも。
ユナの手だけは離さなかった。
「玲司」
「ん?」
「名前、
嬉しかった」
涙を浮かべながら笑う。
「初めて、
わたしが“わたし”になれたから」
胸が締め付けられる。
その時。
世界全体へ、
白域中枢の声が響いた。
『境界核を危険指定』
巨大な白い“眼”が開く。
『排除を開始』
直後。
白い光が銀色の空間へ侵入した。
固定波。
世界規模。
空間そのものが白へ塗り潰されていく。
さらに。
黒域中枢も暴走する。
『解放領域拡大』
黒いノイズが境界を侵食する。
白。
黒。
両方が、
俺たちを消そうとしていた。
「っ……!」
ユナが苦しそうに膝をつく。
境界核が不安定化している。
このままじゃ持たない。
その時。
外部から声が響いた。
「玲司!!」
紗那。
銀色の光の外側。
崩壊寸前の塔内部で、
彼女がこちらへ手を伸ばしていた。
「戻ってきてください!!」
泣きそうな声だった。
「あなたたちまで消えたら……!」
その瞬間。
銀色の光がまた揺れる。
第三位相。
それは。
“誰かとの繋がり”によって、
強くなる位相だった。




