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【怪盗ドレッドノートの秘宝と天にとどく魔法の姫】  作者: 蒼空 秋


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魔法具の鑑定

「これなんだけど、鑑定してくれない? ひょっとしたらこれが〝至高の宝〟かもしれないし」

 レイナは大切そうにバッグから小さな杯を取り出す。金と銀で装飾された杯は、確かに年代物の魔法具に見えた。俺は杯を手に取り、目を細めて鑑定する。

「これは、〝バッカスの杯〟と言われるものだ。液体を入れておくと極上の美酒ができる。その酔いはあらゆる悩みを忘れさせ、最高の気分にしてくれるという」

「ヘ~、おいしそう。わたしはまだお酒飲めないけど」

「それだけでなく、魔物の特性を含んだ酒を造ることができる」

「どんなお酒を造れるの?」

「例えばクイーンコブラの血を入れれば、おしっこが止まらなくなる効果がある酒を造れる。これは解毒用に医療機関が買い取ってくれる」

「え~」

「他にもサキュバスの髪を原料にすれば、魅惑の酒ができる。あるいはサラマンダーの血液を原料にすれば、アルコール度300%の火酒を造ることができる」

「そんな強いお酒飲めないよ! 天位魔法に関係する効果はないの?」

「これは神々の盃を再現しようと造られたものだ。神の酒を造り、その力で天にとどこうとしたが、これはよくできた贋作。そこまでの効果はない」

「そっか、残念」

『ちなみに、呪われていますね』

「ええ、そうなの?」

「呪いの効果は、飲むとしばらく手の震えが止まらなくなる呪いのようだ」

「それってアル中じゃない!? ヤダ~! 必死で盗み出したのに~」

 ショックを受けたのか、レイナはぐったりする。

「これは誰から盗み出したものだ?」

「うん。大商人ブランが持っていた秘宝なの」

 ブランは、ここ数年で急成長した裏社会の豪商だ。噂では極上の美酒を多く持つという。

「なるほど、ブランの力の源が、これだったか」

 この魔法具で作り出した酒の力で成り上がったのだろう。裏社会の商人らしい方法だった。

「しかしブランの屋敷に侵入するとは、さすがに危ないな」

 彼らは捕らえた泥棒を警察につきだしたりせず、そのまま処分してしまうことも多い。

「うん、気を付ける。次からはノートン君と一緒だから、安心だね」

「もう、次の盗みの候補があるのか」

「ディーク伯爵家のお屋敷だよ」

 なるほど。ディーク伯爵は王国でも指折りの有力貴族であり、珍しい魔法具に目がなく、多額で買いあさっているという。そのため伯爵領に重税を課すため、評判は極めて悪い。

「ノートン君は、ディーク伯爵のところに盗みに入ることについて、どう思う?」

「伯爵なら、確かに何か持っているかもな。それに悪名高い人物だから、彼から盗んでも怪盗エルフの評判は下がらない」

「でしょう? 怪盗エルフは義賊なんだよ~」

「しかし怪盗エルフって名前はどうにかならなかったのか? そのまんまじゃないか」

「わたしが決めたんじゃないよ~、エルフの変装をしてたら、そんな名前になっちゃったの」

 なるほど、そういうことだったか。

「エルフに変装する時に、この魔法具を使っているんだ」

 レイナはポケットから白いイヤリングを取り出すと、耳にはめる。

 魔力が輝くと同時に、レイナの耳がピュンと伸び、エルフのものになる。

「エルフ化の効果のあるイヤリングか、なんでそんなものを持っていたんだ?」

「お父様の寝室の引き出しに、たくさんあったからくすねてきたの」

「少し見せてくれるか?」

「はい、どうぞ」

『あ~、むかし流行したやつですね』

 イヤリングを覗き込む俺に対し、イエローストーンは俺にだけ聞こえる声でつぶやく。

「どういうことだ?」

『昔、貴族の殿方の間で〝えるふぷれい〟が流行った時に、エルフっぽく変身する魔法具が作られたんです」

「え、エルフプレイ!?」

 ということは、レイナの寝室の引き出しの中にあったのは、父親のコスプレ趣味か。女性につけて夜の生活を楽しんでいたのだろう。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない。お父さん、元気だな」

 レイナは「?」と怪訝な顔をしている。知らなかったとはいえ父親の夜の道具を身につけていたとは。知ったらショックだろうから、黙っておくことにする。

「とりあえず、まず伯爵が持っているというお宝を狙うか」

「うん、本当に手伝ってくれるんだね、ありがとうノートン君」

 とはいえ、相手はディーク伯爵。かなりの警備を突破しなければならない。

「レイナ、この〝バッカスの杯〟を預けてくれないか? 盗みの準備をするのに、必要なんだ」

「もちろんいいよ。盗品だけどね」

 このアイテムに未練はないのか、レイナはあっさり承諾する。

「準備時間が必要になるので、ディーク伯爵邸に忍び込むのは明日の夜にしようかと思う」

「うん。今夜はわたしもそろそろお城に帰らないといけないし」

「明日もでてこれそうか?」

「夜なら大丈夫。いつもの方法で出てくるよ」

「そうか。最後に一つ頼みがある。いまレイナに渡した〝浮気者のニーソックス〟の効果ついて、少し慣れておいてほしい」

「このニーソックスは、忠誠の魔法具の効果を打ち消す効果があるんじゃないの?」

「それは呪いの効果だ。そのニーソックスの本来の効果は、重力制御。少し試してみてくれ」

「わかった」

 そういうとレイナは意識を集中させる。ニーソックスから発せられた魔力が粒子となって、わずかにレイナの身体を包む。

「すごい! なんか体がふわふわする気がする」

「本来は重力制御魔法で、極めれば空も飛べるというが、これにはそこまでの効果はない。体がふわふわ浮くから、浮気者のニーソックスという名がついたんだ」

「あ、浮気ってそういう意味だったんだ」

「とりあえずこの魔法具を少しでいいから使えるようにしておいてほしい」

「わかった。練習しておくね」

『でも、王城の中でニーソックスを履いて生活できるのですか?』

 イエローストーンが危ぐする。そうか、姫ともなるとドレスも自分では選べないのか。

「それは問題ないと思う。肌着はわたしが自分で選べるし、足はロングドレスで隠れるからね」

 それなら何とかなりそうだ。

「あとギアスの効果が切れていることは内密にして、以前と同じように振る舞ってくれ」

「もちろん」

 レイナのギアスを解いたということは、内大臣への敵対する道を選択したということだ。改めて考えると我ながら大きな選択をしたものだと思う。とはいえレイナのためだ。もはや後には引けない。

「本当にありがとう、今夜、ノートン君に会えて本当に良かった」

 改めて礼を言うレイナの笑顔を見ていると、後悔する気は微塵もなかった。

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