20/66
▼おたんじょうび、おめでとう
婚約者にお会いする日、私は6歳になった。
朝から薔薇風呂に入れられ、この日のためのドレスを着て、薄く化粧もされた。
鏡というものがあまり鮮明ではないから、薄ぼんやりとして褒められるほどの実感はない。
お昼から婚約者さまとお会いし、夜には両親がよんだ人々と交流を兼ねた私の誕生日パーティーと婚約発表がある。盛りだくさんだ。
どこで我儘を発動しようというのか。待ったナシであるから、向こうが待ったをかけてくるの待ちである。
ハーフアップにされた髪を靡かせながら愛読書を持って最後の抵抗に噴水の側へ向かうと、アレクシスがいつもなら駆けてくる足を止めて驚愕の顔をしていた。
「てんし…」
どこかおかしいだろうか。あとで侍女に直して貰わなければ。アレクシスは見ることもできないというように目を閉じて顔を覆い首を左右に振った。これはおかしい。私に甘いアレクシスでさえこれである。早急に直してもらうべく、踵を返す。
と、後ろから、
「アリシアちゃん、おたんじょうび、おめでとう」
幾分か呂律が回るようになった弟より祝辞を賜って、さっきまでぐるぐると考えていたことも吹っ飛んだように自然と笑顔が溢れ、ありがとうと返すことが出来た。
そう、私はこの世界で6年生き延びたのだ。あと10年だって20年だって生き抜いて、幸せな小姑生活を送ってやる。




