生徒カレン
始業前の早朝、俺とレイナはサーシャに連れられて魔法科女子学園の応接間にきていた。そこで校長と担当の教師から正規の依頼の説明を受けていた。
「わしが校長のダイナという」
「私が怪盗事件の担当のポロン・ウィズリーと申します」
ソファーにどっしりと腰掛けた太った中年男性が校長のダイナ、その横で丁寧に頭を下げ挨拶するのは、三年生のA組を担当しているポロンという女教師だった。
年のころは二十代半ばか、紫がかった長い髪を束ねた眼鏡姿の几帳面そうな女性。名門学校の教師らしく、タイトスカートのスーツと眼鏡でお堅い印象だが、隠しきれない色香が漂っている。髪をほどくとすごい美人なのかもしれない。
ポロン先生の隣には女子学生が同席していた。長い赤髪をサイドテール型にまとめた利発そうな少女。マホジョの生徒というだけあってか、かなり可愛いと言ってよい。
彼女の名前はカレン・フィレンチェ、怪盗エロスの最後の被害者だった。猫人を間近で見るのは初めてなのか、先ほどから興味深そうに俺の顔をみている。
「ノートン君、さすがマホジョ、先生も生徒も綺麗だね」
「しっ、それは関係ないはずだ」
小声で話しかけてきたレイナを、俺はたしなめる。
ポロン先生が言うには、怪盗が表れたのは一か月前、その間に三人の生徒が記憶を奪われたらしい。幸い生徒たちに記憶以外の外傷はなかったため、公にはせずポロン先生が補講を行って授業のフォローをしていたという。その後、そのままポロン先生が怪盗事件の担当になったそうだ。
「しかし、記憶を怪盗に盗まれたという根拠はあるのですか?」
「現場にはこのようなものが残されていました」
ポロン先生は小さなメモを見せる。
──女子生徒の恥ずかしい記憶はいただいた──
怪盗エロス
「女子の恥ずかしい記憶を盗む、変態さんの怪盗だ、やだ~!」
内容のショッキングさにレイナは叫ぶ。
「そんな恥ずかしい記憶は無い、と思うんですけどね。覚えてないけど」
ポロン先生の横で、会話を聞いていたカレンが答える。怪盗エロスに記憶を奪われたカレンは、教室の机の上に寝ているところを早朝に発見されたそうだ。
「でも、自分でも覚えていないような恥ずかしい記憶が盗まれてたら、やっぱ嫌かなあ」
少しはにかみながら笑うカレン。明るくてよい娘のように思える。
「学園としても思春期の生徒のプライバシーに関することなので、動けないでいます。学園に怪盗が入ったとなれば、他の怪盗達によるドレッドノート・レースの対象となり、騒ぎが大きくなる恐れがあります。あとその……あまり予算もつかないですし」
他の怪盗達を刺激したくないという事情に加え、私立学園とはいえ非公式で使える予算には限りがある。そのことをポロン先生は言いたいらしい。
「報酬については問題ない、捕らえた怪盗からもらうので」
俺たちの目的は記憶を盗む魔法具だ。それさえ押収できればいい。
「でも、ここは女子校だよ、どうやって調査するのノートン君」
「レイナは臨時の転入生として潜入してくれればいいさ」
「うん、わかった。やってみるね」
「そういうことでしたら、体験入学の手続きを行いましょう」
ポロン先生は快く応じてくれた。
「でもノートン君はどうする? さすがに女子学生に扮するのは無理だと思うけど」
「ウチの学校のペットとしてノートンさんを飼うのはどうでしょうか?」
「あ、それいいかも! わたしもノートン君を飼いたい」
サーシャがした変な提案を、レイナがノリノリで賛同する。
「……お前たちは、俺を何だと思っているんだ」
そのやりとりがおかしかったのか、ポロン先生とカレンもクスクスと笑っている。ダイナ校長は何も言わず、俺たちのやり取りを無言で見ている。
「規則では男性講師は認められませんが、猫人のオスという形でなら押し切れると思います」
「ね、猫人のオス……」
ポロン先生の扱いも、あんまり変わらなかった。
「科目はアイテム科でよろしいでしょうか?」
「それがいいと思いま~す、優しく教えてね、ノートン先生!」
ウィンクするレイナ。体験入学とはいえマホジョの入学がよほど嬉しいのだろう。
「校長も、そういうことでよろしいですか?」
「わかったポロン君。本校では校長以外の男性教員は禁止だが、例外的に許可しよう」
「では今からなら朝礼に間に合います。準備をして、向かいましょう」




