▼暇が殺すもの
地面に魔法陣を描き、花を添え、手紙を中央に置く。鳥の羽を数枚撒いて、詠唱すると手紙が小鳥の形になってチチッとこちらへ寄ってきた。
「ディオン邸のミッチェルのところまで行ってきて。」
お願いね、と言うと小さく鳴いて青空へ飛び立って行った。
私は魔力が多いからか、供物が少なくても魔法が発動するのがいいところだ。
魔法で飛ばした手紙には明日また伺う旨が書かれているが、読めなかった場合も考えて、再生機能も付けてみた。
ディオン家のミッチェルは恐らく魔法によって、なんらかの制約を受けている存在、人間ではない。
というのがここ数日調査検討した結果の結論だ。
そんなものに、幼子がひとりで対抗しようというのは間違っているだろうが、そもそも論、私は立ち向かおう等とは考えていないので問題ない。
本格的にイベントの無くなってしまった私は、15まで、狭い世界で生きるしかないのだが、逆をいえば、地雷の断罪イベントも無ければ死ぬことも恐らくない。
そこで、興味を持ったものに手を伸ばした。それだけなのだ。
最近酷い我儘も悪戯もしない淑女として過ごしてきたから、多少許されよう。
婚約者とも疎遠が確定し、攻略本に載る対象者も弟以外傍にはいない。そろそろ高笑いを響かせ、欲のままに下僕を侍らせても良い頃合のはずだ。弟以外。
お嬢様のお戯れだ。長く我慢していたから、うずうずする。興味のあるうちだけ構って危険になったら逃げてしまおう。
本の世界も楽しいが、最近は、本を読んでも生き延びる参考書にしか思えず、前はあんなに心躍らせたロマンス小説なぞ、すぐ死ぬ事になる悪役令嬢が出てくると冷や汗が止まらないのにとてもとても参考になるから読まずにはいられないという生き地獄を味わうことになってしまっているのだ。
るん、と鼻歌を唄いそうな面持ちで侍女に明日出かける旨と準備を申し付け、ディオン邸であるから誰にも言わないようにと固く申し付けた。
目立たないドレスに、駆けられるようにヒールではなくローシューズを用意しよう、髪は纏めてアップにして、帽子と少しお化粧もしよう。
…なんて隠し事の準備は楽しいのだろう!これだから謀はやめられない!
楽しい事は万全に迎えたいから、今日は早く寝ることにする。明日が待ちきれない。そんな気持ちでベッドに入る。
定石ではあるが、昼間の一連のそれを気配を消して聞いている誰かがいるので、私の企みはこの時点で達成されることはなくなっていたのである。




