意思を持つドレス
「そ、その耳、かわいいな」
『なんで魔法具でエルフ耳になっている耳を褒めるんですか! ひょっとしてご主人はエルフ耳フェチ? なんてマニアックな』
焦って変なとこを褒めた俺に、イエローストーンは小声でつっこんでくる。
「そう? ありがと。エルフ耳もかわいいでしょ?」
「ああ、かわいいと思う」
俺の言葉に、レイナは「えへへ」と白い歯を見せて嬉しそうな表情をした。
「とりあえず座ってくれ。コーヒーと、軽食を用意してある」
「ホント!? うれしい」
俺は用意しておいたチーズとトマトとソーセージを乗せたパンを、魔法具のかまどで温め直すと、干し野菜のスープとコーヒーと一緒にテーブルに出した。
「ノートン君、これすごくおいしい」
やはりレイナはおいしそうに食べる。昨日と同様に、腹ペコのようだ。
「王室の食事では足らないのか?」
「うん。公務での会食以外は簡単な食事しかでないし、夜は公務がないしね」
なるほど、姫とは言え境遇は悪いようだ。
「まあ、わたしは結構食べる方だし」
少し恥ずかしそうに言う。そういえばレイナは華奢な体のわりによく食べていた気がする。
「しかし、街で買い食いくらいはできるだろう?」
「だって、お金ないし」
「えっ!? どういうことだ? 王族で、しかも怪盗なのに」
「え~とね、わたしはこの魔法具の呪いのせいでお金をもてないの」
レイナは自身のワンピースを指さす。ワンピースからは僅かに魔力が洩れている。
「レイナのその服も、魔法具だったのか!」
「うん、イマジンドレスといって、持ち主の魔力によって形と能力が変わるんだ」
よほどお気に入りなのだろうか、レイナは嬉しそうにミニスカートのすそをつまみながら見せてくれる。
「どんな効果があるんだ?」
「今はスタンダードな形態で、隠密性と機動力が上がるんだ。戦闘時は、別の形態になるよ」
「なるほど、さすがは王家、すごいアイテムだな。少し生地を触ってもいいか?」
「いいけど、異性が無理に脱がせようとすると、その人が〝塩の柱〟になる呪いがかかっているから、気をつけてね」
なんて恐ろしい呪いだ。さすがは王族、もちろん脱がそうだなんて思ってはいなかったが。
『ガハハ、猫人の兄さん、アンタはビンボーが好きかい?』
「うわ、しゃべった!」
驚くべきことに、このドレスも人語を発する魔法具だった。下卑た男の声で、しかも貧乏が好きかと妙なことを聞いてくる。
『レイナ嬢ちゃん金ないくせにいいもん食ってるな~、無銭飲食か?』
「これはおごってもらったものだから、いいんだよ」
『施しか~、嬢ちゃん貧乏だもんな~』
「わたしが金欠なのは貴方のせいでしょう?」
仲がいいのか、レイナはドレスの魔法具につっこむ。必要な魔法具とはいえ、こんな下卑た声でしゃべる魔法のドレスを身につけていたのか。
「このドレスのせいで、お金を持てなかったのか」
「うん、すぐにどこかに落としちゃうの」
「ひょっとして、怪盗エルフが民衆に施しを行う義賊って言われているのは?」
「それはこの呪いのせいで、わたしが落としたお金を民衆たちが拾っているからだと思う」
なるほど、それで怪盗エルフは義賊ということになったのか。
「しかし貧乏か……」
「王族だからね、わたし個人はお金なくても問題ないしね」
『それにレイナ嬢ちゃんは、貧乏が大好きだからな』
「別に好きなわけじゃないよ」
『猫人の兄ちゃんよろしくな、アンタは貧乏が好きかい?』
「……俺は商売人だから、貧乏は天敵、嫌いだな」
『がはは、嫌われちゃった~』
『貧乏の呪いで、お店を潰さないでくださいましね』
見かねたイエローストーンが忠告してくる。
『がはは、猫人の兄ちゃんも、しゃべる魔法具を持ってたんだ。よろしくな宝石ちゃん、がははは」
『こんな下品な魔法具と一緒だなんて、いやですわ』
貴重なしゃべる魔法具どうしが、まさか集うことになるとは、思ってもみなかった。
「ではレイナ、準備ができ次第出発しよう」




