▼おわりのはじまり
「あねさまっ!あねさまっ!」
こどもの鳴き声が頭にゴンゴン響く。
これは知っている。前世でよくやった、二日酔いってやつだ。
でも、今世ではまだ一滴もアルコールを口にしていないはずなのだけれど…
「いやだっ!あねさまっ!しなないれっ!やーっ!」
流石に二日酔いでは死なない。…たぶん。
死なないけど、辛いのは辛いからその高い声をしまってほしい。
「るしうす…おだまりなさい。」
ん?
私の声もたっかいな。
「あねさまぁっ!」
そう、そうだわ、ルシウス。私の幼馴染。同い年の私を姉様と呼び、後ろをくっついて来るしかない、NOと言えない下僕。
「もうやだよ、あねさまぁ…ぼくをおいていかないっていったじゃない。そばにいてくれるっていったじゃない。」
「いるじゃない…とにかく、でていって。」
熱が出ている。二日酔いじゃなかったか。記憶のリバウンドによる知恵熱ってとこか。5歳の脳味噌には辛かろう。
兎にも角にも、記憶を整理したい、気持ち悪い、しんどい。下僕に構っている場合じゃないのだ。
あねさまぁあああっ!!!という絶叫を残して、ルシウスは優秀なメイドによって叩き出されて行った。
簡単な説明によれば、倒れたあの日以来3日熱を出し寝込み、2度3度意識を取り戻しつつうつらうつらとして今、だそうで、途中指示したというあの時の本を枕元に置かせたらしい。
因みにその間ルシウスは枕元から張り付いて動かなかったらしいというどうでもいい情報をメイドは添えて言った。どうでもいい。
どうでも良くないのはこの本だ。
前世、令和の世を忙しくも生きていて、知らずにはいられなかった爆発的人気を誇った乙女ゲームのタイトルがそこに鎮座する、どうやら攻略本。
どうやら、というのは、私はゲームの類に明るくなかったからだ。ゲームをする上での答え?のようなものが書いてあるのだろうことは知っているが、なんでまた、わざわざゲームを買っておいてそんなものを使うのか理解に苦しむ程度には分かっていない。しかも、それが、当家の図書館にあり…分かりたくもないが、読まずとも自分がそのゲームの悪役キャラであることも理屈を通さず理解していることが分からない。
混乱の極みである。
読まずとも知っていることはまだある。
それは、
「このままいったら、わたし、しぬのよね?」
彼女、私に待ち受けるのは、最悪のバッドエンドしか残されていないのだということ。