▼魔法
この世界には魔法がある。
魔法陣を描き、捧げ物をして、魔力を流して、詠唱する。
日常に魔法が根付き、簡単な魔法なら使えない方が珍しいが、きちんと学ばないと暴走するため、無闇矢鱈に使うことは禁止されている。
魔法をなすには、基本的に体に流れる魔力を円滑に置換する為に様々な儀式を必要とするが、精霊や大魔法使いの中には詠唱すら必要としないものもいるらしい。
魔法陣への理解力と才能が大きいところだが、こと、大きな魔法を発動するには膨大な魔力を消費するわけで、こればかりは理解や頭の才能では補えない。
その魔力の量を顕著に表すのが瞳の色だ。
原色に近ければ近いほど魔力量が高く、逆に淡ければ淡いほど魔力は少ないと言われている。
言われている、だけで、例えば私は数代に一人と言われる父の黒を引き継いでいたから、まだ文字も覚束無い頃より魔法の英才教育を受けたけれど、パッとしないと自覚するところである。
魔力がうまく循環しないのか、理解力が及んでいないのかわからないが、火魔法よりオーブンの方が調子がわかるし、氷魔法より冷凍庫を使っての美味しいアイスクリームを作る方が得意だ。
瞳が私より淡いから大きな魔法は使えないはずだけれど、アレクシスの方がよっぽど魔法も得意なのではないだろうかとさえ思う。
太陽光を全く浴びてこなかったと言われても頷けるミッチェルは、髪も瞳も薄桃で、母親と思しきエイベル様のお母上そっくりの淡い色だった。
しかし、ミッチェルには、ゾッとするようなオーラがあった。魔法が発動している気配だ。
家に帰って、父にディオン家の弟の存在を遠回しに聞いてみたが、そんな話はないと言われてしまった。
ますますミッチェルの存在がわからなくなってくる。
「アリシアちゃん、時期が来ればこの婚約は白紙に戻して、もっと素敵な旦那様を探してきてあげるから、どうかもうディオンのことは気にしなくていいんだよ。」
難しい顔を続ける私の頭にポンと手を置いて、父が痛ましげに言葉をかけてきた。
全く違うことで頭を悩ませていた私は理解が追いつかずフリーズし、父は頭を撫ぜてきた。
「アリシアちゃんが遠くに行くのは嫌だから断ってきたけれど、皇室へ上るって手もあるし、他国へお嫁に行ってもいいんだ。寂しいから一年に一度は帰ってきて欲しいけれど。」
かいぐりかいぐり柔らかな髪をぐちゃぐちゃにしていく父に何も言えずにいると、どんどん話が進んでいく。
「アリシアちゃんは暑いのと寒いのどっちが好きかな?海と山と街だったら?砂漠というのもオツだよね。」
最後にギューッと抱きしめられたと思うと、膝に衝撃が来た。
「アリシアちゃんは、ずっとお家にいて、行かず後家になるんだよ!」
わーんと言いながら膝にすがりついてきたアレクシスの背中をどうどうと撫でておく。
「行かず後家…!いいね、アレクシス、とても良い。」
「ローラン家は僕が頑張るから、アリシアちゃんを僕にください。」
「よしわかった。」
謎の結託が結ばれているが、本当にアレクシスに嫁が来る時期が来れば外に出るし、ローラン家はアレクシスに任せるつもりである。
「あらあなた、でもそうすると、アリシアちゃんの花嫁姿が見られないわよ?」
とてもどうでもいいな、というツッコミは我が家には不在なので、心に留め、わいわいと歓談する家族を微笑ましく眺めながら、どうやってミッチェルに連絡を取るかを考える。いや、もう結論は出ているとも言える。
「なら、アリシアちゃんと僕で結婚式をしよう。」
それがいいわぁ!と盛り上がる家族にやはりツッコミは存在せず、私は前世で関西人では無かったはずだけれどな。と意識して考えを外に飛ばした。
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