イマジンドレス
「狭いよ~」
後ろからレイナの悲鳴のような声がする。俺達は伯爵の屋敷内の、通気口の中を進んでいた。確かにかなり狭く、人一人通るのがやっとだった。
「ノートン君は、男の子なのによくこんなとこ通れるね」
「まあ猫人は、体が柔らかいからな」
「わたしも体は柔らかいほうだけど、こんなとこを進むなんて……」
見取り図の通り、小柄な人間がギリギリ通れるサイズだった。だからこそ、秘密裏に侵入するにはうってつけのルートだった。
「どうしてもというなら、この酒を使うといい」
「何それ?」
「飲めば体が柔らかくなるスライム酒だ」
「そんなものがあるんだ……ってスライム酒って、まさか?」
「バッカスの杯で、魔獣スライムを原料にしたお酒だ」
どうしても通路が狭くて通過できなかった場合に備えて、昨晩のうちに作っておいたのだった。
「魔獣のお酒なんてやだ~」
「じゃあ頑張ってくれ。もう少しのはずだ」
「それにしても随分とあちこち巡るんだね」
「まあ、いい仕事には入念な下準備が必要だからな」
通気口を通って移動して、盗みに必要なアイテムを屋敷中に設置していたのだった。とはいえそれも終わった。後は伯爵が秘密にしている地下保管庫に向かうだけだ。
「よしついた」
「やっと広いとこにでた。ってここは倉庫なの?」
目の前には施錠された両開きの重厚な扉がある。レイナの言う通りこの先は保管庫だった。
「やはり魔法具の施錠か」
簡単には侵入させてくれないらしいが、想定内だ。俺はジャケットから道具を取り出す。
「その針金は何なの?」
「魔法で自在に形を変える針金だ。十分くらいで開錠するので、待っていてくれ」
「じゃあ、わたしが開けようか?」
レイナが思わぬ提案をしてくる。だがよく考えれば、レイナだって怪盗だ。魔法の錠を開錠する手段くらい持っているはずだった。
「では頼む」
速やかに開錠できるならそれに越したことはない。怪盗にとって最大の敵は時間なのだから。
「うん。ちょっと離れててね。イマジンドレス、お願い」
レイナは二歩ほど距離をとると、足を大きく開いて構えをとる。
『がはは、へんし~ん!!』
レイナのミニスカートが粒子となって四散し、キャロットスカートタイプに再構成される。
「チェストオオオオォォォ!!」
妙な掛け声と共に足を高くあげて。猛烈なかかと落としを錠に喰らわせた。
「魔法具の錠を、壊した!?」
信じられない光景。普通、魔力を込められてつくられた錠は、そう簡単には壊れないはずだ。
「その姿は?」
「戦闘用の形態だよ。攻撃力が大幅にアップする効果があって、たいていの魔法具は壊せるの」
「あの格闘技は?」
「〝ローラント早乙女流〟っていう護身術だよ。王家の女子はみんな習うんだ~」
「これが護身術だと!?」
粉々になった魔法具を見ながら、俺は嘆息する。なるほど、これだけ強力な魔法具を持っていれば、単独でも怪盗エルフとして活躍できたはずだ。
「いつもこういう形で防御を突破しているのか……」
『どちらかというと〝怪盗〟というより〝強盗〟という感じですね。ご主人』
見かねたイエローストーンが小声でつぶやき、俺も小さくうなずく。まさか怪盗エルフがこんなパワータイプだったとは。
「とりあえず、宝物庫に入ろう」
「うん、楽しみ」




