十八章
「さて、幸一たちもあんまり長くは話さないだろうし、さっさと本題にはいろっか」
「えっと……」
「大丈夫だよ。別に緊張しなくても。とって食ったりしないから」
「あ、はい。それで私に話したいことって?」
手紙には話したいことがあるから屋上に来てねとだけ書いてあった。
「今日の戦闘で少し違和感があったから聞いておこうと思ってね」
「違和感ですか?」
椎名自身にはそんなものなかった。いつも通り全力で挑みそして負けた。そう思っている。
「そう、違和感。なんかね、能力を使うのを怖がっている気がした」
「そんなことありません。ちゃんと制御出来てるし、だんだん応用も出来るようになってきたし」
「ううん。私が言ってるのはもっと根本的なこと。あなたは能力を自分の力としてしか見てないでしょ?」
「違うんですか?」
能力はイフィムを倒すための力だ。そしてそれ以外の何物でもない。
もし能力をイフィム以外に振るえば、それは重罪になる。
「能力は確かに力かもしれないよ。でもね、それ以前に私たち自身なんだよ」
「自身?」
「椎名ちゃんはさ、私たちの能力がどこから来るか知ってる?」
「知りません」
知るはずがない。それはいまだに解明されていないことだからだ。それが分かれば能力者をもっと増やせるかもしれないし、能力の秘密が分かれば、普通の兵器でもイフィムに対抗できるような物が開発出来るかもしれない。
だからこそ能力の秘密の解明は最優先で行われてきたし、多くの能力者がその解明のために協力したと学校では言っていた。だが、それでも能力がどこから来ているのか、その秘密は明かされていない。
「私の考えなんだけどね、能力って心から来てるものだと思うの」
「心ですか?」
七瀬の答えはどこまでも抽象的なものだった。
「そう、心。だからその心が強ければ能力は強くなるし、弱ければ能力は弱くなる。能力の形が人それぞれなのも、心が誰ひとり同じものが無いから。私はそう考えてるんだ」
「非科学的すぎます」
「はは、面白いこと言うね。でも能力自体非科学的な物だよ。重力を無視して、質量を無視して、この世の全ての法則から外れた存在なのに」
それにねと七瀬は続ける。
「エクスガーディアンになれるのも心が関係してると思ってるんだ。椎名ちゃんはどう思う?」
「そんなの知りません」
「嘘」
椎名の答えを切り捨てる七瀬。
「だって、椎名ちゃん、もうパートナーがいるじゃん」
その言葉に椎名は目を見開いた。
「どうして……」
「エクスガーディアンはね、目を見れば相手がエクスガーディアンか分かるんだって幸一は言ってた。私は知らないけどね」
そう言って、七瀬はフェンスから対面にある校舎の屋上を見る。
そこでは、椎名たちと同じように永斗が幸一と対面している。
「多分、幸一はそのことについて聞きたかったんじゃないかな。まあ、こっちには関係ないことだけどね」
「……」
「今日戦って見て感じたのはね、椎名ちゃんが能力に怯えて、その存在を受け入れてないなって感じたの。だから違和感があったんだと思う。なにか昔能力絡みで怖いことでもあった?」
「……」
「沈黙は肯定。これも幸一の言葉だっけ」
七瀬がおかしそうにクスクスと笑う。
「私たちの能力は、私の考えだと心なの。だからそれを受け入れないと強くはなれない。能力の使い方を習って応用できるようになっても、その土台は小さいまま。だからいずれ限界が来る」
「……私の能力の限界はこれです」
「嘘。だって椎名ちゃんからは、すっごく強い力を感じるよ?」
その言葉にハッと顔を上げた。
「でも受け入れてないから少しずつしか出せてない。ちゃんと受け入れた方がいいよ。その影響はきっとエクスガーディアンに行っちゃうから」
「そんな……」
「私たちは契約することで契約者に能力の一部を分け与える。これ私の言った意味に直してみて」
能力とは心。そして自分自身。契約者には能力の一部を与えると言われている。ならば分け与えるのは心の一部。ならば自分が受け入れていない心がもし契約者に渡ってしまったら。
「わかった?」
小さくうなずくことしか、今の椎名には出来なかった。
分かってしまった。椎名が椎名のせいで永斗の能力を暴走させていることに。
「私は椎名ちゃんと永斗君がどんな問題を抱えているのか知らないけど、自分で解決できることがあるなら解決するべきだと思うよ。その上で一人じゃ出来ないことを助けてもらう。それがパートナーだと思うな。じゃあ、私は言いたいこと言っちゃったから行くね」
七瀬はバイバイと手を振って階段から降りて行く。それを見送ってから永斗のいる校舎を見つめた。
短い対面が終わり、幸一が階段を降りて行った。去り際幸一は、この後Aランクの依頼があるとのことで翌日にはこの町から出発すると言っていた。
反対の校舎の屋上を見れば、椎名たちの対面も終わったようで、椎名が永斗を見ているのがこちらからも見える。
それを確認して階段を降り、昇降口へ向かった。
だが、少し待ってみても椎名が来る様子が無い。確かにバラバラに帰ると言っていたが、終わったのならすぐにでも降りてくると永斗は予想していたのにだ。
「しょうが無いか」
仕方なく一人で寮へ戻った。
突然のことで誠に恐縮ですが、一時的にイフィムの更新を止めさせていただきます。
理由として、当初予定していたプロットから内容が大幅にずれたことがあります。
そのため、全面的にプロットを書きなおし、矛盾が出ないよう仕上げたいと考えています。
更新は中止しますが、いずれ完結はさせるつもりですので、長い目で見てくださると嬉しいです。