▼ピンクの電話
ディオン夫人、エイベル様のご生母がいらっしゃった。
まだこちらには気付かれていない、と判断して2人で棚の影に隠れて適当な帽子を手に取って夫人が出ていくのを待つことにした。
せっかくの楽しい時間を興醒めさせる気など、私にもアレクシスにも無かったのだ。
チラチラと伺うが、何度見ても溶けるように儚いのに目を引く美人である。そこにきて、あのふわふわとしているのに絡まりを知らない長いピンクの巻き毛だ。五体満足で収まるべきところに目鼻がある自分に不満がある訳では無いが、同性として憧れるものがある。完全無欠のお姫様みたいだ。
確認するが、どうやら夫人は1人のようで、あとは会計のみ。帽子の入った箱を使用人が受け取っていた。
「アリシアちゃん、夫人の髪ってさ。ミッチェル様にそっくりだよね。」
だけど、ミッチェルは夫人の子供ではない。精霊の類いが、人間から生まれることはありえないのだ。
加えて、周囲からもミッチェルの存在は否定されている。
しかし、なんらかの繋がりが無ければ、同じ家に珍しいピンクの巻き毛が揃うだなどということは頓痴気がすぎる。
「エイベル様はピンクではなかったわね。」
遺伝のことはよく分からないけれど、と2人でコソコソと話している間に夫人は馬車の中に吸い込まれて行った。
「ともかく、今日はアレクシスの行きたい所へ行く日なのだから、探偵ごっこはお休みしましょ。」
「たんてい?」
ふむ?と悩む姿も絵になるアレクシスにフッと息が漏れる。頼れる弟はいつでも一生懸命だ。
「まずは私に一番似合う帽子を捜してちょうだい。探偵さん。」




