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文化祭編第一話  奇妙な文化祭の始まり

「スイ~、早く!始まるって!」

「はいはい。」


遂にやってきた文化祭当日。みんなが心弾ませて、文化祭が始まるのをいまかいまかと待ち望んでる。それは、クラスメイトだけでなく、今そこにある看板も。




「いやー、来ちまったな。俺・様・が輝いちゃう日が。」

まともなやつじゃなかった。今年の看板、ナルシストなやつだ。

「他の出し物すまんな。俺が美しすぎて、みんな見惚れちゃうぜ。」


 


ここまで説明すれば読者のみなさんはお分かりになるだろうが、僕はみんなと少し違った能力を持っている。それは、「物体」の声が聞こえてくるという能力だ。さっきのように、ナルシストな看板の声や、根暗なアルコールの声、看守みたいな黒板の声が聞こえる。なぜなのかは自分でもよくわからないが、物心が着いた頃から聞こえるようになっていた。




「あたしね、今日はお化け屋敷、カジノ、縁日を全部回りたい!」

「えー。めっちゃ人並ぶし、うるさいじゃん。」

僕の隣ではしゃいでいるコイツは同じクラスのホタル。なぜか僕のことをスイと呼ぶ。下の名前は翡翠なのに。




「いいじゃんいいじゃん。こういうものこそ、文化祭の花形なのに。つれないの。」

スンと、拗ねているホタル。そんな様子でも僕は騙されないぞ。本当は、めちゃくちゃ僕と文化祭を回りたがっているくせに。これで、仲良くなってくれないかな~と、コイツの頭の中でこう思っているんだろう。バレバレだ。




はっきり言っておく。僕は、クラスの中でいわゆる陰キャだ。入学式の時からいわゆる近寄ってくるな的なオーラを放ちまくった。おかげで前後、両隣の人たちからは引かれまくったけど。浮かれやすい僕は、この結果に満足していた。ちょうど一か月後、僕は後悔することになる。





毎年五月上旬、この学校では球技大会が開催される。チーム競技というものは、一般的に協調性が重視される。決して、個人の能力だけでは勝つことはできない。当時の僕は、このことがすっかり頭から抜けていた。

ある日の体育の時間だった。




「球技大会の競技は全部で二つ。ドッチボールとバスケットボール。それぞれ、やりたい方を選んでね。」



体育の先生が授業の最初、いきなり言った。浮かれまくっていた僕は、球技大会の存在など露ほども知らなかった。だから、心のなかでは嘘だろ・・・!?と驚愕していた。しかし、僕は元々人見知りであるため、誰か誘ってくれないかな~と、呑気に考えていた。今だったら、

「呑気に考えてるんじゃねえよ!」

と、喝を入れてやりたい。そのせいで、僕はこんな変な奴に絡まれることになってしまった。





「ねえ~、まだ決まってないんだったらさ、一緒にバスケにしない?」

「え、いいの!」

ほんっとうに、あの時の自分を殴ってやりたい。マジで、人を見極める目を持ち合わせたい。

「全然!私も、悩んでいたから。」

と、僕はコイツに上手く巻き込まれてしまった。

「あたしね、谷崎ホタル。よろしくね。」





これが僕の悲劇の始まりだった。それからというものの、何かあるごとにコイツに絡まれるようになってしまった。





グループ学習の時には、

「スイ~、一緒にやろ。」

「あ、いいよ。」

え、メンド。

と毎回誘われる。週末には

「スイ!一緒に遊ぼ!」

「え、いい…」

「よっしゃ!」

定期テストでは

「スイ!放課後、残って勉強しよ!」

「え、い…」

「やった!」

最後まで、言わせてよ…






こんな感じで、積極的に食いつかれて困った。コイツは、僕に構うだけでなく、クラスでもそこそこ目立つようなこともしている。

気づかれないように、僕は一つため息をつく。別にいいけどさ。ただ、面倒なことに巻き込まれなきゃいい。

「やっぱ、いいよ。だけど、混んでいる時間帯はやめてね。朝一とかの時間に行こ。」

「いいの!!!!」

やっぱり。コイツ、目を輝かせて、笑顔いっぱいじゃん。

「やっっっった!!!!!じゃあ…」

ホタルは、そう目を輝かせながら僕に次々とご飯の出し物など人気になりそうなスポットをどんどん挙げていく。こりゃあ、やっぱりめんどくさいことになりそー。






「ちょっといい?丸石さん。」

なんだ?知らないクラスメイトが急に話しかけてきたぞ。

「うん?」

おい、なんで他人のお前が反応してんだよ。

「急にごめんね。丸石さん借りてっていい?」

はい~~~~~~~?いやいやいや。この僕が?六月にあった合唱コンクールで、「中二病」って言われた僕が?クラスメイトに微妙に避けられ続けた僕が?そんなわけないだろ。きっと何かの聞き間違いだ。





「おーい、丸石さん?」

「はい!?」

うっそ。ガチだったわ。

「大丈夫?体調でも悪いの?」

やべ、心配させちゃった。

「いや、大丈夫だよ。それで、どうしたの?」

まずいまずい、いったん落ち着け。




「文化祭が始まる前に一回だけでいいから、占いの練習としてやらせてもらえないかな?」

すごく申し訳なさそうに頼み込むクラスメイト。こんな状況で断れるか。いや、無理だろ。

「全然いいよってあれ?」




険悪な雰囲気が急に流れ込んできた。発生源は、もちろんホタルだ。むっすーっとして、一瞬で不機嫌になってしまった。クラスメイトの子も、苦笑いしちゃってるじゃん。

「終わったら、一緒に文化祭まわろうね。」

これでどうにか不機嫌からは脱却してほしいけど、、、

「ホント!嘘言ってないね?じゃ、待ってる。」

良かった。なんとか持ち直してくれた。そんなホタルの様子を見て安心したのか、クラスメイトの子がタロット占いのブースに案内してくれた。




「失礼しまーす。」

恐る恐るブースの中に入ると、

「お、丸石さんじゃん。」

ばっちし占い師のような雰囲気を醸し出している黒田さんがいた。窓から差し込んでくる日光もあいまって、まぶしく見える。

「こ、こんにちは。」




思わず肩に力が入ってしまう。

「全然リラックスしていいのに。」

すわって、すわってと進める黒田さん。その流れに身を任せる僕。正直に言うと、僕は黒田さんのことが少し怖い。普段のクラスでは、ギャルのようなキャラだからだ。先生たちの目が厳しいから実際にやっていないが、私生活ではネイルをして爪を長くしたり、黒色のミニスカを履いてそうだ。そんなイメージの黒田さんが、占い師という怪しい雰囲気を持つ存在になっているんだから少し新鮮だ。




「ホタルちゃん、絶対拗ねてるでしょ?まったく、あの子らしいな~。」

あれ?黒田さんとアイツが関わる機会なんてあったのかな?全然思いつかないけど。

「あ~、ホタルちゃんとは中二の時の仲なの。」




なるほど。確かに、僕とアイツは中一と今年は同じクラスで中二は違うクラスだったからな。その時に仲良くなったのか。って、

「何で、僕の知りたいことが分かったの!?」

にししと、頬杖をつきながら怪しげに笑う黒田さん。

「私、ちっちゃいころから空気を読むことが得意なんだ。さっきも、丸石さんの表情を見てたら『何で、仲いいの?』って感じだったからさ。」




はあ、びっくりした。ここに僕と同じように「物体」の声が聞こえる人がいるのかと思った。

「じゃ、これ以上ホタルちゃんの頬を膨らませないためにもちゃちゃっと終わらしちゃおうか。」

そう言うと、黒田さんは近くにあったタロットカードの束をシャッフルして、机の上に置く。少し咳払いをして、口を開く。




「それでは、今日のあなたの運命を見てみましょう。」

これは、本格的だ。僕は装飾の方の担当で、文化祭当日では受付係だから占いの事はノータッチなのだ。

黒田さんが五枚のカードを取り出して並べる。僕も思わずゴクリと唾を飲み込む。一体、どんな占い結果になるのか。間違っても、アイツに振り回されて、面倒事に巻き込まれるのは嫌だ。どうか、早く占いの結果が出てくれ。そして、良い結果が出ますように。そんな僕の思いとは裏腹に黒田さんがゆっくりと一枚目のカードをめくる。




「このカードは愚者。愚者は、未知の冒険や予想外の出来事を表しています。きっと、あなたは今日、奇妙な何かに巻き込まれるでしょう。」

淡々と占い結果を伝える黒田さん。でも、僕の心はざわついていた。嘘だろ。もしや、あのホタルに振り回されてしまうのか…。




次にめくられたのは

「これは、月。月は、幻想や混乱。現実と夢の境目が揺らぐ、不思議な体験を示しています。」

不思議な体験?じゃあ、ホタルによる悪夢のような一日ではないのか。よかった。でも、不思議な体験?一体、どんなものなのかな?自然と体を乗り出して続きのカードを見る。次のカードは一体どんな運命を示すのか?

「そして、このカードは塔。これは価値観を根底から揺るがすような衝撃を意味します。奇妙な出来事は、あなたの当たり前を壊してしまうかもしれません。」




当たり前を壊すような出来事?どんどん謎が深まっていくぞ。ほんとに、今日は何が起きるんだか。じゃあ、次は?黒田さんが四枚目のカードを引く。ってこれは!?

「うん。丸石さんが考えている通り、これは死神。」

笑顔で答える黒田さん。いや、死神だぞ?そんなの笑顔で言うことか?

「大丈夫。死神は終わりであり、同時に新たな始まり。古い自分を手放すことで、新しい視界が開けます。」




良かった。いや、良かったのか?ここまでの情報をまとめると、予想外の出来事が起きて、しかもそれは価値観を根底から破壊するもので。そして、その出来事は新たな始まりでもある。いや、でも現実との境界が曖昧になるほど不思議な体験でもある。うーん。謎。不思議の国のアリスみたいなものなのかな?いや、そんな現実離れしてないはず。じゃあ、何?




「さて、最後のカード。これはカップの7。幻想的な選択肢を示します。まるで、金色のカップがポップコーンみたいな色ですね。もしかしたら、今日のあなたを守るラッキーアイテムかもしれません。」

ポップコーンか。うーん。謎が深まってきたぞ。黒田さんがニコニコしているけど、何か思い当たりでもあるのかな?自分の頬に手を添えて、考えてみる。一体、なんだろう。




「カホ~、まだなの?」

ホタルがひょこりとブースに顔を出す。えっ、コイツもしや占いの結果ずっと聞いてたの?嘘。今すぐに忘れてくれ!だって、個人情報みたいじゃない?占いって。その人の何か特別なことを伝えるものじゃん。それが、まさか、聞かれてたなんて。想像したくない!絶対、コイツ何かに使う気がする。




「ごめん、ホタル。今、終わったとこだから。ほら、丸石さんを返すね。」

いや、僕は物か。なんで、黒田さんとアイツで貸し借りされてんの。

「よかった。じゃ、スイ行こっか。」




ホタルが僕の手を握って教室から出ていこうとする。

「ちょっと待ってよ。」

ホタルに声をかけるけど、反応してくれない。まったく、目の前の楽しみなことにしか目がないんだから。



なんとか僕は後ろをむいて

「黒田さん、ありがとね。」

と感謝の言葉を伝えることができた。

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