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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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怪盗キャット

  数時間後、俺はレイナと共に、王都の地下通路を駆けていた。

 猫人である俺は脚力には自信があった。だがそんな俺にレイナは汗ひとつかかず、ついてきている。俺は猫人特有の忍び足だったが、彼女も足音はほとんど立てていない。さすがは怪盗だった。

「すごいな、俺の脚についてくるなんて」

「運動は得意だし、ドレスの効果もあるからね」

『そうそう、オイラのおかげ、がははは』

 なるほど、あのイマジンドレスの運動能力アップの効果は相当なものらしい。呪いはともかく、よい魔法具を持っている。

「もうすぐ伯爵邸の真下だ」

「すごい。でも、どうしてそんなこと知っているの?」

 王都の地下は上下水道や私設の地下通路、さらに古代の地下通路などが張り巡らされ、一種の迷宮となっており、王国政府ですらその全容を把握していないと言われている。

「ディーク伯爵邸の見取り図を手に入れたからな、秘密の地下通路まで迷わず行けるはずだ」

「伯爵邸の見取り図!?」

 レイナは、びっくりして声をあげた。

 彼女が驚くのも無理はない。何せ伯爵邸の内部構造から通気口や排水溝、更に地下通路の出入り口まで詳細に書かれた見取り図を持っていたからだ。

「そんなものを、どうやって手に入れたの?」

「まずサキュバスの髪をバッカスの杯にいれて、魅惑の美酒を作った」

「バッカスの杯……昨日の杯ね」

 よかった。サキュパスの髪の方はスルーしてくれたらしい。こちらは大人向けの商品なので、詳しく聞かれると説明が面倒だった。 

「続いてとある人に頼んで、魅惑の美酒で設計士を誘惑し、買収した」

「へ~でも、その設計士さんは大丈夫なの? 伯爵にひどい目にあわされたりしない?」

「今頃、金塊と共に王都を出ているだろう」

 ディーク伯爵は既に人望を失っていたのか、誘惑された設計士の買収は拍子抜けするほど簡単だった。もし設計士が忠義の心を見せた場合、さらに浮気者のニーソックスをはかせて忠誠心を下げるつもりだったが、そこまでは必要なかった。

「でも、その金塊はどうしたの? ノートン君が支払ってくれたの? わたしお金ないよ?」

『そうそう、レイナ嬢ちゃんは貧乏、ガハハ』

「それはバッカスの杯を、売った代金をあてたんだ」

 昨晩は徹夜で盗みに必要な魔法の酒をバッカスの杯で醸造し、資金を確保するため杯自体は後に売り払った。バッカスの杯を譲ってもらったのは、そういう理由だった。

「たった一日で!? すごい」

 設計士は元から知っている人物だったので、ことは素早く進んだ。

「でも、設計士って男の人でしょう? 誘惑してくれたのって女の人? ノートン君、そんな人いたんだ」

 レイナはなぜかジト目で見つめてくる。

「……報酬と引き換えに、とある女性に頼んだ。信頼できる人だから、大丈夫だ」

「ふ~ん、綺麗な人?」

「まあ、美人だとは思う」

 お金で酒場の踊り子にでも依頼しようかと思っていたら、なぜかララさんが「面白そう、私にやらせて~」とノリノリで志願してきたのだった。ばっちりとメイクをし、胸元がはだけたセクシーなドレスを着たララさんの魅力は凄まじく、設計士はすぐ魅了されてしまっていた。

 あの胸は揺れるグレープフルーツみたいだったな。

 ついそんなことを思い出してしまう。ちなみにララさんへの報酬は、伯爵が持っている美容系の魔法具を横流しすることだった。

「レイナ、至高の宝を盗めたら君のものだ。その代わりに、それ以外の魔法具は俺がもらう」

「うん、もちろんそれでいいよ」

「ところでどうしてディーク伯爵が至高の宝を持っていると思ったんだ?」

「最近強力な魔法具を手に入れたらしいんだけど、それが〝賢者の石〟かもしれないんだ」

「賢者の石か。それならドレッドノートが隠したという至高の宝にふさわしいな」

 かつて天にとどいたという大賢者が錬成した〝賢者の石〟。それは呪いなしに所有者に無限の魔力を与え、天位魔法の礎として使われたという伝説のアイテムだった。

「なるほど。情報の出どころは?」

「内大臣が側近に話していたんだよ。力をつけた伯爵が、反乱を企てているのではないかって」

 情報源が少しだけ気になった。あえてレイナに聞こえるようにリークしたのではないかと思ったが、考えても仕方ない。

 そうこうしているうちに、目的の場所についた。

 大昔の地下通路に横穴を掘って接続した緊急用の搬入路。わからないように偽装されているが、ここから先は地下とはいえ貴族の私有地だ。侵入したらそれだけで犯罪として処罰される。

「ノートン君、本当に、わたしの仲間になってくれるんだね」

 改めてレイナはそんなことを確認してくる。

「ああ、もちろんだ」

「えへへ、よろしくね」

 即座に快く返した俺の答えに、レイナは白い歯を見せて返してくれる。花が咲いたような笑顔だった。

「イエローストーンもいいな?」

『ええ、ここまで来た以上、いっそ王国一の大怪盗を目指してくださいまし』

『ガハハ、レッツ貧乏だぜ~』

 レイナはいつものエルフ化のイヤリングをはめ、耳をエルフ型に変化させる。

「ノートン君は変装はどうするの?」

「これを使う」

 俺は懐からリボンを取り出して、説明する。

「これは〝贋作のリボン〟と言って、本物を偽物だと認識させる効果があるリボンだ」

「本物を偽物に? 変なの」

「本来は偽物を本物に偽装するために作られた〝真作のリボン〟だったが、劣化して逆の効果を持つようになったんだ。人間にはめると、その人物を他人であると認識させる効果がある」

 もちろん一流の鑑定士になら見破られるだろうが、初めて見る人物に対しては、それなりの隠蔽効果があるはずだ。

「つまりはノートン君に似た人ってみんなが思うってことね。じゃあ、つけてあげるね」

 そういうとレイナは嬉しそうに俺の首に、ネクタイのようにリボンを結ぶ。少しだけだが、新婚さんみたいだと思ってしまった。

「あと仕事中は何て呼べばいいかな?」

 いわゆる怪盗時のコードネームか。そういえば考えてなかった。

「名前でなければ何でもいいさ」

「ちゃんとつけないと、わたしの〝怪盗エルフ〟みたいな、見たまんまの名前になっちゃうよ?」

「ならレイナがつけてくれればいい」

「うん、わたしがつけてあげるね。どーしよっかなぁ」 

 レイナは腕組して考え込み、

「じゃあ〝怪盗キャット〟にしよう。かわいいし」

 そのまんまの名をくれた。

「……では、怪盗としての初仕事を始めるとするか」

「何でも聞いてね、後輩君」

 先輩っぽくウィンクするレイナと共に、覚悟を決めた俺は伯爵の敷地内に足を踏み入れた。


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