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文化祭編第二話 凍らせた過去

それからすぐに文化祭が開始して、僕は予想通りホタルにいろんなところに連れまわされた。食品系の人気なものや、縁日に脱出ゲーム、メインステージやサブステージで開催されているステージものにまで引っ張り出された。



現在、午後一時。無事に昼ご飯を食べ終わり、今はお化け屋敷に並んでいる。僕の体力はおよそ30%ほど。このお化け屋敷が終わったらすぐにでも充電したい。まあ、ホタルによって充電することは妨げられるんだけどな。



「ねえ、スイ。これが終わったら食堂に行って、チュロスとかポテトとか食べようよ。」

隣に立っているホタルは見ている限り体力は80%ほどだろう。こんなに廊下が暑いのに、よく笑顔でおにぎり食べてるからな。



「いいけど、食堂って涼しいよね?」

「涼しいはずだよ。でも、人が多くて座れないかもね~。」

なんて呑気な思考なのだろうか。文化祭中の食堂なんて混んでるに決まっている。なんでも、文化祭中の特別メニューがあるかららしいけど。



「座れないんだったら、意味がないんじゃ…」

一応確認をとってみよう。もしかしたら、まともな考えがあるかもしれない。

「え、だったら床に座ればいいじゃん。」



やっぱり駄目だった。みなさん、考えてみてよ。外部から来た人たちが涼しい食堂で優雅に過ごしています。その人たちが隣を見てみると、あらびっくり。床に在校生二人が座って、スナックを食べてるじゃありませんか。絶対来場者が引いちゃうでしょ。しかも一人は笑顔で元気にスナックを食べていて、もう一人は今にも死にそうな顔で食べているじゃありませんか。気まずい雰囲気が流れちゃうでしょ。



「次の人どうぞ。」

あっ、いけない。気づいたら、お化け屋敷に入ってたわ。エアコンの冷気がすうっと僕のそばを通る。それだけで、もう十分だよ。もう怖くって足ががっくがくだもん。ホタルも怖いのか僕にくっついて一緒に歩こうとする。

こうして、僕とホタルは一緒に懐中電灯を持って一歩ずつ歩いていくことになった。所々に怖い部分があったけど、なんとか出口までたどり着けそうだ。そんな時、突然大声が聞こえてきた。



「キャッ!やめて!とらないで!」

でも、その声は僕の隣から発せられたものではなく、1枚の壁を挟んで反対側の方から聞こえてきた。僕たちは、一体どうしたらいいのだろうかとその場で立ちすくんでしまった。何が起きているのか。どうすればいいのか。様々な憶測を立てていると、僕の横を誰かが走り去った感覚がした。その瞬間、僕の目の間にあったドアが開かれて、一斉に光が差し込んできた。



「うわっ、眩しい!」

ホタルも僕も思わず目をつぶった。それが、間違いだった。



それから、僕たちは主催者側に案内されて無事に教室から抜け出した。ほっとしたのもつかの間、お化け屋敷は一時中断するとのことだった。理由は、さっきの騒動でお化け屋敷をするうえで必要不可欠な懐中電灯が取られてしまったかららしい。待っていた人たちは、残念に思いながら退散していった。僕も、その流れにのって食堂に行こうとした。


しかし

「何スイ逃げようとしてるの?」

やはり、ホタルによって遮られてしまった。

「え、」

「こんなの、大スクープよ!文化祭中に人気な出し物のお化け屋敷内で突然盗難が発生したんでしょ。だったら、調査するしかないでしょ。」

確かに、これは大事件だ。でも、僕は面倒なことに巻き込まれたくない。だって、今まで面倒なことに巻き込まれて一度たりとも得をしたことがないからだ。




僕は、典型的な効率主義の人間だと自分自身で分析している。小学三年生くらいまでは、おそらくホタルのような性格だった。自分の興味があることにはすぐに飛びつき、好奇心のままに行動する。だからといって孤立するわけでもなく、周りの友人と共に遊ぶことに興じていた。そんなある日、僕が変化する大きな出来事が発生した。



あれは四年生の時のことだった。給食の時間の時、僕の目の前で一人の女の子がグループからハブられて、いじめにあうようになった。その子は、僕と小一の時から仲が良かった子だった。話しかけても無視をする。聞こえるようにその子の悪口を言う。最初はそんな程度だった。でも、だんだんとエスカレートしていった。給食に出てくる紙パックの牛乳をシェイクする。暴力的な行為も始まった。




グループというものは自然と周りと異なる人をハブく習性がある。例えば、周りの空気を読めないやつ、勉強ができないやつ、運動が苦手なやつ。挙げたらきりがない。でも、当時の僕は人がハブられるのを黙って見ていられなかった。だから、僕はその子を助けようと思ったんだ。




僕は、覚悟を決めた日から自分の抑えていた能力を解放した。「物体」の声を聞くこと、これは身の回りにある机や鉛筆などの声が聞こえるだけではない。人間の心の声や、犬、猫など、この世に「物体」として存在するものはなんでも聞くことができる。だから、僕は自分の能力を使っていじめを受けている子の元々いたグループの子たちの声を聞こうと思った。すると

『よかった。私が標的にならなくて。』

『とりあえず、この流れに乗ったままでいいや。』

『私に被害が来なければ、何をやってもいいよね。』

『私が悪いわけじゃない。あの子もこの子もやってたし。』




本当に、腹の底を超えて全身の至るところから「怒り」という、ものすごい「エネルギー」が湧いてきた。それは、時折僕を先走らせようとするけど、感情的になってはいけないとなんとか歯止めをかけていた。まだ、今じゃない。もっと、良い時があるはずだ。




よく考えてみると、「エネルギー」の根底は「熱」だった。物理的に熱が冷めるのと同じように、人間の心に灯った熱い炎もいつかは消えてしまう。そんな時には、自らを鼓舞した。こんな腐った人間の心理を誰が止める?誰が暴き出す?誰かがやらなきゃ人間というものは、群集心理に飲み込まれて堕落していくだけの「物体」になってしまう。ただ、上手に空気を読んで世渡り上手な人間だけが生き残っていき、クラスカーストの上位にいて、威張り散らかす人間が世の中に溢れていく。逆に、空気を読めない人間は社会不適合者というレッテルを貼られて、侮辱され蔑まれ、中には自ら命を絶つ者も出てくる。僕は世の中に疑問を呈したかった。それは


「人生の勝ち組になる方法は一本道なのか?」


だ。人生の勝ち組というものは、いろいろあると思うけど、あの時の僕は「グループ」の中で生き残った者のことをさしていた。



ここまでぐちゃぐちゃと僕のあの時の考えを述べてきたが、本当に精神的に追い詰められていった。だから、僕は全身に纏わりつく「熱」だったり「エネルギー」に抗えずに、暴力的な行動に出てしまった。最終的に僕の両親が呼び出された。そして、先生からもいじめていた子たちの両親からも、そして自分の両親からも怒号を浴びせられた。もちろんの如く、僕はクラスの中で悪者になってしまった。僕が解決しようと思っていたいじめは気づけばなくなっていたし、なんならいじめられていた子も僕を悪者にした。




正直、吐き気がした。いろんな人から裏切られた。クラスメイト、家族だけじゃない。僕自身にも裏切られた。もう少し詳しく言うと、「物体」の声を聞くという能力をもつ僕自身に裏切られた。頭の中で分かっていたはずだった。感情に身を任せてはいけないなんてことは。なのに、自分を止められなかった。一番信頼していたはずの自分自身に裏切られた。心の奥底でずっと向き合って、手を取り合って生きてきたもう一人の自分に裏切られた。




だから、僕は自分を自分で、動かないように氷らせて、出てこないように扉を閉めて、思い出さないように何重に鍵をかけた。ニコニコして生きていけばいい。僕があの時、気持ち悪いと吐き捨てたグループの子たちのように、大きな流れに身を任せればいい。自分からリスクがあるような行動にでない。そして、一番の元凶だった「物体」の声を聞く能力を人には使ってはいけない。もう、あの時のように、自分にとって割に合わない事をしない。効率よく生きていけば、きっと社会の中の勝ち組になれるはずだ。そう、信じていた。なのに、谷崎ホタルが僕の目の前に現れてから、僕はぐるぐると振り回されている。そして今この瞬間、「今」の自分が揺れて、中に眠っていた「過去」の自分が泣き叫んでいる。




どうして、閉じ込めたの?僕も、外に出たい!


うるさい!お前は黙ってろ!

僕の中で、僕が喧嘩している。苦しい。僕は、一体どうしたらいいの?







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