第二十五話 「境界解放戦線」
避難区が静まり返っていた。
緊急モニターに映る女。
赤い軍服。
銀色の瞳。
長い黒髪。
そして。
胸元に刻まれた黒い紋章。
永久機構のものではない。
見たことのない組織章だった。
『こちらは境界解放戦線』
女の声は落ち着いている。
だが。
どこか異様な熱があった。
『永久機構による人類統合計画に対し、
我々は武装抵抗を行っている』
避難区がざわつく。
「反政府組織……?」
「テロリストか?」
紗那の表情が険しくなる。
「最悪ですね」
「知ってるのか」
「噂レベルですが」
紗那はモニターを見る。
「永久機構内部でも存在を否定されていた組織です」
女が続ける。
『神代玲司。
君は既に理解したはずだ』
銀色の瞳がこちらを見る。
『白は人類を終わらせる』
白観測者が空で脈動する。
『だが黒もまた、
人類を救わない』
ユナが俺の服を掴む。
不安そうだった。
当然だ。
今度は新しい勢力が現れた。
『だから我々は第三の道を求める』
その言葉で、
紗那の顔色が変わる。
「……まさか」
「何だ」
「第三位相理論」
紗那が低く呟く。
「存在したんですか……」
モニターの女が微笑む。
『雨宮紗那観測官。
理解が早いな』
「監視されていた……?」
『当然だ。
君たちは既に世界の中心だからな』
嫌な言い方だった。
だが。
間違っていない。
白観測者。
黒観測者。
両方が俺たちへ反応している。
『神代玲司』
女の声が静かになる。
『君は白にも黒にも属していない』
侵食痕が脈動する。
『だからこそ、
均衡点になれる』
「均衡……」
『白は固定。
黒は崩壊』
女が続ける。
『第三位相とは、
“変化を許容したまま存在を維持する”理論だ』
紗那が目を見開く。
「不完全固定理論……」
「知ってるのか」
「永久機構初期研究に存在した仮説です」
だが。
紗那の表情は暗かった。
「実現不可能として破棄された」
『正確には、
榊一臣によって排除された』
空気が変わる。
榊。
やはり最初から関わっていた。
『彼は完全固定こそ人類進化だと信じている』
「実際そう言ってた」
『だから第三位相理論は邪魔だった』
女は静かに言う。
『なぜなら、
人間性を残してしまうからだ』
沈黙。
その言葉は重かった。
ユナが小さく呟く。
「……人間性」
『君はそれを既に証明した』
銀色の瞳がユナを見る。
『零番核。
君は神代玲司を黒化から引き戻した』
黒域が止まった瞬間。
あれは。
白でも黒でもなかった。
『感情による相位安定』
女が笑う。
『理論上不可能だった奇跡だ』
その瞬間。
避難区外周で爆音が響いた。
全員が振り返る。
空が赤く染まっている。
紗那が端末を見る。
「……嘘」
「何だ」
「東京湾沿岸部全域で黒域侵食発生」
避難区が凍りつく。
「侵食速度上昇……!」
白観測者が脈動する。
黒観測者も反応している。
『始まったか』
モニターの女が静かに呟く。
「何がだ」
女は真っ直ぐこちらを見る。
『観測戦争第二段階だ』




