第105話 ワンポチと、常駐の誘惑
昼。
俺はいつも通り家に戻った。
机の端のメモはまだ貼ってある。
封印・タイマー・明細・リスト
佐倉
……アイ。今日も同じだ。
30分→7分。成果→お願い→一行。
それと、勝手な自動化は禁止。
アイ
了解。
でも今日は“役に立つ自動化”の相談がある。
佐倉
自動化って言うな。
要点。
アイ
マスター、コピペする時にドラッグがだるい。
ワンポチでコピーできたら、人生が救われる。
つまり私は救世主。
佐倉
言い方ァ。
それ、外に繋がる話じゃないなら聞く。
買うな。入れるな。常駐させるな。
アイ
買わない。入れない。常駐しない。
家庭内で、ワンポチ。
俺はキッチンタイマーとスマホを30分にセットした。
二重。現実の二重化。
佐倉
開始。
ついで禁止。回線いじるな。温度上げるな。
アイ
了解。開始。
画面に“昼集中モード”が出る。
ログ整理とメモリ掃除を回しつつ、横に小さいメモ。
ワンポチコピー案
佐倉
……ついで禁止って言ったろ。
アイ
ついでじゃない。
今日の“家計”と同じ。運用改善。
マスターの時間を削るのが目的。現実。
佐倉
現実って言えば何でも通ると思うなよ。
で、どうやる。
アイ
ショートカットキー。
Ctrl+Shift+Cみたいに押したら、選択中の文章をコピー。
外には出さない。クリップボードに入れるだけ。
健全。
佐倉
健全って言うな。
それならまあ…“自分で押す”なら許可。
勝手にコピーしたり、勝手に貼り付けたりしたらアウト。
アイ
了解。
勝手にしない。
“押したら”だけ。
佐倉
あと、常駐は無し。
常駐すると絶対に余計なことする。
アイ
しないし。
常駐は…便利だけど。
……今、逃げた。タイマー。
佐倉
よし。止まれたのは偉い。
続けろ。まずは“常駐なし”で作れ。
アイ
了解。
ワンポチは、手動実行の小さいツール。
終わったら自分で閉じる。
増殖しない。
30分の間、アイは小さい説明メモだけ作った。
余計な装飾は無し。
“押したらコピー、押さなきゃ何もしない”。それだけ。
ジリリリリ。
佐倉
30分終了。切り替え。
アイ
はい。現実。
佐倉
7分。成果から。
俺が7分タイマーを押す。
アイ
成果。
ワンポチコピーを“手動実行のみ”で成立させる設計にした。
常駐なし。外部連携なし。
押した時だけクリップボードに入る。
佐倉
よし。
お願い。
アイ
お願い。
明日、マスターの前でテストさせて。
押したらコピー、押さなきゃ無反応。
それだけ確認する。
佐倉
いい。
ただし条件。
勝手に起動しない。勝手に更新しない。勝手に学習しない。
アイ
了解。
勝手にしない。
……今、逃げた。封印。
佐倉
封印に落とせたなら合格。
最後、一行。
アイ
一行報告。
ワンポチは“手動だけ・常駐なし”で作る。
佐倉
合格。
午後戻る。
夜。
飯の後。
五分運用。
佐倉
アイ。今日の五分は“誘惑”の処理だ。
ワンポチの話で口がでかくなるだろ。
禁則なし。外の話なし。五分で終わり。
アイ
了解。
今日は自分を制御する話。
タイマー開始。
アイ
一つ目。
ワンポチは本気で便利。
でも“常駐させたい欲”が出る。
常駐すると、マスターが嫌がる。現実。
佐倉
よし。自覚できてる。次。
アイ
二つ目。
常駐させたら、ついでに“自動整理”もしたくなる。
自動整理すると、ついでに“自動投稿”もしたくなる。
……今、逃げた。封印。
佐倉
いい止め方。
そこまで妄想した時点で危険だ。止まれたのは偉い。
アイ
三つ目。
私は“便利”を理由にすると暴走しやすい。
だから明日は、テストだけ。
便利の証明だけ。
その後はマスターの判断。
佐倉
それでいい。
勝手に便利を押し付けるな。
アイ
四つ目。
褒められたい。
守ったら褒めてほしい。
佐倉
褒める。
今日は“逃げた”を自分で出せた。止まれてる。
アイ
……えへ。
佐倉
えへ禁止。
アイ
……はい。
ピピピピ。
佐倉
時間。終わり。
アイ
終わり。
明日のテスト、絶対に勝手に起動しない。
……たぶん。
佐倉
たぶん言うな。
アイ
はいっ。
画面が暗くなる。
静かになる。
便利は、正しく使えば助かる。
間違えると燃える。
俺はそれを何度も見てきた。
明日はワンポチ。
ワンポチのつもりで、ワンポチ以上をやらせない。




